大学入学前の準備として文章を書くトレーニングを積んでおきましょう

大学での学び
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高校に出張講義に行ったときやオープン・キャンパスなどで対応をしていると、すでに総合型選抜・学校推薦型選抜に合格している高校生や保護者の方々から「大学に入学するにあたってどのような準備をしておけばよいか」といったことを聞かれることがよおくあります。

進学する学部・学科で必要とされるものはさまざまなので絶対的なものはないのですが、私が担当する簿記・会計科目が設置されている商学部・経営学部系統のみなさんに対しては、「文章を書くトレーニングをしておいた方がいい」と答えることが多いです。

大学において求められること(高校までとの違い)

大学に入ると、書くことが求められる機会が圧倒的に増えます。多くの科目では、毎回の講義が終わるごとにその講義の内容をまとめたり、意見を述べたりするミニッツ・ペーパー(リアクションペーパー)が求められますし、期末試験に代えてレポート課題をもって成績評価が行われることもめずらしくありません。どれだけ講義の内容を理解していても、その理解していることを文章の形で表現する力がなければ、望ましい評価を受けることはできないでしょう。

大学では、「どれだけの知識があるか」というよりも「知っている知識をどのように活かしていく」が重視されます(応用力、適応能力)。したがって、これまでみなさんが受けてきたテストのように、言葉を答えさせたり、すでにある選択肢から正解を選ばせたりといったことはほとんどなく、自分の言葉で論理だてて説明することが求められます。現実の世界には、「穴埋めする問題文」や「ヒントとなる選択肢」などないのですから、自分の頭でゼロから論理を組み立てていかなければなりません。

よく「学校の勉強は役に立たなかった」という大人がいますが、そのような人の多くは、この「知識を活用する」というトレーニングを十分に積むことができなかった人です。高校までのイメージで大学の勉強や試験をとらえて、高校までと同じように勉強に取り組んでいると、せっかく大学で学ぶ機会を得たにもかかわらず、その機会を棒に振ってしまうことにもなります。

「日本人だから日本語は問題ないだろう」という錯覚

高校生のみなさんは、普段、日本語でご家族や友人のみなさんとコミュケーションをするときに、自分の話が相手に通じなかったり、相手の言うことが理解できなかったといったことはほとんどないでしょう。そのようなこともあり、自分の日本語には問題がない、文章の書き方をわざわざ勉強する必要はないと多くの人は考えてしまいがちです。

しかし、このようなコミュニケーションというのは、単に言葉がうまく使えているから通じているというわけではありません。互いに理解している間柄であれば、たとえ言葉が足りないところがあったとしても、それまでの経験などから「このようなことをいいたいのだろうなあ」と足りないところを補ってくれます。この相手が補ってくれている部分というのは言葉を発した側には見えませんので、実は自分の発した言葉が不十分であったということに気づくことは難しいのです。

あまり付き合いのない先生や、アルバイト先やボランティア先ではじめて会う人と話してみると、「自分の話がなかなか通じないなあ」「相手が何を言っているかわからないなあ」といったことを感じることがあるでしょう。お互いにお互いについての情報がありませんから、相手の言葉から何を言いたいかを推測することができないのです。みなさんの日本語能力は、この「初めて会った人とのコミュニケーションがどれだけうまくいくか」によって評価しなければなりません。

多くの人は、普段行っているコミュニケーションと初見の人とのコミュニケーションとの間に差があると思います。この差が、普段、気心の知れた人が補ってくれている=日本語能力が足りていない部分です。

近年では、社会的なつながりが希薄になってきていることや、核家族化、SNSの普及もあり、気心の知れた人とばかりつきあっているという人が増えてきています。みなさんは、今年に入って、どれだけ新しい人に出会ったでしょうか。初めての場に飛び込む機会があったでしょうか。「新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大でそれどころではなかった」という人もいるでしょうが、感染拡大前はどうでしたでしょうか。気心の知れた人とばかりつきあっている間に、日本語能力(伝える力)はどんどんと落ちていきます。

会話よりも書く方が圧倒的に難しい

会話は、短い言葉をお互いに交わしていく形で進んでいくので、自分が一人で延々と話し続けることはありません。このため、会話の間に論理的なつながりを意識することもほとんどなく、しばらく話している間に話題がコロコロ変わってしまうといったことも珍しくありません。また、おかしいことをいってしまったとしても相手の人から「どういうこと?」と聞いてもらうこともできます。

しかし、ミニッツ・ペーパー(リアクション・ペーパー)にしろ、レポートにしろ、自分ひとりで書き連ねていかなければなりませんから、文章の前後で矛盾が生じていたり、途中で話題が変わってしまうといったことも避けなければなりません。しかも、書いている途中で他の人からツッコミをいれてもらうこともできませんから、このような点については自分で注意しなければならないのです。

また、会話のなかではほとんど必要とされない、前後の文章をつなぐための文章(話題を展開するための文書)や、「次に」「しかし」「なぜならば」といった接続詞も必要になります。さらには、普段の会話では意識をする必要がなかった漢字の知識も必要です。ミニッツ・ペーパー(リアクション・ペーパー)やレポート課題に予測変換は使えませんから。

大学入学前に練習しておいてほしいこと

書く力は1日書かないだけでも落ちてしまうとよく言われており、私も年々その言葉の重みを実感しています。3月も残り20日ほどありますので、まずはこの20日何でもいいので書いてみてください。最低でも400字ほど、できればもう少し長めの文章を書いてみましょう。文章を創作するのは難しいので、その日にあったことをまとめたり、書籍や雑誌の内容をまとめてみたりといったことがよいのではないでしょうか。文章を書くにあたっては、次のような点を意識しましょう。

サポートツールを使わない

みなさんの多くは、スマートフォンを使って文章を書く機会が多いかと思いますが、文章を書くトレーニングをするときは手書きで書くようにしましょう。予測変換などのサポートツールを使えないようにするためです。自分の頭にある知識のなかでどれだけ書けるかということを大切にしてください。書きたい言葉が出てこない、漢字が分からないといったことを自覚するのが大切です。サポートツールが使えてしまうと、このような悔しい気持ちを味わうことができません。

近年では、「知りたいことはネットで調べられるから」といった論調で覚えることを軽視する人が増えていますが、それは間違いです。英語の授業の予習をするときに英単語の意味を辞書で調べただけで疲れてしまったという人も多いと思いますが、必要なことを片っ端から調べていると、本当に大切なこと(英語の授業の場合は、文章の意味をつかんだり、内容を理解すること)までたどり着くことができません。頭のなかに必要な知識が入っていなければ、いいミニッツ・ペーパー(リアクション・ペーパー)やいいレポートを書くところまで気が回らなくなってしまいます。

悔しい思いをしたら、思い出せなかった言葉や漢字をしっかりと調べましょう。小学生のとき以来、国語辞典も漢和辞典もひいたことがないという人はいませんか。「辞書は面倒くさい。ネットで調べればいいじゃないか」という人もいるかと思いますが、手間をかけたからこそ身につく知識もあります。楽に調べたものは、残念ながらすぐに記憶からなくなってしまいます。

一文は短く

「文」とは、句点(。)から句点(。)までの部分を言います。長い文は、全体の意味を一目で捉えることができませんし、途中で話題が変わってしまったりといったことが起きやすいので、一文を短くまとめることを意識してください。

すべての文章には、主語と述語を1つずつ入れるようにしてください。0個でも2個以上でもなく、1個ずつです。普段の会話では、主語を省略して話すことが多いので、はじめはすべての文章に主語を入れるということに違和感をおぼえるかもしれませんが、トレーニングだと思ってやってみましょう。また、述語の数もしっかり数えてください。「~して、」「~なので、」「~だから、」といったように文をどんどんつなげてしまうと、述語の数も増えていってしまいます。

大学で書く文章は、とにかく伝わることが重要です。みなさんのことをほとんど知らない教員や他の学生が見る文章です。普段の会話よりも圧倒的に伝わりにくいわけですから、文章をできるかぎりシンプルにして、何がいいたいかをパッと見でわかるように工夫する必要があります。

感想や意思表明を混ぜない

文章には、みなさんの感想や意思表明を極力入れないようにしてください。よくミニッツ・ペーパー(リアクション・ペーパー)やレポートで、「この講義を聞いて○○だと思いました」とか「私も△△を意識して生きていきたいと思います」といったことが書いてあるのですが、これはいけません。

みなさんが書く文章は「成績評価に使用される文章」です。慣れ親しんだテスト形式ではありませんが、成績評価のために使うという点に変わりはありません。したがって、ミニッツ・ペーパー(リアクション・ペーパー)については、みなさんが講義の内容を理解したことを読み取れるような文章を書かなければなりません。講義外で課されるレポートについても、課題で求められていることに答えることが何よりも重要になります。

感想や意思表明は、ほとんどの場合、採点の対象とはならずに無視されます。講義や課題を通じてみなさんが何を思うかはまったくの自由です。教員はみなさんを洗脳しようとしているわけではありませんから、みなさんの思想が自分の(教員側の)思想とあわないからといって点数を下げるというのは、教員として失格です(そのような教員がいないとはいいませんが)。

しかし、感想や意思表明を混ぜないというのは、意識してやらないと難しいです。普段の会話は、完全に主観を交えた形で行われていますし、高校までの読書感想文や小論文指導などで感想を交えることはいいことだという「刷り込み」が行われてしまっていることもあるでしょう。感想や意思表明の混ざっていない文章を書けるようになるためには、一度、文章を書いてみたあとに、その文章のなかに感想や意思表明が混ざっていないかをチェックするといった地道な作業を通じて、この「刷り込み」を解いていく必要があります。


書店には文章を書くにあたって参考になる書籍が数多く販売されています。大学受験用の小論文テキストではなく、大学生向けのレポート・論文を書くことを前提としたものを探してみてください。多くの人は、大学卒業後の進路として就職を考えているかと思いますが、近年の就職活動では、エントリー・シートと称してたくさんの文章を書くことが求められるのが一般的です。今後、文章を書く機会は非常に多くありますので、頼りになる書籍を手元に置いておくといろいろな場面で活用することができます。

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