商品については、貸借対照表上に表示される金額を適切なものとするために、決算にあたって、実際の数量を確認し、不足が生じている場合にはその不足分の金額を商品の帳簿価額から差し引くことが必要となります(棚卸減耗損)。また、商品の取得原価よりも売却によって得られると見込まれる金額(正味売却価格)が低い場合は、その正味売却価格まで帳簿価額を引き下げなければなりません(商品評価損)。
この記事では、このような実際の商品の動きをともなわない帳簿価額の減額を、商品有高帳上どのように記録していくかについて、先入先出法で記帳を行っているケースを例に見ていきます。
- 先入先出法による商品有高帳の記帳①(仕入・仕入返品・仕入値引)
- 先入先出法による商品有高帳の記帳②(売上・売上返品・売上割戻)
- 先入先出法による商品有高帳の記帳③(棚卸減耗損・商品評価損) この記事
棚卸減耗損の記帳
棚卸減耗損とは,商品などの棚卸資産について会計帳簿に記録されている数量(帳簿棚卸高)よりも,実際に倉庫のなかや店舗で数えて確かめた数量(実地棚卸高)が少ないときに計上される損失のことをいいます。記録上は100個あるはずなのに,実際に数えてみたら98個しかなかったという場合は,所在がわからなくなった2個分が棚卸減耗損の対象となります。
先入先出法は、先に仕入れた商品から先に払い出していくと仮定して払出単価を決定していく考え方になります。このため、商品有高帳の残高欄には、商品を仕入れたタイミングが分かるように、同じ商品であっても、仕入れのタイミングごとに別々に記録が行われていきます。
棚卸減耗損の記録にあたっても、この先に仕入れた商品から先に払い出していくという考え方を踏襲します。すなわち、先に仕入れた商品の所在が分からなくなったと考えるわけです。
【設例1】3月31日、決算にあたり、商品の実地棚卸数量を確認したところ22個であった。この商品についての商品有高帳上の記録が次のようになっていたとして、棚卸減耗損の記録を追加しなさい。
商 品 有 高 帳 | |||||||||||
月 | 日 | 摘要 | 受 入 | 払 出 | 残 高 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
( 中 略 ) | |||||||||||
3 | 31 | 10 | 520 | 5,200 | |||||||
15 | 500 | 7,500 |
この設例の場合、倉庫に10個残っている単価520円の商品の方が先に仕入れた商品ということになりますから、棚卸減耗損の記帳をするにあたっては、この単価520円の商品の所在が分からなくなったと考えます。
この商品について、帳簿上、残っているはずの数量は25個(=10個+15個)、実地棚卸数量(実際に数えて所在を確認した数量)は22個ですから、棚卸減耗損は3個になります。したがって、単価520円の商品3個が失われたと考えて、次のように記帳を行います。
商 品 有 高 帳 | |||||||||||
月 | 日 | 摘要 | 受 入 | 払 出 | 残 高 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
( 中 略 ) | |||||||||||
3 | 31 | 10 | 520 | 5,200 | |||||||
15 | 500 | 7,500 | |||||||||
〃 | 棚卸減耗損 | 3 | 520 | 1,560 | 7 | 520 | 3,640 | ||||
15 | 500 | 7,500 |
商品有高帳への記帳方法は、商品を売却したときの方法と同じです。払出欄に数量(3個)、単価(520円)を記入し、両者を掛けあわせて金額(1,560円)を計算します。
商品評価損の記帳
商品評価損とは、商品の取得原価よりも、その商品を売却したときに得られると見込まれる金額(正味売却価格。売価から売却費用を差し引いた金額)が小さくなっている場合に、商品の帳簿価額をその正味売却価格まで切り下げたときに生じた損失額(帳簿価額の切下額)のことをいいます。商品評価損の計上は、企業が保有している商品について、将来に損失(売却損)が生じる可能性が生じていることを、財務諸表上でも明らかにするために行われる手続です。
さて、商品評価損が生じている場合には、商品有高帳への記帳はどのように行えばよいのでしょうか。
【設例2】(設例1のつづき)期末に保有している商品22個について正味売却価格を調べたところ、商品1個あたり400円まで低下していた。帳簿価額と正味売却価額の差額を商品評価損として計上する。
【設例1】で棚卸減耗損の記帳を行った後の状況は、単価520円の商品が7個、単価500円の商品が15個となっています。どちらの単価よりも正味売却価格400円の方が小さいので、商品評価損を計上しなければなりません。
単価520円の商品については、単価を1個あたり120円(=520円-400円)切り下げる必要があります。この商品は7個残っていますので、この単価520円の商品についての帳簿価額の切下額は840円(=120円×7個)となります。
一方、単価500円の商品については、単価を1個あたり100円(=500円-400円)切り下げる必要があります。この商品は15個残っていますので、この単価500円の商品についての帳簿価額の切下額は1,500円(=100円×15個)となります。
以上から、この商品の帳簿価額の切下額は、合計2,340円(=840円+1,500円)となります。
これを商品有高帳に記帳すると、次のようになります。
商 品 有 高 帳 | |||||||||||
月 | 日 | 摘要 | 受 入 | 払 出 | 残 高 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
( 中 略 ) | |||||||||||
3 | 31 | 10 | 520 | 5,200 | |||||||
15 | 500 | 7,500 | |||||||||
〃 | 棚卸減耗損 | 3 | 520 | 1,560 | 7 | 520 | 3,640 | ||||
15 | 500 | 7,500 | |||||||||
〃 | 商品評価損 | 2,340 | 22 | 400 | 8,800 |
まず、払出欄に帳簿価額の切下額を記入します。商品の単価を切り下げるだけで、個数は変わっていませんので個数欄の記入は必要ありません。また、個数がないので、単価欄の記入も必要ありません。
次に、残高欄ですが、今回の帳簿価額の切下げにより、先に仕入れた商品の単価も後から仕入れた商品の単価も同じ400円となってしまいました。単価が同じになり、両者を区別しておく必要もなくなったので、残高欄の記入も1つにまとめてしまいます。
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