売上割引の処理(重要な金融要素を含まない場合)

簿記債権債務商品売買収益認識
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商品を掛けで売り上げたときに、売掛金の早期の回収を促すため、契約に「掛代金を早く支払った場合は、掛代金の支払いを一部免除する」という条項をつけることがあります。このとき、掛代金(売掛金)が早く支払われたことにより支払いを免除することとなった金額のことを売上割引といいます

売上割引は、当初の支払期日よりも前に代金を支払ってもらったときに発生するものなので、これは取引先からこの期間お金を貸してもらっている(前借りしている)状況であるともいえます。このため、売上割引は、金融機関からお金を借り入れたときに支払う利息と同じような性格を有しています

利息と同じ性格のものである以上、厳密にいえば、この金額は商品の売上等の履行義務を充足したことによって計上される収益の額とは別に処理しなければなりません。しかし、その金額の大小や支払いまでの期間の長さから期間損益計算に与える影響が重要でないと認められる場合については、このような厳密な処理によらずに処理することが認められます(「収益認識に関する会計基準」第56項~第58項、「実務指針」第27項)。

このような場合は、割引を行うかどうかによって変化する回収金額を変動対価として位置づけたうえで、その状況に応じた処理を商品の販売時から行っていくことになります。

取引価格の見積もりにあたって、変動対価と重要な金融要素はそれぞれ別々に評価しなければならないものであるとされているため(「収益認識に関する会計基準」第48項)、重要な金融要素に該当するものがないからといって、ただちに取引価格の調整が不要になるということはありません。

商品を売り上げたときの処理

企業が確実に受け取ることができると見込まれる部分の金額の見積もり

取引先に対して、「掛代金を早く支払った場合は、掛代金の支払いを一部免除する」ことを約束した場合、企業が受け取ることになる対価の額としては、次の2つのパターンが考えられます。

  1. 掛代金が早く支払われた場合……割引額が控除された後の金額を受け取る
  2. 掛代金が早く支払われなかった場合……割引前の金額(当初の売掛金の額)を受け取る

企業が受け取ることのできる金額が状況によって変化する場合、この状況によって変化する対価の額のことを変動対価といいます。売上割引の場合は、支払いが免除される部分(割引金額)がこの変動対価に相当します。

顧客との契約金額のなかに変動対価が含まれている場合、収益の認識にあたっては、契約金額のうち企業が確実に受け取ることができると見込まれる部分の金額をあらかじめ見積もり、それ以外の部分を取り除いておく必要があります。後から取り消されてしまう可能性の高い金額を収益として計上してしまうと、それだけ損益計算書上で収益として計上される金額が実態よりも大きくなってしまうからです。

企業が確実に受け取ることができると見込まれる部分の金額は、次のいずれかの方法によって見積もります(「収益認識に関する会計基準」第51項)。

  1. 最頻値による方法
  2. 期待値による方法

設例による仕訳の説明

最頻値による方法

【設例1-1】商品100,000円を売り上げ、代金は掛けとした。なお、代金については販売日から30日以内に支払うことを要請しているが、7日以内に支払った場合には1%の割引を行うこととしている。これまでの取引実績から、同種の取引において7日以内に支払いが行われる可能性は20%であると見込まれており、取引価格は最頻値による方法で見積もることとする。また、商品の引渡し以外の履行義務および売上割引以外の変動対価について考慮する必要はない。

最頻値による方法とは、将来に発生すると見込まれる可能性が最も高い場合の金額を「企業が確実に受け取ることができると見込まれる金額」とする方法をいいます。

この設例の場合、売上割引が行われる可能性は20%、行われない可能性は80%なので、最も可能性が高いのは、売上割引が行われないケース(7日以内に支払いが行われない場合)ということになります。売上割引が行われない場合、売掛金100,000円を割引なしに回収することになりますから、これが収益のもととなる取引価格となります。

商品を売り上げたときは、この取引価格100,000円を使用して、次のように仕訳を行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
売掛金100,000売上100,000

期待値による方法

【設例1-2】商品100,000円を売り上げ、代金は掛けとした。なお、代金については販売日から30日以内に支払うことを要請しているが、7日以内に支払った場合には1%の割引を行うこととしている。これまでの取引実績から、同種の取引において7日以内に支払いが行われる可能性は20%であると見込まれており、取引価格は期待値による方法で見積もることとする。また、商品の引渡し以外の履行義務および売上割引以外の変動対価について考慮する必要はない。

期待値による方法とは、将来に発生すると見込まれるすべてのケースについてそれぞれのケースで回収できる金額を見積もったうえで、その金額に見込まれる発生確率を掛けた金額の合計額(期待値)を「企業が確実に受け取ることができると見込まれる金額」とする方法をいいます。

この設例の場合、企業が受け取ることのできる金額の期待値は、次のように求めることができます。

  • 割引あり:(100,000円-1,000円)×20%=19,800円
  • 割引なし:100,000円×80%=80,000円
  • 期待値:19,800円+80,000円=99,800円

この期待値99,800円がこの契約において収益の額を計算するうえでの基礎となる取引価格となります。なお、販売した商品の対価として受け取る予定の100,000円とこの期待値99,800円の差額は、返金負債勘定に計上します(「収益認識に関する会計基準」第53項)。売上割引は、返金として行われるものではありませんが、ここでは会計基準上で使用されている言葉を使って処理しておきます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
売掛金100,000売上99,800
  返金負債200

売上割引が発生したときの処理

その後、売掛金が早期に支払われ、売上割引が発生したときの仕訳は、売掛金の支払免除額(売上割引の額)と、その直前における返金負債勘定の残高との大小関係によって、その処理方法が変わります。

なお、ここで売上割引発生直前の返金負債勘定の残高とは、そこで支払われた売掛金に係る商品の販売時に計上した返金負債の額ではなく、返金負債勘定に計上されている金額全体を指します。この勘定全高全体を利用する方法は、貸倒れが発生したときの貸倒引当金の取り崩しと同じ考え方によるものです。

売上割引の額≦返金負債勘定の残高の場合

【設例2-1】売掛金100,000円について、売上割引に係る契約において定められた期間内に支払いが行われた。割引額は1,000円であり、残りの99,000円は先方振出の小切手で受け取った。なお、同日における返金負債の残高は5,000円であった。

まず、この企業は、99,000円を小切手で受け取りました。他人振出小切手は通貨代用証券にあたりますので、この99,000円は現金勘定に記録します

次に、回収した売掛金に係る記録を消滅させます。この設例において、企業は99,000円しか受け取っていませんが、消滅させる売掛金の額は100,000円です。差額の1,000円についても、支払いを免除してしまっているため、「将来に回収できる金額」ではなくなっているからです。

最後に、支払いを免除した部分の処理です。支払いを免除した金額(売上割引の額)が返金負債勘定の残高以下の場合は、この金額を返金負債勘定を取り崩すことによって埋め合わせます。この設例において、支払いを免除した1,000円は返金負債の残高5,000円以下ですから、返金負債勘定を取り崩すことによって埋め合わせます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金99,000売掛金100,000
返金負債1,000  

 

この場合、売上勘定に計上した収益の額を減らす必要はありません。それは、返金負債を計上したとき(商品を販売したときなど)に、収益の額を計算する上での基礎となる取引価格から取り除いてしまっている(すでに収益の額が減らされてしまっている)からです。

売上割引の額>返金負債勘定の残高の場合

【設例2-2】売掛金100,000円について、売上割引に係る契約において定められた期間内に支払いが行われた。割引額は1,000円であり、残りの99,000円は先方振出の小切手で受け取った。なお、同日における返金負債の残高は200円であった。

売上割引の額が返金負債勘定の残高を超える場合は、返金負債勘定の残高をすべて取り崩すとともに、支払免除額(売上割引の額)と返金負債の取り崩し額との差額(取り崩し不足額)は収益の勘定(売上)から差し引きます。

売上割引は、本来、利息としての性格をもつため、商品の売上に係る収益の額から直接マイナスする(売上が減ると考える)ことには違和感もあります。しかし、「企業が権利を得ることとなる対価」と見込まれない金額については、はじめから収益の額を計算するうえでの基礎となる取引価格から取り除くこととされていることを考えれば、返金負債勘定の残高が不足する場合は、この「事前に取り除いておくべき金額」が足りなかったものとして処理するのが妥当でしょう。

この設例では、売掛金の支払免除額1,000円に対して返金負債の額は300円しかありませんから、残りの700円については売上勘定から差し引きます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金99,000売掛金100,000
返金負債300  
売上700  

 

売上割引を行ったタイミングで返金負債勘定の残高がゼロである場合は、返金負債勘定を取り崩すことができませんので、その全額を収益(売上)を減らすことで処理します。

売上割引が発生しなかった場合

【設例3】売掛金100,000円について、商品の販売から30日後(売上割引が認められる期間内の日ではない)に先方振出の小切手で受け取った。

売上割引は、売掛金が早く支払われたときに発生するものですから、その条件が満たされなかったときは、当初の予定通り、商品の販売代金がそのまま回収されることになります。この場合は、次のように、通常通り、売掛金を回収する仕訳を行って構いません。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金100,000売掛金100,000

 

なお、商品を売り上げたときに返金負債を計上していても、代金の回収時にこれを取り崩す必要はありません。【設例2-1】【設例2-2】でもそうでしたが、売上割引の可能性がある取引を行ったときの仕訳と、代金を回収したときの仕訳とは別のものとして考えるからです。

なお、返金負債は、毎期、決算にあたって見直しを行うこととされています。その結果、返金負債勘定の残高に過不足があると判断された場合は、このタイミングで残高を調整することになります(「収益認識に関する会計基準」第53項)。

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代金を予定よりも早いタイミングで支払ったことにより発生する割引額は、本来、利息と同様の性格を有してます。売手側については、収益の認識を慎重に行う必要があるため、収益(売上)の額を調整するところから考えるという処理が行われていますが、買手については、このようなことを考慮する必要がないので、本来の性格通りに利息としての処理が行われます。同じ取引であっても、売手側と買手側とで仕訳の考え方が違いますので、その違いをあわせて確認してください。

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