企業は、簿記を行うにあたって、自由に勘定を設定することができます。しかし、何の手掛かりもなく「自由に勘定を設定することができる」と言われてもどうしたらよいかわからないというのが普通でしょう。この記事では、一定の記帳を行うことで税務上の特典を受けることができる青色申告を行ううえで必要とされる青色申告決算書に記載が求められる各勘定のうち、損益計算書に係るものについて見ていくことにします。
なお、会社を設立している場合には、青色申告決算書の定めにかかわらず、作成した財務諸表をそのまま提出することができます。したがって、この青色申告決算書上の勘定科目がそのままの形で使われる企業というのは、会社を設立せずに個人で事業を行っているケースが中心となります。しかし、会社に対して適用される「会社計算規則」には、参考とすべきひな形が示されていないことから、この青色申告決算書上の勘定科目は、会社を設立している場合にとっても大いに参考になるものといえるでしょう。
青色申告決算書(損益計算書)に記載が求められる勘定
青色申告決算書にはいくつかの種類のものがありますが、この記事では、そのなかでも最も一般的である所得税青色申告決算書(一般用)【令和2年分以降用】に記載が求められる勘定について見ていきます。この一般用の青色申告決算書やその他の種類の決算書については、以下の国税庁のページにすべてまとめて掲載されていますので、興味のある人は参照してください。
青色申告決算書(一般用)の損益計算書での記載が求められる勘定は以下の通りです。
- 売上(収入)金額(雑収入を含む)
- 売上原価
- 期首商品(製品)棚卸高
- 仕入金額(製品製造原価)
- 期末商品(製品)棚卸高
- 差引原価
- 経費
- 租税公課
- 荷造運賃
- 水道光熱費
- 旅費交通費
- 通信費
- 広告宣伝費
- 接待交際費
- 損害保険料
- 修繕費
- 消耗品費
- 減価償却費
- 福利厚生費
- 給与賃金
- 外注工賃
- 利子割引料
- 地代家賃
- 貸倒金
- 雑費
- 各種引当金・準備金等
- 繰戻額等
- 繰入額等
- 青色申告特別控除額
- 所得金額
収益
会社を設立せずに営まれている個人事業の収益は、売上金額のみとなります。個人に対して課される所得税の計算は、事業所得、給与所得、譲渡所得、利子所得といったように所得の種類に応じて別々に行われます。このため、事業所得のみをターゲットとする青色申告決算書では、事業から生じた所得(=売上)以外の所得は原則として取り扱われません。
この点は、会社が、その会社の名で行われた活動から生じた収益の額をすべて損益計算書に計上することと取り扱いが異なりますので注意が必要です。
売上原価
次に、売上と個別に対応できる費用として売上原価の計算を行います。売上原価とは、その年に販売された商品の仕入れに要した金額(取得原価)です。100円で仕入れた商品を300円で売り上げたら利益は200円となりますが、この利益を計算するにあたって売価と比較される原価のことを売上原価といいます。
売上原価は、期首商品棚卸高に当期商品仕入高を加え、そこから期末商品棚卸高を差し引くことで計算します。したがって、商品の売上原価を取引ごとに把握しておく必要はありません。なお、分記法のように販売時に利益を計算してしまう方式で記帳しているときは、仕訳上、当期中に仕入高の記録が残っていませんから、別途、商品の仕入高を補助簿などにまとめておき、青色申告決算書の作成に備えておかなければなりません。
経費
経費とは、事業を進めていくにあたって要した費用のうち、売上原価以外のものをいいます。経費については、その内容を表す適切な勘定を設けて記録しなければなりません。青色申告決算書には、以下の17項目の経費が記載されていますので、これらに該当するものについては、そのまま会計帳簿上の勘定科目として使ってしまえばよいでしょう。
- 租税公課:企業が納付する税金や、役所に対して支払う手数料・同業者組合に支払う会費など(公課)を集計します。ただし、税金のうち、企業の利益に対して課される税金(法人税、住民税、事業税など)については、租税公課欄には集計しません。
- 荷造運賃:商品等を発送するために要した包装、梱包などの費用(荷造費)、商品等の運送・配送に要した費用(運賃)
- 水道光熱費:水道料金、電気料金、ガス料金等
- 旅費交通費:出張等に要した宿泊費(旅費)、公共交通機関・タクシーなどの料金(交通費)
- 通信費:電話料金、郵便料金、インターネット接続料金等
- 広告宣伝費:ポスター、CMなどの作成費(不特定多数の人から耳目を集めるために支出するもの)
- 接待交際費:取引先等への贈答品の購入代金、接待費用など(特定の相手との関係強化、何らかの見返りを期待して支出するもの)
- 損害保険料:損害保険料として支払う金額
- 修繕費:建物や備品、機械等を修繕・修理した際に支払う金額
- 消耗品費:消耗品の購入に要した費用(税法上、取得価額10万円未満または使用可能期間が1年未満であるものについては、原則として、消耗品費として損金経理することが可能です)
- 減価償却費:建物や備品等について、その取得原価のうち当期分の経費として計上した金額
- 福利厚生費:慶弔費や社内の懇親会費、社宅の維持管理費など、従業員の福利厚生のために支出する費用
- 給料賃金:従業員に対して支給した給料や賃金(手当等を含める場合もある)
- 外注工賃:製造工程の一部を外部に委託した場合のその委託賃
- 利子割引料:借入を行った場合に金融機関等に支払う利子、手形を割り引いた際に支払う割引料
- 地代家賃:家賃として支払う金額
- 貸倒金:第三者に対する金銭債権のうち、貸し倒れ(支払いを受けられないこと)になった金額(貸倒損失)
なお、これらのいずれにも該当しないものについては、(25)~(30)欄が空欄になっていますので、自分でオリジナルの勘定を設けたうえで、これらの欄に記入していくことになります。ただし、売上(収入)と比べて金額が非常に小さいもの、重要性が低いものについては、個別の勘定を設けずに、雑費((31)欄)として処理してしまうこともできます。
これらの金額は、原則として発生主義により計上します。発生主義とは、現金の支払いが実際にあったかどうかにかかわらず、当期の費用とされるべきものはすべて当期の費用として計上するという考え方のことをいいます。
各種引当金・準備金等
現在の「所得税法」では、貸倒引当金と退職給与引当金の2つの引当金を計上することが認められています。引当金とは、当期以前の事象に起因して次期以降に発生すると見込まれる費用または損失の額を、実際に費用や損失が発生する前に前倒しで計上したものをいいます。将来に貸倒が見込まれる場合や、将来の使用人の退職時に退職金を支払うこととなっている場合は、これらのうち当期分に相当する金額を引当金に繰り入れることになります。
準備金は、特別償却、圧縮記帳など、所得税法上で認められる処理を行ったときに使用されるものになります。その計上については、「所得税法」の規定にしたがって適切に処理を行う必要があります。
また、引当金・準備金等には、これらのほかに専従者給与も計上されます。専従者給与とは、事業主の親族に対して支払う給与のことで、青色申告を行っている場合には、事前に届け出た金額を給与として当期の所得(所得税の算定基礎となる金額〈課税標準〉)から取り除くことができます。
青色申告特別控除額、所得金額
最後の青色申告特別控除額および所得金額は、会計上使用される勘定ではなく、税務上の項目(事業所得に対する所得税の額を計算するための項目)になります。
青色申告特別控除額は、正規の簿記の原則にしたがって青色申告決算書を作成し、税務申告を行った事業主に対して、当期の所得から取り除くことが認められる金額をいい、10万円、55万円、65万円のいずれかの金額になります(2020年分に係る所得金額に対する税率)。
最後の所得金額は、売上(収入金額)から経費、引当金・準備金等の繰入額、青色申告特別控除額を控除した残りの金額となります(ただし、引当金・準備金の戻入額は所得金額に加算する)。事業所得に係る所得税の額はこの金額をもとに計算されます。
この記事では、青色申告決算書における損益計算書項目について見てきました。個人事業主がはじめて簿記を行う場合は、これらの損益計算書項目を勘定として設定して、日々の記録を行っていくとよいでしょう。なお、貸借対照表項目については、また別の記事で紹介しますので、そちらも参照してください。
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