医療法人が開設した一般病院の損益状況の変化(2011年度~2018年度)

研究
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この記事では、医療法人が開設した一般病院の損益状況の変化について、『医療経済実態調査(医療機関等調査)』をもとにまとめていきます。『医療経済実態調査(医療機関等調査)』では、2013年に実施されたの第19回調査から、直近2会計年度における各年の金額が調査されています(以前は、1か月分(6月)の金額しか調査されていませんでした)。

なお、便宜上、X年に結果が発表された金額については、X-2年度、X-1年度の金額として表記しています。たとえば、2019年に結果が発表された第22回調査分の結果については、2017年度、2018年度として表記します。また、調査回ごとに調査対象となる医療機関が変更されるため、厳密にいえば、数値の連続性はないのですが、その調整手段がないことから連続性の問題は無視しています。また、『医療経済実態調査(医療機関等調査)』では、介護収益が医療・介護収益の2%未満となる医療機関のデータのみを対象とした集計1と、すべての有効回答施設のデータを集計した集計2の2つの集計表が示されていますが、この記事では集計2の方をとりあげていきます。

収益の状況

収益総額の推移

医療法人立一般病院の収益の額(医業収益、介護収益およびその他の医業・介護関連収益の総額)は、第19回調査(2011年度・2012年度)と第20回調査(2013年度・2014年度)との間で1割ほどの増加が見られたものの、その後は横ばいから微減といった状況になっています。

医業収益の構成要素別にみた変化の状況

主たる収益源となっている医業収益は、入院診療収益、特別の療養環境収益、外来診療収益およびその他の医業収益の4つに分類されます。その構成割合は、入院診療収益が全体の約70%、外来診療収益が全体の約25%、残り5%が特別の療養環境収益(差額ベッド代等)とその他の医業収益となっています。

それでは、医業収益の内訳項目ごとに、それぞれどのような変化があったのでしょうか。第20回調査(2013年度・2014年度)では入院収益と外来収益の変化率の間に開きがありましたが、他の調査機関では、入院収益と外来収益の変化率はほぼ一致しています(基準として医業収益総額の線を加えています〈黒点線〉)。一方、特別の療養環境収益はほとんど横ばいで推移しました。第22回調査(2017年度・2018年度)で大きく減少していますが、これが第22回の調査結果に特異的なものなのかどうかは、今後の調査結果を見ないと如何とも判断できません。

損益の状況

医療法人立一般病院については、入院診療収益・外来診療収益の伸びと連動して、医業収益が増加傾向にあります。しかし、その一方で、収益から費用を差し引いた利益については、これとは逆の動きを見せています。

下のグラフは、医療法人立一般病院の損益の状況をまとめたものになります。損益差額は本業(医療・介護)による損益、総損益差額はこれに利息、補助金等といった本業外の要因による損益を加減したもの、税引後の総損益差額は総損益差額から法人税、事業税等の税額を差し引いた残額になります。本業による損益を意味する損益差額は、第19回調査(2011年度・2012年度)の結果と比べて、第20回調査(2013年度・2014年度)以降、20百万円~30百万円少なくなっていることがわかるでしょう。

その代わりに、第20回調査以降は、損益差額の棒よりも総損益差額の棒の方が上に行くことがしばしば見られるようになりました。これは、損益差額には含まれない、その他の医業・関連収益が増えていることを意味します。その他の医業・関連収益は、「受取利息・配当金、有価証券売却益等」「固定資産売却益等の特別利益」「補助金・負担金」(『医療経済実体調査(医療機関等調査)』調査の内容)を意味しますから、売るものも、補助金を受けるだけの余裕がない小規模な医療法人にとっては、経営上深刻なダメージがあったことがうかがわれます(逆に、大規模医療法人にとっては、そこまで大きなダメージになっていないことが税引後の総損益差額がほとんど変わっていないことからも読み取れるでしょう)。

費用の状況

費用総額の推移

収益が増えているにもかかわらず、利益が減っているというのは、その分、収益から差し引かれる費用の額が増えていることを意味します。『医療経済実態調査(医療機関等調査)』では、医業に係る費用と介護にかかる費用が区別されていませんので、それらの合算額の推移を示します。やはり、第19回調査(2011年度・2012年度)と第20回(2013年度・2014年度)との間で1割ほどの増加があり、その後は大きな変化がなく推移しています。

費用の構成割合

医療法人立医療法人の費用構成は、この8年間大きな変化はありません。給与費が全体の60%弱、医薬品費・材料費が全体の15%程度、減価償却費・施設費が全体の10%弱となっています。あえていえば、経費とされていた金額の一部がその他の医業費用に振り替わっているくらいでしょうか。

費用の構成要素別にみた変化の状況

それぞれの費用の額の変化は大きく二極化しています。給与費とその他の費用は2011年度比で10%強増加した状況を維持していますが、物品費用および設備関連費用は第22回調査(2017年度・2018年度)で水準を下げました。いったん上げてしまうとなかなか下げることのできない固定費と、その時々の経営状況によって変動がある変動費の差が出ているものと考えられます。

給与費については、医業収益の増加率と比べて高い比率で増えています。給与費は、費用全体に占める割合が最大のものですから、第20回調査(2013年度・2014年度)以降の損益の減少は、給与費が増加した影響が大きいといってよいでしょう。給与費は固定費ですから、この増加額は、かりに収益が減少したとしても、おおむね維持されることになります。

おわりに

以上、この記事では、医療法人立一般病院の損益の状況の変化について見ていきました。第20回調査(2013年度・2014年度)において、収益は9%から12%程度、費用は9%から13%程度(いずれも第19回調査(2011年度・2012年度)比)増加しましたが、その後はほぼ横ばいの状況が続いています。収益の伸びよりも費用の伸びの方が大きかったため、収益から費用を差し引いた残りである損益の額は減少してしまっています。

第22回調査(2017年度・2018年度)では、収益の減少がみられ、その減少分が変動費である物品費用が減少されることで調整されている様子を見ることがうかがい知れますが、これが第22回に特有のものなのか、そうでないのかは、今後の調査結果と比較するまではっきりとは分からない状況です。

その他の医業・介護関連収益が増えていること、給与費が増えていることは、今後のリスクとして考えることができるでしょう。これらはいずれも大規模な医療法人と小規模な医療法人との間で「力の差」が出てくる部分であり、この方向で収益構造が固定化されてしまうと、小規模医療法人の経営が維持できなくなってしまう可能性が懸念されます。

また、給料費は固定費であることから容易に減らすことはできません。今後の社会保障政策の方向性次第ではありますが、診療報酬の抑制が議論されていくことになると、あげてしまった給料が足かせとなって、大規模医療法人のなかでも経営が苦しくなるところが出てくることになるかもしれません。

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