この記事では、小口現金制度を採用している企業が行うべき仕訳について説明していきます。
小口現金制度を採用している場合、原則として、①小口現金係(用度係)に小口現金を渡したとき(当初支給・補充)と、②小口現金係(用度係)からその使用明細について報告を受けたときの2つのタイミングで仕訳を行う必要があります。
小口現金とは
現金は、非常に使い勝手が良く、かつ、簡単に持ち運びができるものであるため、盗難や窃盗(外部者だけでなく内部者からを含む)を予防するためにも厳格な管理が必要とされます。このため、現金の支出にあたっては、経理部門などの許可を必要とする企業が多いのですが、すべての取引について経理部門から許可を得ることを求めると、今度は経理部門がパンクしてしまいます。
そこで、ある程度、規模が大きくなった企業では、経理部門以外の各部門にあらかじめ一定の現金を渡しておき、日常的に生じる少額の支払いについては、その渡しておいた現金のなかから支弁してもらうということが行われています(この場合も、非日常的な支出、少額でない支出については、経理部門の許可を必要とされることが一般的です)。
このような状況において、経理部門以外の各部門に事前に渡しておく現金のことを小口現金といいます。また、経理部門から小口現金を預かり、その管理を任された各部門の責任者(担当者)のことを小口現金係または用度係といいます。
今日では、キャッシュレス決済の手段も、キャッシュレス決済が使える場所も増えてきたことから、小口現金制度を採用している企業は減少傾向にあるといわれていますが、小口現金制度が残っている企業もまだ多くあります。
定額資金前渡制度(インプレストシステム)
小口現金の管理方法は企業によってさまざまですが、日商簿記検定では、このなかでも定額資金前渡制度(インプレストシステム)による処理が出題されます。
定額資金前渡制度(インプレストシステム)とは、はじめに小口現金係(用度係)に対して一定の金額を渡しておき、その後は、定期的に小口現金係(用度係)から報告された使用額と同じ金額だけ小口現金を補充していくというものです。
実際に使用された金額しか補充されませんから、経理部門以外の部門に現金が蓄積され、そのまとまった金額を使って予想外の支出(経理部門には報告できないような支出)がされてしまったり、余った金額が経理部門以外の人々に私的に使用されてしまったり(横領)することを防ぐことできます。
小口現金係(用度係)に小口現金を渡したときの処理
小口現金係(用度係)に小口現金を渡したときは、その渡した金額を小口現金勘定(資産の勘定)に記録するとともに、経理部門が管理しているお金(現金、当座預金など)の減少を記録します。
【設例1】小口現金係(用度係)に対して、今月分の小口現金として現金50,000円を渡した。なお、当社では、小口現金の管理に定額資金前渡制度(インプレストシステム)を採用している(以下同じ)。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
小口現金 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
なお、小口現金の管理を定額資金前渡制度(インプレストシステム)によって行っている場合、小口現金として補充される金額は、小口現金係(用度係)から報告を受けた金額と同じ金額となります。
小口現金の使用明細について報告を受けたときの処理
小口現金係(用度係)から小口現金の使用明細について報告を受けたときは、まず、その報告の妥当性を報告とともに提出された領収書などで確認します。報告に問題がなかった場合は、報告された使用明細を適切な勘定に記録するとともに、小口現金の残高を減少させます。
【設例2】小口現金係から、今月の小口現金の使用状況について、次のように報告を受け、この報告に問題がないことを確認した。
- 旅費交通費 22,500円
- 消耗品費 16,000円
- 雑費 7,500円
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
旅費交通費 | 22,500 | 小口現金 | 46,000 |
消耗品費 | 16,000 | ||
雑費 | 7,500 |
小口現金勘定に記録する金額は、使用したことによる減少額となるため、旅費交通費22,500円、消耗品費16,000円、雑費7,500円を合計した46,000円となります。定額資金前渡制度(インプレストシステム)が採用されている場合、たとえ前渡していた金額が余っていたとしても残額が経理部門に返金されることはありません。
使用明細の報告を受けた後、ただちに小口現金を補充した場合の処理
定額資金前渡制度(インプレストシステム)で小口現金の管理を行っている企業において、小口現金係(用度係)から使用明細の報告を受けた後、ただちに小口現金を補充した場合は、次のように、小口現金勘定への記録を行わず、直接、経理部門が他の部門の経費等を支払ったかのように仕訳を行ってしまうこともできます。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
旅費交通費 | 22,500 | 現金 | 46,000 |
消耗品費 | 16,000 | ||
雑費 | 7,500 |
定額資金前渡制度(インプレストシステム)が採用されている場合、報告を受けた使用額(=小口現金の減少額)と補充される金額(=小口現金の増加額)が同額となるため、これらを別々に仕訳したとしても、小口現金勘定の残高に変化はありません(プラスマイナスゼロ)。そこで、両者を相殺して、小口現金勘定への記録を省略してしまうのです。
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