建物、機械などの固定資産を取得するために、国や地方公共団体から補助金(国庫補助金等)を受けることがあります。企業は、原則として、受け取った国庫補助金等を収益として認識することになりますが、収益が認識されたからといって、この金額に対してただちに課税してしまうと、取得の原資として使える金額が減ってしまい、「特定の固定資産を取得させたい」という国庫補助金等の趣旨が損なわれてしまいます。
このような事態を防ぐため、税法上、資産を取得するための国庫補助金等については、課税を繰り延べるための措置が認められています。これを圧縮記帳といいます。圧縮記帳には、取得した固定資産の取得価額から、返還不要となった国庫補助金等の額を直接減額する直接減額方式と、その金額を圧縮積立金として計上する積立金方式の2つがあります。
この記事では、圧縮記帳による課税の繰り延べについて、圧縮記帳を行わなかった場合と、圧縮記帳を行った場合(直接減額方式・積立金方式)とを比較していきます。
- 国庫補助金等で取得した資産の圧縮記帳①(圧縮記帳の効果)
- 国庫補助金等で取得した資産の圧縮記帳②(直接減額方式の場合)
- 国庫補助金等で取得した資産の圧縮記帳③(積立金方式の場合)
設例
以下では、次の設例を使って、圧縮記帳による課税の繰り延べ効果についてみていきます。
【設例】20X1年10月1日に機械70,000円を取得し、ただちに使用を開始した。この機械の取得にあたっては、20X1年9月1日に国庫補助金等50,000円を受け取っており、当期中に返還不要が確定している。また、この機械については、毎期、定額法(耐用年数5年、残存価額ゼロ(税法上の定額法償却率0.200))によって減価償却を行う。
各期の納税額の計算にあたって、この機械に係る損益以外の損益の額は毎期100,000円とし、この機械以外の申告調整はないものとする。法人税率は23.2%とし、税効果会計は行わない。
なお、当社の会計期間は、毎期4月1日から翌3月31日までの1年間である。
圧縮記帳を行わなかった場合
会計期間中に受け取り、返還不要が確定した国庫補助金等の額は、受贈益としてその期の収益の額に算入します。圧縮記帳を行わなかった場合、その全額について法人税が課税されることとなります。
X1年度 | X2年度 | X3年度 | X4年度 | X5年度 | X6年度 | |
---|---|---|---|---|---|---|
会計上の損益計算 | ||||||
その他の損益 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 |
国庫補助金受贈益 | 50,000 | |||||
機械減価償却費 | △7,000 | △14,000 | △14,000 | △14,000 | △14,000 | △7,000 |
当期純利益 | 143,000 | 86,000 | 86,000 | 86,000 | 86,000 | 93,000 |
法人税法上の所得計算 | ||||||
当期純利益 | 143,000 | 86,000 | 86,000 | 86,000 | 86,000 | 93,000 |
所得金額 | 143,000 | 86,000 | 86,000 | 86,000 | 86,000 | 93,000 |
法人税額 | 33,176 | 19,952 | 19,952 | 19,952 | 19,952 | 21,576 |
- 減価償却費:70,000円÷5年=14,000円(20X1年度・20X6年度は半額)
- 法人税額:各年度の所得金額×23.2%
圧縮記帳を行った場合
直接減額方式の場合
直接減額方式とは、会計期間中に受け取り、返還不要が確定した国庫補助金等の額を、それを原資として取得した固定資産の取得原価から直接減額する方法です。
固定資産の取得原価から減額した金額は、費用の勘定である圧縮損勘定に計上します。この金額は、国庫補助金等を受け取った際に計上した受贈益の金額と相殺されるため、国庫補助金等を受け取った期間に利益が増え、この金額をもとに計算される納税額も増えてしまうといったことはなくなります。
一方、直接減額方式では、固定資産の取得原価が減少するため、この金額をもとに計算される各期の減価償却費の額も減少します。これと連動して、各期の利益は増加し、この金額をもとに計算される納税額も増加します。減価償却は固定資産の耐用年数にわたって費用が配分される手続きですから、この納税額の増加も固定資産の耐用年数にわたって配分されます。
このように、圧縮記帳を行わなかったときは受け取った国庫補助金等に対して一時に課税されてしまいますが、圧縮記帳を行ったときは、固定資産の耐用年数にわたって課税が分散されることになるのです。
それでは、さきほどの設例について、直接減額方式による圧縮記帳を行った場合の会計上の損益計算と税務上の所得計算、ならびに法人税等への影響額の状況をみてみましょう。
X1年度 | X2年度 | X3年度 | X4年度 | X5年度 | X6年度 | |
---|---|---|---|---|---|---|
会計上の損益計算 | ||||||
その他の損益 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 |
国庫補助金受贈益 | 50,000 | |||||
固定資産圧縮損 | △50,000 | |||||
機械減価償却費 | △2,000 | △4,000 | △4,000 | △4,000 | △4,000 | △2,000 |
当期純利益 | 98,000 | 96,000 | 96,000 | 96,000 | 96,000 | 98,000 |
法人税法上の所得計算 | ||||||
当期純利益 | 98,000 | 96,000 | 96,000 | 96,000 | 96,000 | 98,000 |
所得金額 | 98,000 | 96,000 | 96,000 | 96,000 | 96,000 | 98,000 |
法人税額 | 22,736 | 22,272 | 22,272 | 22,272 | 22,272 | 22,736 |
圧縮記帳の効果 | ||||||
圧縮しない場合の税額 | 33,176 | 19,952 | 19,952 | 19,952 | 19,952 | 21,576 |
差額 | △10,440 | 2,320 | 2,320 | 2,320 | 2,320 | 1,160 |
- 減価償却費:(70,000円-50,000円)÷5年=4,000円(20X1年度・20X6年度は半額)
- 法人税額:各年度の所得金額×23.2%
圧縮記帳の効果の行に記載された金額をすべて合計するとゼロになります。これは、圧縮記帳を納税額を増減させるものではなく、単に納税のタイミングを変更させる(繰り延べる)ものであることの証拠です。
積立金方式の場合
積立金方式は、会計期間中に受け取り、返還不要が確定した国庫補助金等の額を、取得した固定資産の取得原価から直接減額する代わりに、剰余金を積立金として積み立てる方法です。
積立金方式の場合は、圧縮損が計上されないため、会計上の利益の額は、圧縮記帳を行わなかった場合の処理と変わりません。しかし、これでは課税の繰り延べを行うことができないため、法人税額の計算を行うにあたって、積立金として積み立てた金額をその期の損金の額に算入します。損金の額に算入した金額は、所得金額から差し引かれることになりますので、このようにすることで、直接減額方式の場合と同じように課税の繰り延べを実現することができます。
なお、税法上は、積立金として積み立てた金額の取り崩しについて指定がないため、企業はその金額を任意のタイミングで任意の金額だけ取り崩すことができます。しかし、これでは納税額を恣意的に操作できしまうため、取得した固定資産の減価償却方法と同様の方法で取り崩しを行うことが望ましい処理方法となります。
それでは、さきほどの設例について、積立金方式による圧縮記帳を行った場合の会計上の損益計算と税務上の所得計算、ならびに法人税等への影響額の状況をみてみましょう。
X1年度 | X2年度 | X3年度 | X4年度 | X5年度 | X6年度 | |
---|---|---|---|---|---|---|
会計上の損益計算 | ||||||
その他の損益 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 | 100,000 |
国庫補助金受贈益 | 50,000 | |||||
機械減価償却費 | △7,000 | △14,000 | △14,000 | △14,000 | △14,000 | △7,000 |
当期純利益 | 143,000 | 86,000 | 86,000 | 86,000 | 86,000 | 93,000 |
法人税法上の所得計算 | ||||||
当期純利益 | 143,000 | 86,000 | 86,000 | 86,000 | 86,000 | 93,000 |
圧縮積立金積立 | △50,000 | |||||
圧縮積立金取崩 | 5,000 | 10,000 | 10,000 | 10,000 | 10,000 | 5,000 |
所得金額 | 98,000 | 96,000 | 96,000 | 96,000 | 96,000 | 98,000 |
法人税額 | 22,736 | 22,272 | 22,272 | 22,272 | 22,272 | 22,736 |
圧縮記帳の効果 | ||||||
圧縮しない場合の税額 | 33,176 | 19,952 | 19,952 | 19,952 | 19,952 | 21,576 |
差額 | △10,440 | 2,320 | 2,320 | 2,320 | 2,320 | 1,160 |
- 減価償却費:70,000円÷5年=14,000円(20X1年度・20X6年度は半額)
- 圧縮積立金取崩額:50,000円÷5年=10,000円(20X1年度・20X6年度は半額)
- 法人税額:各年度の所得金額×23.2%
圧縮記帳の効果の行に記載された金額が、直接減額方式の場合と同じになっていることを確認してください。調整が行われる場所こそ違いはありますが、課税の繰り延べについては、直接原価方式によった場合も、積立金方式によった場合も同じ結果になります(ただし、減価償却と同じ方法で積立金を取り崩した場合に限る)。
おわりに
以上のように、圧縮記帳には課税の繰り延べの効果があります。名目的な金額をみると、圧縮記帳を行わなかった場合も、行った場合も、課税されるタイミングが違うだけで、全体の納税額に変わりはありません。しかし、通常、貨幣の価値は時の経過とともに低下していくため、現在価値ベースで考えれば、課税の繰り延べには、それだけ経済的メリットがあります。
この記事では、企業を前提として説明をしましたが、非営利法人では返還不要が確定した国庫補助金等の額を収益の勘定(国庫補助金受贈益勘定)ではなく、負債の勘定(預り補助金勘定)を使って処理する場合があります。このような処理については、記事を改めて説明します。
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