国庫補助金等で取得した資産の圧縮記帳③(積立金方式の場合)

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建物、機械装置等の固定資産を取得するために、国や地方公共団体から補助金や給付金(国庫補助金等)を受けることがあります。この場合、国庫補助金等を使って取得した固定資産について、圧縮記帳とよばれる会計処理を行うことが認められます。

圧縮記帳には、大きく分けて、①取得した固定資産の帳簿価額を直接減額する方法(直接減額方式)、②国庫補助金等の額に相当する金額等を圧縮積立金として積み立てる方法(積立金方式)の2つがありますが、この記事では、国庫補助金等の額に相当する金額を圧縮積立金として積み立てる方法(積立金方式)の処理について説明します。

積立金方式による仕訳

国庫補助金等を受けたとき

国庫補助金等を受けたときは、その受入額を国庫補助金等受贈益勘定に記録します。国庫補助金等を受けたことにより企業の財産は増加しますから、その増加理由となる金額が記録される国庫補助金等受贈益勘定は収益の勘定になります。収益の勘定ですから、その記録は貸方に行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
当座預金5,000,000国庫補助金等受贈益5,000,000

国庫補助金等を原資に固定資産を取得したとき

固定資産を取得したときは、その固定資産の取得原価を固定資産の勘定に計上することになります。たとえば、機械を取得し、その取得原価7,000,000円であった場合の仕訳は次のようになります(支払いは小切手を振り出して行ったものとします)。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
機械7,000,000当座預金7,000,000

国庫補助金等の全部または一部を返還したとき

国庫補助金等については、取得した資産が国庫補助金等を支給する目的に合致していなかったなどの理由で、国や地方公共団体から返還が求められることがあります。この場合は、国庫補助金等受贈益勘定に計上した金額を取り崩して対応します。

なお、返還にあたっては、国庫補助金等を受けた日から返還日までの加算金・延滞金が加算されるので、その金額を国庫補助金等返還加算金、租税公課などの費用の勘定に計上します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
国庫補助金等受贈益5,000,000当座預金5,150,000
国庫補助金等返還加算金150,000  

決算時の処理

固定資産の減価償却

積立金方式の場合、固定資産の減価償却は、固定資産の取得原価に対して行います。積立金方式では、受け取った国庫補助金等の額を、別途、圧縮積立金として処理するため、直接減額方式のように固定資産の帳簿価額を減額する必要はありません。

たとえば、上記の機械について、定額法により減価償却を行うとした場合(耐用年数5年、残存価額ゼロ、当期中の使用月数6か月)、その仕訳は次のようになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
減価償却費700,000機械700,000
  • 減価償却費=取得原価7,000,000円÷5年×(6か月÷12か月)=700,000円

繰延税金負債・圧縮積立金の積み立て

積立金方式の場合は、返還不要が確定した国庫補助金等の額を圧縮積立金として積み立てます。

圧縮積立金の積み立てには税効果会計が適用されます。積立金方式では、会計上の利益と税務上の課税所得のズレから将来加算一時差異が生じます(国庫補助金等を受け取ったときに課税されるべき金額が将来に繰り延べられる)。このため、この将来加算一時差異に対応する税額を繰延税金負債として計上しなければなりません。上記の国庫補助金等5,000,000円について、法定実効税率を30%とすると、繰延税金負債の額は1,500,000円(=5,000,000円×30%)となります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
法人税等調整額1,500,000繰延税金負債1,500,000

圧縮積立金として積み立てられる金額は、返還不要が確定した国庫補助金等の額からこの繰延税金負債の額を差し引いた残額となります(「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」第20項)。今回の例の場合、その金額は3,500,000円(=5,000,000円-1,500,000円)となります。圧縮積立金の積み立ては、繰越利益剰余金を取り崩すことによって積み立てられますので、圧縮積立金の相手勘定は繰越利益剰余金勘定となります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
繰越利益剰余金3,500,000圧縮積立金3,500,000

なお、繰越利益剰余金の取り崩しを行うためには、通常であれば、株主総会による承認が必要となります。しかし、このような法令上認められている処理を行う場合は、株主総会による承認を経ることなく、取締役会の決議のみで取り崩しを行うことが可能です(「会社計算規則」第153条第2項)。

なお、ここでは圧縮積立金の積み立てを決算時の処理として説明しましたが、繰越利益剰余金の処分の一環として株主総会決議があった時点で積み立てることも可能です(未払配当金の計上等と同じ)。

繰延税金負債・圧縮積立金の取り崩し

繰延税金負債として計上された金額および圧縮積立金として積み立てられた金額は、固定資産の減価償却に対応させる形で随時取り崩していきます。減価償却が行われるにつれて、将来加算一時差異が少しずつ解消されていくので、それにあわせて繰延税金負債の額を減らしていかなければなりません。そして、繰延税金負債が取り崩されるのであれば、これと連動して積み立てられている積立金の額も取り崩さなければおかしいことになりります。

今回の例の場合、機械の取得原価(要償却額)は7,000,000円、当期の減価償却費として計上された額は700,000円ですから、全体の10%(=700,000円÷7,000,000円)に相当する金額が償却されたことになります。したがって、繰延税金負債・圧縮積立金の取崩額も、当初計上した金額の10%相当額となります。

繰延税金負債の取り崩し
借方科目借方金額貸方科目貸方金額
繰延税金負債150,000法人税等調整額150,000

なお、説明の都合上、繰延税金負債の計上と繰延税金負債の取り崩しを別々の仕訳で示しましたが、法人税等の調整は当期分をまとめて行うこととされているため、繰延税金負債に係る仕訳については、さきほどの仕訳とまとめて次のように行うことが普通です(当初計上額と取崩額を相殺して仕訳する)。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
法人税等調整額1,350,000繰延税金負債1,350,000
圧縮積立金の取り崩し

圧縮積立金の取り崩すときは、圧縮積立金を積み立てたときとは逆に、圧縮積立金勘定に計上されていた金額を取崩額だけ繰越利益剰余金勘定に振り替えます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
圧縮積立金350,000繰越利益剰余金350,000

税法上、圧縮積立金の取り崩しは強制されませんが、会計上は、繰延税金負債の減額が強制されることとの関係で、圧縮積立金の取り崩しを行うことが原則となります(「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」第38項、「中小企業の会計に関する指針」第35項)。

圧縮記帳による課税の繰り延べ

積立金方式では、直接減額方式のように固定資産の帳簿価額が直接減額されることはありませんので、会計上はあくまでも圧縮記帳がなかったかのように損益計算が行われます。

しかし、税務上は、①圧縮積立金として積み立てた金額が損金の額に算入されて各期の所得の金額から控除されること、②圧縮積立金を取り崩した金額が益金の額に算入されて各期の所得の金額を増加させることにより、会計上の損益計算に影響がなくても、税務上は、課税の繰り延べの効果を得ることができます。その詳細については、別の記事(国庫補助金等で取得した資産の圧縮記帳①(圧縮記帳の効果))に詳しくまとめてありますので、興味のある方はそちらを参照してください。

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