売上原価の計算の基本的考え方

商品売買決算整理
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企業が商品売買取引を通じて獲得した利益(商品売買益)は、期中に売り上げた商品の販売価額から、その期中に売り上げた商品を取得するために要した金額(売上原価)を差し引いて計算されます。

現在の簿記では、商品売買取引を仕訳する方法としていくつかの方法が認められていますが、そのすべての方法において、期中に売り上げた商品を取得するために要した価額(売上原価)についての記録が行われているわけではありません。

そこで、会計期間中に売上原価の記録が行われない方法で仕訳を行っている場合には、決算にあたって、一定の調整を行うことが必要になります。

商品売買取引を売上原価対立法で記録している場合

売上原価対立法では、期中に商品を売り上げたときに、その商品の取得原価を商品勘定から売上原価勘定に振り替えています。したがって、商品売買取引を売上原価対立法で記録している場合は、決算にあたって、売上原価を明らかにするための仕訳を追加で行う必要はありません。

商品売買取引を三分法で記録している場合

三分法では、期中に商品を売り上げたときに、その商品の取得原価に関する記録は何ら行われていません。商品の取得原価は、商品を取得したときに仕入勘定に記録されていますが、期中に行われた仕入勘定の記録を見るだけでは、そのうちどれだけの商品が期中に売り上げられ、どれだけの商品が期中に売り上げられていないのかが分かりません。

そこで、商品売買取引を三分法で記録している場合は、決算にあたって、当期の売上原価を明らかにするための処理が必要になります。この処理については、売上原価勘定で行う場合と仕入勘定で行う場合の2つの方法があります。

売上原価を売上原価勘定で計算する場合

売上原価を売上原価勘定で計算する場合は、決算にあたって、次の3つの仕訳を行います。

  1. 繰越商品勘定の残高(期首商品棚卸高)を売上原価勘定に振り替える
  2. 仕入勘定の残高(当期商品仕入高)を売上原価勘定に振り替える
  3. 売上原価勘定から商品の期末棚卸高を繰越利益勘定に振り替える

期首に保有していた商品(前期からの繰越分)と当期中に仕入れた商品の合計額は、かりに当期中に商品を売り上げていなければ、企業が保有していたはずの商品の額を表します。ここから、期末に保有している商品(次期への繰越分)を差し引くのですから、その差額(売上原価勘定の残高)は、期末時点で保有されていない金額(何らかの理由で企業の手を離れた商品の額)を意味することになります。

なお、3.の仕訳で売上原価勘定から差し引く商品の期末棚卸高については、会計帳簿上の記録からその金額が分かる場合はその金額を、会計帳簿上の金額から分からない場合は期末における商品の在庫を実際に数え、それに単価を掛けて求めた金額を使用します。

【設例1】次の資料に基づいて、決算にあたり、売上原価を計算するための仕訳を示しなさい。なお、売上原価の計算は売上原価勘定で計算すること。

  1. 繰越商品勘定の期末残高:40,000円
  2. 仕入勘定の期末残高:300,000円
  3. 商品の期末棚卸高:60,000円
借方科目借方金額貸方科目貸方金額
売上原価40,000繰越商品40,000
売上原価300,000仕入300,000
繰越商品60,000売上原価60,000

繰越商品勘定への記録は、原則として、決算のタイミングでしか行われません。このため、1.の商品勘定の商品勘定の期末残高は、商品の期末棚卸高ではなく、前期から繰り越されてきた前期の期末商品棚卸高=当期の期首商品棚卸高を意味します。

これら3つの仕訳を行った後の売上原価勘定の残高が当期の売上原価の額となります。この設例の場合、売上原価の額は、次のように計算できます。

借方合計(40,000+300,000)-貸方合計(60,000)=280,000

売上原価を仕入勘定で計算する場合

売上原価を仕入勘定で計算する場合は、決算にあたって、次の2つの仕訳を行います。

  1. 繰越商品勘定の残高(期首商品棚卸高)を仕入勘定に振り替える
  2. 仕入勘定から商品の期末棚卸高を繰越利益勘定に振り替える

当期商品仕入高に関する記録は、すでに期中に仕入勘定に行われています。したがって、これらの仕訳は、新しく売上原価を計算するというよりも、仕入勘定に記録された期中に仕入れた商品の取得原価を、期中に売り上げた商品の取得原価(売上原価)に修正するための仕訳と考えると、その目的を理解しやすいのではないかと思われます。

仕入勘定は費用の勘定であり、商品の取得原価は借方に記録されています。1.で繰越商品勘定から振り替えられた金額は仕入勘定の借方に記録されるので、これは期首商品棚卸高を当期の商品仕入高に追加することを意味します。逆に、2.で繰越消費勘定に振り替えられる金額は仕入勘定の貸方に記録されるので、これは期首商品棚卸高と当期商品仕入高の合計額から期末商品棚卸高を差し引くことを意味します。

【設例2】次の資料に基づいて、決算にあたり、売上原価を計算するための仕訳を示しなさい。なお、売上原価の計算は仕入勘定で計算すること。

  1. 繰越商品勘定の期末残高:40,000円
  2. 仕入勘定の期末残高:300,000円
  3. 商品の期末棚卸高:60,000円
借方科目借方金額貸方科目貸方金額
仕入40,000繰越商品40,000
繰越商品60,000仕入60,000

これら2つの仕訳を行った後の仕入勘定の残高が当期の売上原価の額となります。この設例の場合、売上原価の額は、次のように計算できます。

借方合計(仕入勘定残高300,000+40,000)-貸方合計(60,000)=280,000

商品売買取引を総記法で記録している場合

総記法では、期中に商品を売り上げたときに、その売上によって確実に得られると期待される対価の額(販売価額)を商品勘定に記録しますが、その取得原価に関する記録は行われません。商品勘定では、借方に取得原価、貸方に販売価額が記録されているため(返品・値引等がない場合)、両者の差額として計算される残高金額にも特定の意味を見出すことはできません。

総記法では、決算にあたって、商品勘定の残高が期末商品棚卸高と一致するように、商品勘定から商品売買益勘定への振替えを行うことになります。しかし、損益計算書上は、売上高と売上原価を別々に表示しなければならないこととなっているため、商品売買益勘定への振替えだけで終わらせてしまうことはできません。

商品売買取引の仕訳を総記法で行っている場合は、期中の合計売上高から商品売買益の額を差し引くことによって計算することになります。

【設例3】次の資料に基づいて、損益計算書に計上すべき売上原価の額を求めなさい。

  1. 商品勘定の期末残高:400,000円(貸方残高)
  2. 商品の期末棚卸高:60,000円
  3. 当期の売上高:740,000円
借方科目借方金額貸方科目貸方金額
商品460,000商品売買益460,000

商品勘定の期末残高が400,000円の貸方残高ですから、これを商品の期末棚卸高である60,000円の借方残高にするためには、商品勘定の借方に460,000円を追加しなければなりません。これが期中の商品版倍取引によって得られた商品売買益の額となります。

売上原価は、この商品売買益の額を売上高から差し引いて、次のように求められます。

売上高740,000円-商品売買益460,000円=280,000円

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