企業における財産の動きは仕訳によって記録されていきますが、仕訳上の記録は、財産の動きが起こった順に行われていくため、「現在、現金はいくらあるのか」「今月の売上は合計いくらか」といった特定の財産や取引の状況について知りたいときには、あまり使い勝手がよくありません。
このような特定の財産や取引の状況を知るためには、これらの財産の動きに関する記録が、現金や売上といった特定の項目ごとにまとめられていた方が便利です。この特定の項目ごとに記録をまとめなおす作業(手続)のことを転記といいます。転記というと、「元の記録をまったく同じように書き写す」というイメージを抱く人もいるかと思いますが、仕訳上の記録をそのまま書き写した(同じものをコピーした)だけでは意味がありません。簿記の世界でいう転記とは、仕訳上の記録をもとに、「特定の項目ごとにまとめなおす」というところに力点が置かれる作業(手続)であるところに注意してください。
転記のプロセス
転記は、次の3つのプロセスで行っていきます。
- 総勘定元帳のなかから転記をしたい勘定を探す
- 仕訳されているのと同じ側に、仕訳されている金額を書き写す
- 金額を書き写したのと同じ側に取引日、相手勘定を書き写す
以下では、次の仕訳について、借方の現金勘定の記録を転記するケースを考えてみましょう。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 30,000 | 売上 | 30,000 |
総勘定元帳のなかから転記をしたい勘定を探す
転記は、総勘定元帳という会計帳簿に行われます。総勘定元帳には、その企業で使用されているすべての勘定が、その勘定ごとにページを分けて収録されています(1ページ~4ページは現金、5ページ~12ページは普通預金、13ページ~20ページは売掛金、……といった感じです)。転記を行うにあたっては、まず、このすべての勘定が収録されている総勘定元帳から、転記を行いたい勘定のページを探すという作業からスタートします。
なお、簿記の学習用教材や試験などでは、転記のために何十ページも使えませんから、総勘定元帳の記録欄を簡略化したT勘定(T字勘定)とよばれるものを使って表現することが一般的です。T勘定では、次のように、横棒の上に勘定科目(勘定の名称)が示されたうえで、その下に仕訳上の金額等を書き写していきます。金額等の記入欄は左右に分けられており、それぞれ借方と貸方を表しています。
勘 定 科 目 | |||||
---|---|---|---|---|---|
借方の記入欄 | 貸方の記入欄 |
今回は、現金勘定の転記を行いますから、総勘定元帳のなかから探す勘定も現金勘定になります。
仕訳されているのと同じ側に、仕訳されている金額を書き写す
現金勘定が見つかったら、いったんさきほどの仕訳に戻りましょう。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 30,000 | 売上 | 30,000 |
この仕訳では、現金勘定の記録が借方に行われています。転記では、この仕訳されているのと同じ側に金額を書き写します。この仕訳の場合は、現金勘定の借方に30,000円を書き写せばいことになります。
現 金 | |||||
---|---|---|---|---|---|
30,000 |
金額を書き写したのと同じ側に取引日、相手勘定を書き写す
最後にこの金額を書き写したのと同じ側に、取引日や相手勘定を書き写します。相手勘定とは、仕訳にあたって、今、転記を行おうとしている勘定の反対側に記録されている勘定のことをいいます。現在は、現金勘定の記録を転記しようとしていますから、仕訳において、現金勘定の反対側である貸方に記録されている売上勘定が現金勘定の相手勘定となります。
この取引が4月5日に行われていたとすると、転記の結果は、次のようになります。
現 金 | |||||
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4/5 | 売上 | 30,000 |
日付と相手勘定は黒、金額は赤で書かれていることに注意してください。現金勘定の借方に書かれている記録は、「売上が30,000円」という意味ではありません。売上は現金勘定の相手勘定であり、30,000円は現金勘定の借方に記録されている金額です。相手勘定と金額をセットで考えてしまうと転記を誤ってしまうので注意が必要です。
相手勘定が複数ある場合
仕訳によっては、次のように、相手勘定が複数ある場合もあります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
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現金 | 501,000 | 定期預金 | 500,000 |
受取利息 | 1,000 |
このような場合は、相手勘定を1つ1つ書き写す代わりに、次のように「諸口」と書きます。相手勘定が複数あるので、相手勘定を詳しく知りたい場合は、仕訳を見てくださいといった意味になります。
現 金 | |||||
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4/7 | 諸口 | 501,000 |
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