最終仕入原価法による期末棚卸商品の評価

簿記決算整理
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この記事では、最終仕入原価法による期末棚卸商品の評価について説明します。

最終仕入原価法は、現在の企業会計においては必ずしも推奨される方法ではありませんが、税法上、棚卸資産の評価方法を選定し、税務署長に届け出ていない場合は、自動的に最終仕入原価法による原価法が選定されたものとして課税標準となる所得の金額の計算が行われることになるため(法定評価方法)、とりわけ、青色申告を行わない個人事業などについては、最終仕入原価法でどのような処理が行われるかについては知っておいても損はありません。

最終仕入原価法とは

最終仕入原価法とは、会計期間中、最後に仕入れた商品の単位取得原価(付随費用を含め、商品の取得に際して要した費用の総額を、商品の仕入単位数量で割った金額)をもとに、期末の商品棚卸高を計算する方法です。最終仕入原価法では、商品の期末棚卸高が、次の計算式によって求められることになります。

期末商品棚卸高=会計期間中、最後に仕入れた商品の単位取得原価×期末商品棚卸数量

最終仕入原価法は、会計期間中、商品の出入りの状況を商品有高帳などを使って細かく記録に残していない企業において使用されます。商品の出入りについて記録が残っていれば、その記録をもとに売上原価の額を計算することができますが、このような記録を行っていない企業では、会計帳簿上の記録から売上原価の額を導き出すことができません。そこで、期末に存在する商品を数え(会計帳簿上の記録がなくてもできる)、これに最も新しい仕入れの記録(領収書などが残っている可能性が一番高い)をもとに計算した単位取得原価を掛けて期末商品棚卸高を計算できるようにしたのです。

最終仕入原価法による期末商品棚卸高の計算

設例

【設例】決算にあたり、次の資料に基づいて、当期の売上原価を算定するための基礎となる期末商品棚卸高の額を最終仕入原価法により計算しなさい。

  1. A商品の実地棚卸数量:50個
  2. A商品に係る期中最後に行った仕入の状況
    • A商品の購入代価:30個×@100円=3,000円
    • 付随費用(発送費):600円

最終仕入原価法では、まず、会計期間中、最後に仕入れた商品の単位取得原価を計算しなければなりません。この設例において、A商品の単位取得原価は、次のように計算できます。

  • 取得原価:(購入数量30個×購入単価100円)+600円=3,600円
  • 単位取得原価:取得原価3,600円÷購入数量30個=@120円

単位取得原価が計算できたら、これに商品の実地棚卸数量(実際に数えて確認した数量)に掛けて、期末商品棚卸高の額を計算します。

  • 期末商品棚卸高:単位取得原価@120円×実地棚卸高50個=6,000円

実地棚卸数量が最終仕入数量よりも多くても計算方法は同じ

この設例では、商品の実地棚卸数量(50個)の方が、会計期間中、最後に仕入れた商品の数量(30個)よりも多くなっていました。この場合、商品のうち少なくとも20個は、会計期間中、最後に仕入れた商品以外の商品(最後に仕入れた商品よりも前に仕入れた商品)であるということになります。

しかし、このような場合であっても、特別な対応を行う必要はなく、単位取得原価に棚卸数量を掛けて期末商品棚卸高を計算します。もともと最終仕入原価法は、会計期間中、継続して商品の出入りを記録していないような企業で使われることを前提とした方法ですから、厳密な意味での正確さを求めるものではありません(これが気になるのであれば、会計期間中から商品の出入りを記録しておけばいいことです)。

企業会計基準では最終仕入原価法の適用は推奨されない

投資者や金融機関など、企業に対する資金提供者に対して有用な情報提供を行うことを目的に行われる企業会計(財務会計)の世界では、最終仕入原価法の適用は積極的に推奨されるものではありません。企業会計基準委員会の「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、この点について、次のように述べられています。

最終仕入原価法によれば、期末棚卸資産の一部だけが実際取得原価で評価されるものの、その他の部分は時価に近い価額で評価されることとなる場合が多いと考えられ、無条件に取得原価基準に属する方法として適用を認めることは適当ではない。このため、期末棚卸資産の大部分が最終の仕入価格で取得されているときのように期間損益の計算上弊害がないと考えられる場合や、期末棚卸資産に重要性が乏しい場合においてのみ容認される方法と考えられる。

「棚卸資産の評価に関する会計基準」第34-4項

企業会計基準では、未実現利益(実際に売却等して企業が得られることが確実になった利益)の計上を認めない取得原価主義を原則としているため、会計期間中、最後に行われた仕入よりも前に仕入れた商品の価額が期末の時価に再評価されてしまうことを良しとしていないのです。

企業会計基準では、商品の出入りについて、会計期間中、継続的に記録が行われていることを前提に話が進められていますから、売上原価を計算するために必要な記録があるのに、それを使わずに期末商品棚卸高を計算するのはおかしいというのはあるでしょう。

これに対して、税法会計では、商品の出入りが継続的に記録されていない個人の場合であっても、納付すべき税額が計算できるようにすることが求められますから、税法上、最終仕入原価法が認められていたとしても、「そもそもの要求水準が違う」というで説明できてしまう部分はあるかと思われます。最終仕入原価法を適用する場合も、これはあくまでも便宜的な計算方法であるという点は頭の片隅においておいた方がよいでしょう。

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