有形固定資産とは、企業が使用目的で保有する資産で、具体的な形があり、かつ、長期的に(通常、1年を超えて)使用されるものをいいます。この記事では、有形固定資産を取得したときの処理について、代金をその場で支払った場合と、後日支払う場合とに分けて学習します。
有形固定資産には、土地、建物、備品、車両運搬具などがありますが、あるものが有形固定資産になるかどうかは、土地、建物、……といったものの名称ではなく、その保有目的によって決まることに注意してください。不動産販売業者が販売目的で保有する土地、自動車販売会社が販売目的で保有する車両は、土地や車両であっても、有形固定資産ではなく商品として取り扱われます。有形固定資産になるのは、あくまでも企業が自らその営業活動に使用する目的で保有している場合だけです。
有形固定資産を取得したときの処理の概要
有形固定資産を記録する勘定
商品売買取引では、売買される商品について、それがどのような商品であっても同じ勘定(三分法では売上・仕入・繰越商品、売上原価対立法では商品など)を使って記録を行います。これに対して、有形固定資産の場合は、その有形固定資産の種類が分かるように勘定を使い分けることが必要になります。これは、どのような有形固定資産を取得したかによってその後の会計処理方法が変わるため、その取得時から別の種類のものであることが分かるようにしておく必要があるからです。
勘定科目 | 記録される有形固定資産の例 |
---|---|
土地 | 土地 |
建物 | 自社ビル、工場、店舗、倉庫、車庫、社宅など |
備品 | 事務机、書類棚、陳列棚、パソコン、時計など |
車両運搬具 | 乗用車、トラック、オートバイ、リヤカー、自転車など |
有形固定資産の記録に使われる勘定は、他の勘定と同じように企業が自由に決めることができます。資格試験などでは、主として採点の便宜を図るため、使用できる勘定科目が指定されており、市販されている学習教材などでもこれらの「試験用の」勘定科目で説明が行われていますが、これらの勘定は唯一絶対的なものではない(他の勘定を使うことが一切認められないわけではない)という点に注意してください。
有形固定資産の取得原価
有形固定資産を取得したときは、その取得価額を用いて仕訳を行います。ここで取得価額とは、有形固定資産自体の価額に、引取費用、据付費、保険料、手数料、税金をはじめとするその有形固定資産を企業が使用できる状態にするまでにかかったすべての費用(付随費用)を加えた金額のことをいいます。なお、消費税だけは原則的に付随費用には含めませんので注意してください。
有形固定資産の取得原価について、詳しくは別の記事にまとめていますので、興味のある方はそちらも参照してください(税法上の価格の決定方法について説明しているため、取得原価ではなく、取得価額という言葉を使っていますが、基本的には同じ意味であると考えてしまって問題ありません)。
取得原価を全部をその場で支払った場合
消費税以外の部分の仕訳
【設例1-1】事務所用にパソコン10台を購入した。パソコンの代金は1台あたり200,000円であり、購入費用の他に配線工事の費用50,000円が発生した。なお、パソコンの代金および配線工事の費用はいずれも現金で支払った。
この取引におけるパソコンの取得原価は、パソコンの代金2,000,000円(200,000円×10台)と、配線工事費用50,000円の合計2,050,000円になります。パソコンは一般に備品勘定を使って仕訳されますので、その仕訳は次のようになります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
備品 | 2,050,000 | 現金 | 2,050,000 |
消費税を含めた仕訳
有形固定資産の取得にあたっては、基本的に消費税が発生します。この発生した消費税の額は、有形固定資産の額に含めずに、仮払消費税勘定を使って記録します。
【設例1-2】事務所用にパソコン10台を購入した。パソコンの代金は1台あたり200,000円であり、購入費用の他に配線工事の費用50,000円が発生した。消費税率は税抜金額に対して10%であり、パソコン、配線工事のいずれについても発生している。なお、パソコンの代金および配線工事の費用(消費税額を含む)はいずれも現金で支払った。
パソコンの取得原価は、消費税を含めずに計算しますから、さきほどの【設例1-1】と同じく2,050,000円となります。
この取引では、205,000円(2,050,000円×10%)の消費税が発生していますが、この金額については、仮払消費税勘定を使って記録します。仮払消費税勘定は、有形固定資産と同じく資産の勘定なので、その記録は借方に行います。
なお、企業が対価として支払う金額は消費税込みの金額になりますから、貸方に計上される現金勘定の金額は、2,255,000円(2,050,000円+20,500円)となります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
備品 | 2,050,000 | 現金 | 2,255,000 |
仮払消費税 | 205,000 |
取得原価の全部または一部を後払いにした場合
有形固定資産の取得原価の全部または一部を後払いにした場合、その後払いにした金額(将来、支払わなければならない金額)は、負債の勘定である未払金勘定を使って記録します。負債の勘定ですから、その記録は貸方に行います。
商品(顧客への販売目的で取得する資産)の仕入代金を後払いにした場合は買掛金勘定を使いますが、商品以外のものを購入したときの代金の後払額は、すべて未払金勘定を使用します。商品代金の支払いかそうでないかによって、後払いにした金額を記録する勘定も変わりますから注意が必要です。
取得価額の全部を後払いにした場合
【設例2-1】事務所用にパソコン10台を購入した。パソコンの代金は1台あたり200,000円であり、購入費用の他に配線工事の費用50,000円が発生した。消費税率は税抜金額に対して10%であり、パソコン、配線工事のいずれについても発生している。なお、パソコンの代金および配線工事の費用(消費税額を含む)は後日支払うことにした。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
備品 | 2,050,000 | 未払金 | 2,255,000 |
仮払消費税 | 205,000 |
取得価額の一部を後払いにした場合
【設例2-2】事務所用にパソコン10台を購入した。パソコンの代金は1台あたり200,000円であり、購入費用の他に配線工事の費用50,000円が発生した。消費税率は税抜金額に対して10%であり、パソコン、配線工事のいずれについても発生している。なお、配線工事の費用55,000円(消費税を含む)は現金で支払い、残額は後日支払うことにした。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
備品 | 2,050,000 | 現金 | 55,000 |
仮払消費税 | 205,000 | 未払金 | 2,200,000 |
有形固定資産の取得にかかった費用を複数の方法で支払う場合も、冷静にそれぞれの金額を求めて処理していくことが重要です。この設例では、総支払額(消費税込みの金額)2,255,000円のうち55,000円を現金で支払っているのですから、まだ支払っていない金額は2,200,000円(2,255,000円-55,000円)となります。消費税は備品の取得原価(借方)には含めませんが、支払額(貸方)は消費税込みの金額になりますから、借方・貸方どちらの話をしているかについても混乱しないようにしましょう。
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