売上帳の限界をカバーする新たな「契約元帳」が必要

簿記商品売買
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日商簿記検定では、これまで定期的に補助簿選択問題が出題されていました。補助簿選択問題とは、ある取引について、記録が行われるすべての補助簿を選択させる(○をつけさせる)問題で、現金出納帳、当座預金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、受取手形記入帳、支払手形記入帳、売上帳、仕入帳および商品有高帳が選択肢として出されるというのがほぼ「お決まり」でした。

しかし、「収益認識に関する会計基準」が全面適用となったことにより、収益の認識基準が変わってしまったこともあり、従来の形で売上帳を作成することにほとんど意味がなくなってしまいました。日商簿記検定の情報サイトでは、「収益認識に関する会計基準」対応後(2022年度以後適用分)の出題区分表においても「売上帳」の記載が残っていますが、この補助簿の取り扱いについては検討が必要でしょう。

簿記出題区分表 | 商工会議所の検定試験
日本商工会議所は、簿記検定試験での出題にあたって基礎的な指針として、「商工会議所簿記検定試験出題区分表」(以下「区分表」と略す)を制定しております。このたび、2022年度試験(2022年4月1…

従来の売上帳が使えない理由

従来、売上帳では、取引先の名称、対価の受取方法ならびに販売した商品の名称、個数および単価を摘要欄に記載し、内訳欄には商品ごとの販売金額、合計欄には取引単位での販売金額の総額を記載すると説明されることが一般的でした。そして、売上帳の合計欄に記載された金額は、仕訳上、売上勘定に記録される金額と一致します。これは、販売という行為を行った時点で、基本的には収益が実現し、対価として受け取ることが約束された金額がそのまま収益の額になるとされてきたためです。

一方、「収益認識会計基準」では、この考え方が採用されていません。

まず、将来の返品、値下げ(値上げ)、貸し倒れなどによって、企業が受け取ることのできる金額が変わってしまうことが予想される場合は(変動価格)、その将来の変動を盛り込んだ金額を収益として認識される額のベースとなる取引価格としなければならなくなりました。契約時に顧客との間で約束した金額と収益として認識される金額が一致しないこともあるわけです。

加えて、顧客との間で、複数の約束(履行義務)をしている場合、取引価格は、そのそれぞれの履行義務に分割しなければなりません。これらの分割された金額は、1つ1つの履行義務が履行される(約束が果たされる)ごとにそれぞれ収益として認識されていきます。したがって、履行義務を履行するたびに収益として認識される金額は、当初、顧客との間で約束した金額とはまったく違ってしまいます。

このように、「収益認識に関する会計基準」の全面適用後は、従来のように、顧客との間で約束した金額が、そのまま収益の額とはならなくなります。これは、従来の「売上帳」の前提が、新しい会計基準の登場により覆されてしまったことを意味します。

契約元帳の必要性

「収益認識に関する会計基準」における収益の認識プロセスを前提とすると、契約ごとに、①将来の対価の変動を加味して、取引価格をどのように決定したか、②その契約はどのような履行義務によって構成されているか、③それぞれの履行義務に対して、どれだけの取引価格を配分するかといった、履行義務ごとの収益認識額の算定根拠が分かるような記録をとっておくことが必要になります。

しかし、借方・貸方への記録を示すことができない仕訳では、これらの情報内容をカバーすることはできません。その意味では、契約ごとの状況を細かく記録できる補助簿を新たに作り出す必要があるのではないでしょうか。従来の「売上帳」のような収益として認識される金額の内訳を示すものではなく、その収益として認識される金額が計算される前提となる情報が網羅的に記録される会計帳簿です。

契約ごとの記録を行うことができる会計帳簿という意味で、この記事では、とりあえず契約元帳という名前をつけておきますが、名前はそこまで重要ではありません。ともかく、契約についての記録ができる帳簿が必要になっているのです。

残念ながら、「収益認識に関する会計基準」の全面適用に伴って必要となる、このような契約についての記録ができる補助簿の研究については、自分が知る限り、ほとんど行われているようには見えません。「電子会計時代に補助簿のことを考える必要はあるのか」という意見もあるかもしれませんが、収益認識の実務を行うにあたって最低限必要な要件定義は、学者の側から積極的に示していく必要があるのではないかなあと思っていたりします。

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