この記事では、保証金を支払ったときの処理について見ていきます。保証金とは、他者(取引先等)との間で継続的な取引をはじめるにあたって、契約期間中のあなたの行動から生じる可能性のある損害を補うために、その他者からあらかじめ支払いが求められる金銭のことをいいます。
たとえば、事務所用にあるビルの1室を借りるとしましょう。ビルのオーナーは、その部屋を貸すにあたって、賃借人が決められた期日にしっかりと家賃を支払ってくれることを期待しています。しかし、オーナーは、あなたとの取引関係、信頼関係の積み重ねがないことから、「家賃をしっかりと支払ってくれないかもしれない」という不安を抱えています。そこで、部屋を貸す条件として、一定の保証金(不動産の場合、敷金とよばれることが一般的です)の支払いを要求します。このようにしておけば、かりにあなたが約束された期日に家賃を支払わなかったとしても、その事前に受け取っていたお金を没収してしまうことで、損害を避けることができるからです。
保証金は、この「家賃を支払わない」といった状況のような損害に備えてやりとりされるものです。したがって、あなたが約束通り家賃を支払うなどして、オーナーに損害を与えることなく契約を満了することができれば、原則として、全額返還されます。家賃のように支払ったら終わりではなく、将来的に返還される可能性があるというのが保証金の特徴になります。
なお、保証金については、このような不動産を借りるような場面の他にも、商品を掛けで仕入れている場合に、その商品の仕入先から支払いが求められることもあります。
保証金は費用か資産か
保証金は、不動産の賃借や商品売買取引と関連して支払いが求められる金額であるため、費用ではないかと考える人も多いでしょう。簿記の教材のなかには、資産を「あるとうれしいもの」「企業が持っている財産」といったような表現で説明しているものもありますが、このような形で資産を理解していると、保証金を費用として誤解してしまいがちです。
簿記では、資産を「将来の経済的便益」として定義しています。これは、将来に「経済的に得をする」という意味です。たとえば、自社で乗用車を持っていれば、車を使って移動したいときにレンタカーを使用せずに済む(経済的に得をする)のでその乗用車は資産です。また、たとえば、他社に対して貸付を行っていれば、今は手元にないお金が将来に企業に戻ってくる(お金が増える=経済的に得をする)ので貸付金も資産です。
保証金は、企業が取引先に対して損害を与えるようなことをしなければ、将来の一定のタイミングで返還されます。これは、貸付金や預金と同じように、将来に企業に対してお金を流入させるものですから、保証金についても資産として分類するのが正しい答えになります。
ただし、契約によっては、保証金の一部を返還しないといった条項がつけられることがあります。たとえば、不動産を賃借したときに支払いが求められる敷金は、一般にその不動産を返したときに返金されるものですが、一部の地域では敷金の一部が返還されない「敷引き」という慣習があるようです。保証金が資産とされるのは、それが「将来に返還される」からでした。したがって、将来に返還されないことが決まっている、この「敷引き」に相当する金額については、かりに敷金という名前で支払った金額であっても資産とはなりません。「敷金(保証金)だから資産になるのではなく、将来に返還されるお金だから資産になる」ということをしっかりと覚えておくようにしてください。
保証金を支払ったときの仕訳
保証金を支払ったときは、差入保証金勘定を使用して仕訳を行います。「保証金を支払った」という取引ですが、この「支払った」というのは保証金として「現金等を支払った」という意味であり、差入保証金勘定の増減とは無関係です。保証金(=将来に返還されるお金)は、現在に行った現金等の支払いによって増加しますから、この保証金を支払った取引では、「差入保証金勘定に計上される金額が増えた」と考えます。差入保証金勘定は資産の勘定ですから、その記録は借方に行います。
【設例1】取引保証金として、現金500,000円を支払った。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
差入保証金 | 500,000 | 現金 | 500,000 |
【設例2】取引保証金500,000円を普通預金口座から振り込んだ。なお、この際、振込手数料300円が普通預金口座から引きとされた。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
差入保証金 | 500,000 | 普通預金 | 500,300 |
支払手数料 | 300 |
振込にあたって支払った手数料は、保証金のやりとりとは関係のない、振込にあたって金融機関に対して支払われる金額ですから、差入保証金勘定とは別に支払手数料勘定を使って記録します(差入保証金勘定の「取得原価」にはなりません)。
【設例3】事務所を賃借し、今月および翌月分の家賃600,000円、敷金900,000円、仲介手数料300,000円の合計1,800,000円が普通預金口座から引き落とされた。なお、敷金は、賃借期間中に生じた損失を保証するために支払われるものであり、賃借中に問題がなければ返還時に全額返還される。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
支払家賃 | 600,000 | 普通預金 | 1,800,000 |
差入保証金 | 900,000 | ||
支払手数料 | 300,000 |
不動産を賃借したときは、保証金(敷金)のほかにもさまざまな費用が発生しますが、慌てずに、ひとつひとつを正確に記録していきましょう。なお、保証金については、契約によってその全額または一部の金額が返還されないケースがあります。この場合、その返還されない金額は差入保証金勘定に含めずに、支払手数料、支払礼金等の適切な勘定を使って処理する必要があります。
保証金が返還されたときの仕訳
保証金が返還されたときは、差入保証金勘定の金額を減らします。差入保証金勘定は資産の勘定ですから、金額を減らすときは貸方に記録を行います。
【設例4】取引先との契約終了に伴い、保証金として預け入れていた金額500,000円について全額現金で返還された。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 500,000 | 差入保証金 | 500,000 |
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