消耗品の処理にあたっては、購入した消耗品は資産の勘定である消耗品勘定に、消費した消耗品は費用の勘定である消耗品費勘定に、といったように消費されたか消費されていないかをしっかりと分けて記録することが理想的です。
しかし、消耗品は企業のいたるところで使用されているため、どれだけ消費されているかを把握することは簡単ではありません。このため、今日の簿記では、企業に対して無理に理想を押し付けるのではなく、これに代わる簡便な処理を認めています。
これからこの記事で紹介していく簡便な処理が認められるには1つの条件があります。それは、「会計情報を利用する人々(投資家、金融機関等)が行う意思決定(投資、融資等)に重要な影響を与えないこと」というものです。消耗品は、安価で短期的に消費されるものですから、その会計処理が「重要な影響」を与える可能性はあまり考えられませんが、万が一、この条件に抵触するおそれがある場合は、以下の簡便な処理を行うことは認められません。
2つの簡便な処理
消耗品の処理方法として認められる簡便な処理には、次の2つの方法があります。
- 消耗品の払出時に費用として処理する方法
- 消耗品の購入時に費用として処理する方法
消耗品の払出時に費用として処理する方法では、購入した消耗品を倉庫・保管場所等から出したときに、その金額を消耗品勘定から消耗品費勘定に振り替えます。倉庫・保管場所から出しただけなので、実際にはまだ消耗品が使われていない可能性もあるのですが、そのあたりは無視してしまいます。この方法によれば、倉庫・保管場所等の消耗品の状況を確認さえすればよい(実際に社内をチェックして、消費されてしまったもの、まだ消費されていないものを確認する必要はない)ので、会計処理を行うにあたっての手間を大きく減らすことができます。
消耗品の購入時に費用として処理する方法では、消耗品を購入したときに資産の勘定である消耗品勘定ではなく、費用の勘定である消耗品費勘定を使って記録してしまいます。消耗品を購入した時点で消費したものとして処理してしまいますので、その後、その消耗品が消費されたか、まだ消費されていないかをチェックする必要自体がなくなります。このため、この方法によれば、払出時に費用として処理する方法以上に会計処理の手間を減らすことが可能になります。
消耗品の払出時に費用として処理する方法
消耗品の払出時に費用として処理する方法では、消耗品を購入したときに資産の勘定である消耗品勘定に計上し、消耗品を払い出したときにその金額を費用の勘定である消耗品費勘定に振り替えます。払出時に消耗品費勘定に振り替えてしまっているので、実際にその消耗品を消費したときに仕訳を行う必要はありません。
購入時
【設例1-1】ボールペン(50ケース、1ケースには10本のボールペンが入っている)を1ケース当たり1,000円で購入し、代金は現金で支払った。
消耗品を購入したときは、その取得原価を消耗品勘定に計上します。この取引では、ボールペン50ケースを1ケース当たり1,000円で購入しているので、取得価額は合計50,000円(=50ケース×1,000円)となります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
消耗品 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
払出時
【設例1-2】【設例1-1】で購入したボールペンについて、使用するため倉庫から15ケースを払い出した。
消耗品を払い出したときは、その取得原価を消耗品勘定から消耗品費勘定に振り替えます。【設例1-1】で購入したボールペンの取得原価は50ケースで50,000円ですから、1ケース当たりの取得原価は1,000円(=50,000円÷50ケース)となります。このうち、15ケースを払い出したので、払い出したボールペンの取得原価は15,000円(=1,000円×15ケース)となります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
消耗品費 | 15,000 | 消耗品 | 15,000 |
消費時
払出時に費用として処理する方法では、消耗品を払い出したときに消耗品費勘定への振替を行っていますので、消耗品を使用したときに、仕訳を行う必要はありません。さきほど【設例1-2】で払い出したボールペンは150本(=15ケース×10本)、使用したボールペンは110本ですから、倉庫から払い出されたボールペンのうち40本はまだ使用されていません。本来であれば、まだ使用されていないボールペンは、資産の勘定である消耗品勘定で処理しなければなりませんが、払出時に費用として処理する方法では、その金額が費用の勘定である消耗品費勘定に計上されていることになります。
消耗品の購入時に費用として処理する方法
消耗品の購入時に費用として処理する方法では、消耗品を購入したときに費用の勘定である消耗品費勘定に振り替えます。購入時に消耗品費勘定に振り替えてしまっているので、実際にその消耗品を倉庫・保管場所等から払い出したときや消費したときに仕訳を行う必要はありません。
購入時
【設例2】ボールペン(50ケース、1ケースには10本のボールペンが入っている)を1ケース当たり1,000円で購入し、代金は現金で支払った。
消耗品を購入したときは、資産の勘定である消耗品勘定ではなく、費用の勘定である消耗品費勘定を使って記録します。この取引では、ボールペン50ケースを1ケース当たり1,000円で購入しているので、取得価額は合計50,000円(=50ケース×1,000円)となります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
消耗品費 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
払出時・消費時
消費時に費用として処理する方法では、消耗品を購入したときに費用の勘定である消耗品費勘定に記録を行っていますから、消耗品を払い出したときや、消費したときに仕訳を行う必要はありません。さきほど【設例2】で50ケースのボールペンを購入しました。本来であれば、まだ使用されていないボールペンは、資産の勘定である消耗品勘定で処理しなければなりませんが、購入時に費用として処理する方法では、消耗品費勘定が使われることはありません。
関連記事
消耗品の処理については、簡便な処理だけでなく、原則的な処理もあわせて抑えておくようにしましょう。簡便的な処理の場合、実際の財産の動きと、会計帳簿上の記録がズレてしまいますので、どうしても会計処理を理解することが難しくなってしまいます。とくに簿記の学習を始めたばかりの時期では、少し回り道でも原則的な処理(財産の動きと会計帳簿上の記録が連動する方法)を意識するように心がけると、簿記上の記録の仕組みをイメージしやすくなります。
- 消耗品の処理①(原則的な処理)
- 消耗品の処理②(簡便な処理) この記事
コメント