貸倒引当金の設定①(差額補充法による仕訳)

簿記債権債務決算整理
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期末において、取引先などからまだ回収されていない金銭債権(売掛金、貸付金等)がある場合、将来に起こるかもしれない貸倒れに備えて、あらかじめ一定の金額を当期の損失として計上しておくことが認められています。この実際に貸倒れが起こる前に損失として処理してしまった金額のことを貸倒引当金といいます。

貸倒引当金は、「合理的に予想される将来の損失は前倒しで計上すべし」とする保守主義の考え方のもとで認められているものです。あらかじめ損失を前倒しで計上しておくことで、実際に損失(貸倒れ)が生じたときに、財務諸表上でしか企業の状況を知ることができない企業外部の人々に「不意打ち」の形でショックを与えてしまうことを防ぐことができます。

決算にあたって行われる貸倒引当金の処理には、差額補充法と洗替法の2つの方法がありますが、ここでは前者の差額補充法について説明します

この記事の内容を理解するために知っておいてほしいこと

貸倒引当金勘定の意義

貸倒れが生じると、本来受け取ることができたはずの金銭債権(売掛金、貸付金等)がその貸倒れとなった額だけ失われてしまいます。金銭債権は、すべて資産の勘定に記録されていますから、これが失われたときは、その金銭債権の勘定の貸方に記録が行われます。

【参考】貸倒損失が生じたときの仕訳

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
貸倒損失100,000売掛金100,000

貸倒れに備えてあらかじめ損失を前倒し計上しておくといっても、実際に貸倒れが起こったわけでもないのに、貸倒れが起きたときと同じように金銭債権の額を減らしてしまうと、金銭債権の額が正しくなくなってしまいます。そこで、金銭債権を減らす代わりに貸倒引当金勘定を使用するのです

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
前倒しで計上した損失額XXX貸倒引当金XXX

貸倒引当金勘定に計上すべき金額の計算(貸倒引当金要設定額)

貸倒引当金勘定に計上する金額は、次のように計算します。

\[貸倒引当金要設定額=金銭債権の期末残高\times貸倒実績率\]

貸倒実績率とは、直近の会計期間(通常、直近3年間)において生じた貸倒れの割合(貸倒金額÷金銭債権の額)をいいます。将来にどの程度の金銭債権が貸し倒れになるかを予想することは現実には不可能です。そこで、「同じ企業で過去に起こったことは将来も同じように起こるだろう」と考えて、過去の貸倒れ割合を貸倒引当金の計算に使用するのです。

たとえば、金銭債権(売掛金、貸付金など)の期末残高が100,000円、貸倒実績率が1%であった場合、貸倒引当金として設定すべき金額は次のように求められます。

\[貸倒引当金要設定額=金銭債権期末残高100,000円\times1\%=1,000円\]

差額補充法による貸倒引当金の設定

差額補充法では、貸倒引当金勘定の残高が、上で計算した貸倒引当金要設定額になるようにその金額を調整します。決算にあたって、期末の貸倒引当金勘定の残高が貸倒引当金要設定額よりも少ないときは、その不足額を補充します。これに対して、期末の貸倒引当金の残高が貸倒引当金要設定額よりも多かったときは、その超えた部分の金額を減らします。

貸倒引当金の繰入れ(期末残高<要設定額のケース)

貸倒引当金勘定の期末残高が、貸倒引当金要設定額よりも少ない場合は、その不足額を貸倒引当金勘定に追加します。貸倒引当金勘定に金額を追加するときは、その追加額を貸方に計上します。

貸倒引当金勘定の相手勘定は、貸倒引当金繰入勘定とします。前倒しした金額ではありますが損失の額が計上される勘定ですので、これは費用の勘定になります。貸倒引当金繰入勘定に計上した金額は、当期の費用として損益計算書に計上されます。

たとえば、貸倒引当金勘定の期末残高が700円、貸倒引当金要設定額が1,000円であった場合、貸倒引当金勘定の残高を1,000円にするには、300円を追加する必要がありますから、その仕訳は次のようになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
貸倒引当金繰入300貸倒引当金300

この仕訳を行った結果、貸倒引当金勘定の残高はもともとあった700円に300円が追加された1,000円となります。

貸倒引当金の戻入れ(期末残高>要設定額のケース)

貸倒引当金勘定の期末残高が、貸倒引当金要設定額よりも多い場合は、その超える部分の金額を貸倒引当金勘定から減らします。貸倒引当金勘定から金額を減らすときは、その金額を借方に計上します。

貸倒引当金勘定の相手勘定は、貸倒引当金戻入勘定とします。将来に発生すると予測されていた損失がなくなったという意味で、貸倒引当金戻入勘定が計上されるときは、経済的に「得」をしたと考えます。このため、この「得」をした金額が記録される貸倒引当金戻入勘定は収益の勘定になります。貸倒引当金戻入勘定に計上した金額は、当期の収益として損益計算書に計上されます。

たとえば、貸倒引当金勘定の期末残高が1,100円、貸倒引当金要設定額が1,000円であった場合、貸倒引当金勘定の残高を1,000円にするには、期末残高から100円取り除く必要がありますから、その仕訳は次のようになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
貸倒引当金100貸倒引当金戻入100

この仕訳を行った結果、貸倒引当金勘定の残高はもともとあった1,100円から100円少なくなった1,000円となります。

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貸倒引当金を設定する仕訳には、この記事でとりあげた差額補充法のほかに、洗替法によるものがあります。税法上は、洗替法による仕訳が基本になりますから、こちらもあわせて理解するようにしてください。

貸倒引当金の設定

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