一定の期間にわたり充足される履行義務に係る収益の認識(見越し・繰延べによる方法と「収益認識に関する会計基準」による方法の比較)

簿記収益認識
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一定期間にわたってサービスを提供する場合、そのサービスの提供から生じる収益の認識については、対価を受け取ったタイミング(簿記上の取引があったタイミング)で収益を認識し、決算のタイミングで見越し・繰延べの処理を行うことで、これを当期分の金額に修正するという会計処理が採用されてきました。

2021年4月1日から全面適用となった「収益認識に関する会計基準」では、このようなこれまでの会計処理とは異なる、新しい会計処理の方法が採用されています。この記事では、一定の期間にわたり充足される履行義務に係る収益の認識について、従来の会計基準のもとで行われていた会計処理と、新しい会計基準の下で行われるようになった会計処理を比較していきます。

日本商工会議所は、2021年12月10日に公表した「企業会計基準第 29 号「収益認識に関する会計基準」等の適用にともなう商工会議所簿記検定試験出題区分表などの改定について【確定版】」のなかで、日商簿記検定3級では、2022年度以降も、従来の方法で収益の見越し・繰延べの問題を出題する(受取家賃・受取地代・受取利息)ことを発表しています。日商簿記検定3級では、「収益認識に関する会計基準」における処理はできませんので注意してください(使用できる勘定科目のなかに契約負債が存在しないものと思われます)。

この記事の内容を理解するために知っておいてほしいこと

サービスの提供に先立って、前払いで対価を受け取る場合

【設例1】20X1年7月1日、事務所を1年間の契約で沈滞した。1年分の家賃は1,200,000円であり、契約時に全額現金で受け取っている。なお、当社の会計期間は、毎期、4月1日から翌3月31日までの1年間である。

従来の方法

家賃を受け取ったとき(20X1年7月1日)

会計期間中は、企業の財産に動きがあったタイミングで仕訳を行います。この設例では、契約時に現金を受け取っているため、このタイミングで仕訳が必要です。現金勘定の相手勘定は、受取家賃勘定となります。契約時にはまだ1日も事務所は賃貸されていませんが、企業の財産に動きがあったため、これと連動する形で収益も認識してしまうのです。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金1,200,000受取家賃1,200,000

決算時(20X2年3月31日)

決算時には、当期の損益を正しく計算するため、契約時に受け取った金額のうち当期以外(次期以降)の期間に対応する部分の金額を収益の勘定(受取家賃)から取り除きます。ここで取り除いた金額は、経過勘定である前受家賃勘定(負債の勘定)に計上します(収益の繰延べ)。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
受取家賃300,000前受家賃300,000

 1年分の家賃1,200,000円÷12か月×3か月(次期4月~6月)=300,000円

受取家賃勘定の残高(1,200,000円ー300,000円=900,000円)は、損益振替仕訳によって損益勘定に振り替えられてしまいますから、この金額が次期に繰り越されることはありません。次期に繰り越されるのは、経過勘定である前受家賃勘定の金額だけです。

再振替仕訳(20X2年4月1日)

決算にあたって収益の繰延べを行った場合、翌期首付けで再振替仕訳を行います。再振替仕訳では、繰延べの仕訳を貸借反対に行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
前受家賃300,000受取家賃300,000

再振替仕訳により、前期から繰り越されてきた前受家賃勘定の残高はゼロになります。その代わりに、当期の収益として、収益の勘定(受取家賃)に前期から繰り越されてきた300,000円が計上されることになりました。

契約終了時(20X2年6月30日)

契約終了時に仕訳を行う必要はありません。当期分の期間(4月~6月)に対応する部分の金額は、すでに再振替仕訳によって収益の勘定(受取家賃)に計上されてしまっているからです。

「収益認識に関する会計基準」による方法

家賃を受け取ったとき(20X1年7月1日)

家賃を受け取ったことにより、企業は「対価を受け取っているにもかかわらず、やるべきこと(事務所の賃貸)を行っていない」状況になっています。「収益認識に関する会計基準」では、このような状況のときに、まだ充足していない履行義務に対応する金額を契約負債勘定に計上することを定めています(「収益認識に関する会計基準」第78項)。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金1,200,000契約負債1,200,000

このタイミングでは、まだ履行義務が充足されていませんから、受け取った金額を収益の勘定に計上することは認められません。

決算時(20X2年3月31日)

決算時には、当期の損益を正しく計算するため、当期中に充足された履行義務に対応する部分の金額を契約負債勘定から収益の勘定(受取家賃)に振り替えます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
契約負債900,000受取家賃900,000

※ 1年分の家賃1,200,000円÷12か月×9か月(当期7月~3月)=900,000円

ここで受取家賃勘定に計上した金額(900,000円)は、損益振替仕訳によって損益勘定に振り替えられてしまいますから、この金額が次期に繰り越されることはありません。次期に繰り越されるのは、契約負債勘定の残高(1,200,000円ー900,000円=300,000円)だけです。

期首の仕訳(20X2年4月1日)

期末に繰延べの仕訳を行っていませんから、再振替仕訳も必要ありません。期首のタイミングでは、当期中の期間(4月~6月)に対応する履行義務はまだ充足されていませんので、繰延べのときのように、これに対応する部分の金額を収益として認識すると、これまでの処理と整合性がとれなくなってしまいます。

契約終了時(20X2年6月30日)

契約が終了したときは、当期首からそこまでの間(4月~6月)に充足した履行義務に対応する金額を契約負債勘定から収益の勘定(受取家賃)に振り替えます。契約が終了したので、その契約において約束したこと(履行義務)についての記録(契約負債)もすべて会計帳簿上から取り除いてやる必要があります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
契約負債300,000受取家賃300,000

会計帳簿上の記録の動きの比較

以上の仕訳の結果、会計帳簿上の記録がどのように変わるかをまとめたものが次の図になります(gifアニメーション)。どちらの場合も、財務諸表(損益計算書、貸借対照表)に計上される金額に変わりはありませんが、記録が行われるタイミングや使用される勘定に違いが出てきます。

繰延を行う場合と「収益認識に関する会計基準」の方法で収益を認識を認識する場合の比較

サービスの提供後、後払いで対価を受け取る場合

【設例2】20X1年7月1日、事務所を1年間の契約で沈滞した。1年分の家賃は1,200,000円であり、契約終了時に全額現金で受け取ることになっている。なお、当社の会計期間は、毎期、4月1日から翌3月31日までの1年間である。

従来の方法

契約時(20X1年7月1日)

会計期間中は、企業の財産に動きがあったタイミングで仕訳を行います。この設例では、家賃の受取は契約終了時となっていますので、このタイミングでは仕訳を行いません。

決算時(20X2年3月31日)

決算時には、当期の損益を正しく計算するため、まだ収益の勘定に計上されていない当期の収益の額を追加計上する必要があります。この設例では、当期中に事務所を賃貸した9か月分(7月~3月)の家賃がまだ収益の勘定に計上されていません。そこで、この9か月分の家賃を追加計上します。(収益の見越

この家賃はまだ受け取っていませんから、受取家賃勘定の相手勘定は、経過勘定である未収家賃勘定(資産の勘定)に計上することになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
未収家賃900,000受取家賃900,000

※ 1年分の家賃1,200,000円÷12か月×9か月(当期7月~3月)=900,000円

受取家賃勘定に計上された金額(900,000円)は、損益振替仕訳によって損益勘定に振り替えられてしまいますから、この金額が次期に繰り越されることはありません。次期に繰り越されるのは、経過勘定である未収家賃勘定の金額だけです。

再振替仕訳(20X2年4月1日)

決算にあたって収益の見越しを行った場合、翌期首付けで再振替仕訳を行います。再振替仕訳では、見越しの仕訳を貸借反対に行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
受取家賃900,000未収家賃900,000

再振替仕訳により、前期から繰り越されてきた未収家賃勘定の残高はゼロになります。その代わりに、前期に収益として計上してしまった900,000円が、当期の収益のマイナス分として、収益の勘定(受取家賃)に計上されることになります。

契約終了時(20X2年6月30日)

契約終了にあたって1年分の家賃を受け取りましたから、その金額を計上します。従来の方法では、ここで受け取った金額をすべて収益の勘定(受取家賃)に計上してしまいます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金1,200,000受取家賃1,200,000

前期に収益として計上した金額は、再振替仕訳によって、当期の収益のマイナス分として計上されていますから、トータルで考えれば、当期分の期間(4月~6月)に対応する部分の金額300,000円(=1,200,000円ー900,000円)だけが収益の勘定に残ることになります。

「収益認識に関する会計基準」による方法

契約時(20X1年7月1日)

この設例では、家賃を受け取っておらず、かつ、まだ事務所も賃貸していない(何もしていない)状態なので、何もする必要はありません。

決算時(20X2年3月31日)

決算時には、当期の損益を正しく計算するため、当期中に充足された履行義務に対応する部分の金額を収益の勘定(受取家賃)に計上します。

受取家賃勘定の相手勘定は売掛金勘定(または営業債権勘定)とします(「収益認識に関する会計基準」第12項、第77項)。事務所を賃貸するというサービスはすでに提供していますから(履行義務は充足済)、あとはその金額が相手によって支払われるのを待つだけです。このように、企業がやるべきことをやってしまい、後は支払いを待つだけの状態になっている金額は、企業の債権(売掛金・営業債権)として処理してください。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
売掛金900,000受取家賃900,000

※ 1年分の家賃1,200,000円÷12か月×9か月(当期7月~3月)=900,000円

ここで受取家賃勘定に計上した金額(900,000円)は、損益振替仕訳によって損益勘定に振り替えられてしまいますから、この金額が次期に繰り越されることはありません。次期に繰り越されるのは、売掛金勘定の残高(900,000円)だけです。

期首の仕訳(20X2年4月1日)

期末に見越しの仕訳を行っていませんから、再振替仕訳も必要ありません。期首のタイミングでは、当期中の期間(4月~6月)に対応する履行義務はまだ充足されていませんので、収益に関する記録は一切行いません。

契約終了時(20X2年6月30日)

契約が終了したときは、受け取った家賃の額を計上するとともに、次の処理を行います。

前期分の収益については、前期末に売掛金を計上していますから、この売掛金を回収したと考えて、売掛金勘定に計上されていた金額を取り崩します。

当期分の収益については、まだ一切の処理が行われていません。当期首から契約終了までの間(4月~6月)に充足した履行義務(事務所の賃貸)に対応する金額は、次のように、直接、収益の勘定(受取家賃)に計上します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金1,200,000売掛金900,000
  受取家賃300,000

会計帳簿上の記録の動きの比較

以上の仕訳の結果、会計帳簿上の記録がどのように変わるかをまとめたものが次の図になります(gifアニメーション)。どちらの場合も、財務諸表(損益計算書、貸借対照表)に計上される金額に変わりはありませんが、記録が行われるタイミングや使用される勘定に違いが出てきます。

見越を行う場合と「収益認識に関する会計基準」の方法で収益を認識を認識する場合の比較

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