商品を販売するに先立って、内金や手付金として、その代金の全部または一部を受け取った場合、その金額は、従来、前受金勘定で処理されていましたが、2021年より全面適用となった「収益認識に関する会計基準」では、内金や手付金を受け取った場合、その金額を契約資産勘定を使って処理することとされています。この記事では、この新しい会計基準による処理について、従来の方法との違いとあわせて説明していきます。
「収益認識に関する会計基準」による処理の概要
契約負債の意義
「収益認識に関する会計基準」では、顧客から対価を受け取っている、または、対価を受け取る期限が到来している一方で、まだ顧客に対して約束した財またはサービスの提供を行っていない場合に、その財またはサービスを提供する義務(履行義務)を契約負債勘定に計上しなければならないと定められています(第78項)。
「収益認識に関する会計基準」では、単純に収益の額を認識するだけでなく、企業がこれからどれだけのことをやらなければならないか(履行義務)についても、財務諸表上で明らかにしようという考え方がとられています。契約負債勘定は、このような「これからやらなければならないこと」を記録するために使用される勘定です。
前受金勘定との違い
内金や手付金を受け取った場合、従来であれば、その金額は、前受金勘定に計上されていました。これに対して、「収益認識に関する会計基準」では、これを契約負債として計上しなければなりません。これは、契約上、顧客に対して約束したことであることが明確になるようにとの配慮による措置であるため、前受金勘定のような他の勘定を使用することは原則として認められません。
内金・手付金に係る売手側の処理
内金・手付金を受け取ったとき
内金や手付金を受け取ったときは、その金額を契約負債勘定に計上します。これは、内金や手付金を受け取ることによって、将来にその顧客に対して財またはサービスを提供する義務を負ったことを意味する勘定です。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 20,000 | 契約負債 | 20,000 |
顧客に対して提供することを約束した商品は100,000円ですが、契約負債は、そもそも対価を受け取ったか、または、対価を受け取る期限が到来したものに対して計上されるものですから、ここで契約負債勘定に計上されるのは、実際に現金を受け取った20,000円部分だけです。
顧客に対して財またはサービスを提供したとき
後に、顧客に対して財またはサービスを提供したとき(履行義務を充足したとき)は、契約負債勘定に計上していた金額を収益の勘定に振り替えます。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
契約負債 | 20,000 | 売上 | 100,000 |
現金 | 80,000 |
この仕訳は、①内金として受け取っていた20,000円分について履行義務がが充足された仕訳と、②残りの80,000円分について対価の受取りと履行義務の充足が同時に行われた仕訳の2つに分けて考えると分かりやすいでしょう。
① 内金を受け取っていた部分(履行義務の充足)
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
契約負債 | 20,000 | 売上 | 20,000 |
② 残額部分(対価の受取り+履行義務の充足)
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 80,000 | 契約負債 | 80,000 |
契約負債 | 80,000 | 売上 | 80,000 |
契約がキャンセルされたとき
内金や手付金を受け取った後、その契約がキャンセルされたときは、顧客に対して財またはサービスを提供する義務もそのキャンセルによって消滅しますから、内金や手付金を受け取ったときに計上した契約負債勘定の金額を取り崩します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
契約負債 | 20,000 | 現金 | 20,000 |
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