一定の期間にわたり充足される履行義務に係る収益の認識(土地・建物の貸付けの場合)

簿記収益・費用決算整理
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企業の営業活動から生み出される収益は、顧客に対して約束した財またはサービスを提供したとき(履行義務の充足)に認識されます。土地や建物を貸し付けた場合のように、ある程度の期間にわたってサービスの提供が継続されるものについては、そのサービス提供期間が複数の会計期間にまたがってしまうこともあります。今日の簿記では、期間損益計算を行うことが前提となっていますから、このような場合は、収益として計上すべき金額を会計期間ごとに割り当てていくことが必要になります。

この記事では、①地代・家賃を前払いで受け取っているとき、②地代・家賃を後払いで受け取るときの2つのケースに分けて、それぞれどのように会計処理を行っていけばよいかについて見ていきます。

この記事の内容を理解するために知っておいてほしいこと

地代・家賃を前払いで受け取っているとき

まず、地代・家賃を前払いで受け取っている場合の処理を考えてみましょう。

【設例1】20X1年7月1日、当社が保有する建物を貸し付け、1年分の家賃1,200,000円を現金で受け取った。当社の会計期間は、毎年4月1日から翌3月31日までの1年間である。

地代・家賃を受け取ったときの処理(20X1年7月1日)

期中は、企業の財産に動きがあったときに仕訳を行います。この取引では、1年分の家賃として現金を受け取っていますから、これを現金勘定に計上します。

家賃は、建物を貸し、自由に使わせること(履行義務)への対価として支払われるものですが、契約のタイミングでは、まだその建物は1日も使用されていません。収益は、履行義務が充足されたときに認識しなければなりませんから、このようなまだ何のサービスも提供していない状況では収益を計上することができません。

このように、顧客に対してサービスを提供する前に、対価を先行して受け取っている場合は、これから企業が提供しなければならないサービスに対応する金額を契約負債勘定に計上します。契約負債勘定は、その名の通り負債の勘定であり、これから提供しなければならないサービスの量を金額の形で表したものです(1,200,000円分のサービスを提供しなければならない)。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金1,200,000契約負債1,200,000

決算時の処理(20X2年3月31日)

一定の期間にわたって充足される履行義務のうち、複数の会計期間にわたって充足されるものについては、決算のタイミングで、当期中に充足された履行義務に対応する部分の金額を当期の収益として計上します。この設例では、すでに7月から3月までの9か月間にわたって建物が貸し付けられているので、契約時に受け取った1,200,000円のうち、この9か月分に相当する900,000円(=1,200,000円÷12か月×9か月)を当期の収益として受取家賃勘定に計上します。

当期の収益を計上したら、これに相当する契約負債を取り崩します。契約負債は「これから提供しなければならないサービスに対応する金額」を記録しておくための勘定ですから、すでに建物を使用させてしまった部分の金額を契約負債勘定に残していてはいけません。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
契約負債900,000受取家賃900,000

 

なお、以前に行われていた繰延べによる方法では、翌期首付けで再振替仕訳を行う必要がありましたが、この方法では再振替仕訳は行いません。契約時に収益(受取家賃)を認識していたいため、翌期への繰り延べを行う必要がそもそもないからです。

契約終了時の処理(20X2年6月30日)

契約期間が終わったときは、その契約に基づいて提供したサービスに対応する金額のうち、まだ収益として計上されていない部分の金額を収益の勘定に計上します。

この設例では、3月までの家賃についてはすでに前期のうちに収益(受取家賃)として計上されていますが、その後の4月から6月までの家賃はまだ収益として計上されていません。そこで、この3か月分の家賃について、収益を計上するとともに、これに対応する契約負債を取り崩します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
契約負債300,000受取家賃300,000

 


これら一連の仕訳を行うことで、はじめに受け取った1年分の家賃のうち、9か月分は20X1年度(20X1念4月1日~20X2年3月31日)に、3か月分は20X2年度(20X2年4月1日~20X3年3月31日)にと、それぞれの期間に分けて計上することができました。

家賃・地代を後払いで受け取るとき

次に、地代・家賃を後払いで受け取る場合の処理を考えてみましょう。

【設例2】20X1年7月1日、当社が保有する建物を貸し付けた。家賃は20X2年6月30日に1年分1,200,000円をまとめて現金で受け取ることになっている。当社の会計期間は、毎年4月1日から翌3月31日までの1年間である。

この設例は、家賃を受け取るタイミング以外は【設例1】と同じです。

契約締結時の処理(20X1年7月1日)

契約を締結したタイミングでは、建物を貸すというサービス(履行義務)をまだ提供していませんので、家賃に係る収益が認識されることはありません。また、今回の設例ではまだ家賃も受け取っていませんので、契約負債も計上されません。

決算時の処理(20X2年3月31日)

決算にあたっては、【設例1】と同じように、当期中に充足された履行義務に対応する部分の金額を当期の収益として計上します。この設例では、7月から3月までの9か月間にわたって建物を貸し付けているので、契約時に受け取った1,200,000円のうち、この9か月分に相当する900,000円(=1,200,000円÷12か月×9か月)が当期の収益として受取家賃勘定に計上されることになります。

今回の設例では、契約時に契約負債が計上されていませんから、さきほどのように契約負債の取り崩しを行うことはできません。このような場合、借方は、営業債権勘定または契約資産勘定とします。

契約資産勘定と営業債権勘定のどちらを使用するかは、次のように判定します(「収益認識に関する会計基準」第10項・第12項・第77項・第150項)。

  • 営業債権勘定を使用する場合……企業が顧客に対して提供したサービスと引き換えに受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件であるもの(対価を受け取る期限が到来する前に必要となるのが時の経過のみであるもの)
  • 契約資産勘定を使用する場合……企業が顧客に対して提供したサービスと引き換えに受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件でないもの(対価を受け取る期限が到来する前に別途何かを行う必要があるもの)
借方科目借方金額貸方科目貸方金額
契約資産900,000受取家賃900,000

 

契約期間の中途でその契約が解約されたときに、すでに貸付けが行われた期間に相当する部分の家賃については日割りで請求することができる旨が定められているなどの場合は、すでに経過した期間に対応する家賃を無条件で受け取ることができる状態になっていると解されるので、このような場合は、契約資産勘定ではなく、営業債権勘定を用いて記録したほうが会計基準と整合的な処理といえるでしょう。

なお、以前に行われていた見越しによる方法では、翌期首付けで再振替仕訳を行う必要がありましたが、この方法では再振替仕訳を行いません。翌期に収益(受取家賃)として計上される金額は、家賃として受け取った金額ではなく、翌期に提供したサービスに対応する金額だけなので、前倒しで計上した収益を翌期首にマイナスしておく必要がないです。

契約終了時の処理(20X2年6月30日)

契約を終了したときは、その契約に基づいて提供した財またはサービスに対応する金額のうち、まだ収益として計上されていない部分の金額を収益の勘定に計上します。

これとあわせて、受け取った地代・家賃の処理を行います。受け取った家賃のうち、前期に収益として計上した900,000円については、契約資産(または営業債権)が計上されていますので、これを取り崩して貸借を一致させます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金1,200,000受取家賃300,000
  契約資産900,000

 


これら一連の仕訳を行うことで、はじめに受け取った1年分の家賃のうち、9か月分は20X1年度(20X1念4月1日~20X2年3月31日)に、3か月分は20X2年度(20X2年4月1日~20X3年3月31日)にと、それぞれの期間に分けて計上することができました。

【設例1】と【設例2】とでは、家賃の受取方法に違いはありましたが、建物を貸し付けるというサービスの提供(履行義務の充足)に違いがないことから、各期の収益の額として計上される金額は、900,000円、300,000円とどちらも同じになります。

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