【論文紹介】医療法人による「関係事業者との取引の状況に関する報告書」における情報開示の現状と課題―第7次改正「医療法」施行初年度の開示状況調査をもとに―

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このたび論文「医療法人による『関係事業者との取引の状況に関する報告書』における情報開示の現状と課題―第7次改正『医療法』施行初年度の開示状況調査をもとに―」が刊行されました。この論文は、『和光経済』(和光大学社会経済研究所)第54巻第2・3号(2022年3月発行)に掲載されています。

この論文は、下のリンク先からダウンロードできます。

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論文の概要

この論文の目的は、医療法人が「関係事業者との取引の状況に関する報告書」(以下、「関係事業者報告書」といいます)を適切に作成できるようになるには、どのようなガイドラインが必要かを考えることにありました。

「関係事業者報告書」は、いわゆる第7次医療法改正によって、新たに医療法人に対して作成が義務づけられるようになった書類で、医療法人がその役員若しくはその親族またはこれらの者が実質的に支配している他の法人との間で行っている取引の状況を明らかにすることを目的としています。医療法人に対しては、「医療法」に医療法人に係る定めが設けられた当初から剰余金の配当を行うことが禁じられていますが、その趣旨に反して、役員やその親族に対して直接または関連法人を迂回して間接的に剰余金の配当と同等の行為が行われているとの指摘がありました。「関連事業者報告書」の導入には、そのような資金の流れを可視化するねらいがあったのです。

「関連事業者報告書」の様式は、以前から企業会計において行われている「関連当事者の開示に関する会計基準」を踏襲したものになっていますが、それまでこのような情報開示が行われてこなかった医療法人に対して、いきなり企業会計レベルの情報開示を行わせることにははじめから無理があるように思われました。

そこで、この研究では、まず、第7次改正「医療法」の施行初年度における「関係事業者報告書」の開示実態を調査することを通じて、医療法人にとって、どのような点が理解されにくいのかを明らかにするところから着手しました。「関連j業者報告書」の作成はすべての医療法人に対して義務づけられていますが、本研究では、公認会計士監査が義務づけられる一定規模以上の法人(「医療法」第51条第2項適用対象法人)を対象とすることにしました。公認会計士監査が行われている以上、医療法人側が犯した単なるミスは事前に修正され、医療法人側の純粋な理解の状況が分かると考えたからです。

しかし、残念なことに、結果は惨憺たるものでした。「関係事業者報告書」において開示すべき項目はすべて統一されているのに、医療法人によって記載されている内容がばらばらといったものが複数の項目で見られました。何の説明もなく空白になっていたり、債権・債務の残高を記載すべきところに固定資産の残高や特別損益が記載されていたりといった状況もありました(本音を言えば、本当に公認会計士監査を受けたのか疑問なところもありました)。

「関係事業者報告書」の作成にあたっては、厚生労働省が通知を出しています。「関係事業者報告書」について一部の医療法人が適切なものを作成できていない原因について、その通知に示された指針が十分でないのか、それとも医療法人側にコンプライアンス精神が欠けているのかは定かではありませんが、本論文では前者に問題があると措定して、これを解消できるような指針の改善案を最後に提案しました(その内容については論文をご覧ください)。

思うことなど

医療法人に対しては、剰余金の配当を行うことが禁じられていますが、実際には、メディカルサービス法人(MS法人)を経由するなどさまざまな方法で「事実上の配当」が行われていることが以前から指摘されていました。「関係事業者報告書」は、このような医療法人から役員・関係者への財産の流出の状況を可視化する目的で導入されたものですが、あまりよくわからなかったというのが正直なところです。

医療法人に係る会計の問題については2000年代から議論の遡上にはのぼるものの制度化までは至らないという状況が続いていました。第7次「医療法」改正は、いわゆる徳洲会事件という社会的に注目を集めた事件を受けてようやく成立したものであることもあり、ここでしっかりした成果をあげることができなければ、また医療法人会計は低迷したまま、お金の問題は闇の中といったことにもなりかねないのではないかと思っています。

今回、開示実態の調査を行いましたが、制度の形骸化というべきか「仏作って魂入れず」というべきか何と言ってよいか分かりませんが「悪い予感」が当たってしまったような気がしています。情報開示によるコントロールには、「世間からの目」が不可欠なので、今後も第7次改正「医療法」のもとで新たに行われるようになった情報開示については追跡をしていきたいと考えています。

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