このたび「都道府県による医療法人の経営実態把握を支援するサポートツールの開発」という課題で科研費(基盤研究(C)。2022年度~2024年度)に採択されました。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、オンライン講義をはじめ、従来にはなかったさまざまな出来事が立て続けに起こったため、日々バタバタしており、研究にあまり時間を割くことができていなかったのですが、今回の採択により、社会に必要とされる研究がまだできているのかなと正直安心したところがあります。
研究代表者として科研費の採択を受けたのは、「医療法人会計における連結制度導入に向けた理論的基盤の構築に関する研究」(若手研究(B)。2018年度~2019年度)以来2回目で、今回は初の基盤研究となりました。年齢的にも学位的にも若手研究に出せる状況ではなくなったこともあり、今後は基盤だけで勝負していかなければならないわけですが、その意味でもここで1ついただけたことは価値があるのかなと思います。
研究の概要
本研究の目的は、医療法人がその関係事業者との間で行う資金のやりとりの実態を、都道府県が各医療法人の事業報告書等に掲載された情報から容易に把握できるようなサポートツールを開発することにある。具体的には、都道府県に対する情報ニーズの調査(アンケート調査)、医療法人による情報開示の実態調査を行い、その結果をもとにツール(事業報告書等に記載された情報を入力することで資金の流れを可視化できるモデル)の開発を行う。このツールを使って、都道府県が医療法人における資金の流れをより適切に把握できるようになれば、医療法人に対して根拠をもって指導を行うことができるようになるだけでなく、医療法人側の会計情報開示に対する意識を向上させ、医療法人が作成する会計情報の質の向上にもつながることが期待される。
「研究計画調書」より
医療法人は、毎期、その事業報告書等(計算書類を含む)を都道府県知事に対して届け出なければなりません。都道府県知事は届け出られた情報をもとに医療法人の経営実態を把握し、必要に応じて指導・監督を行うことになるわけですが(「医療法」第63条ないし第69条)、都道府県側に届け出られた情報から医療法人の経営状況を把握できているか、さらにいえば、経営状況の把握をしようとしているかについては疑問があります。
私がこのような疑問を持ったのは、以前、厚生労働省が行った調査において、都道府県側から「調査のための人員が不足している」「会計に精通する職員が欠けている」といった旨の回答が寄せられていたり(厚生労働省「医療法人の非営利性の確保状況等に関する都道府県等調査の結果について」(「医療法人の非営利政党に関する検討会」第4回参考資料1-1))、医療法人から届け出られた事業報告書等に誤った記載(しかも設立年月日)が2年連続で掲載されていたという調査結果があったり(福山祐介「医療法人会計基準政策導入の事例分析と今後の課題:東海3県へ届出のあった医療法人決算関係書類の分析をもとに」日本医療病院・管理学会誌)することを目にしていたからです。
第7次「医療法」改正では、医療法人の会計制度に株式会社で採用されているものを採り入れる形で見直しが行われました。しかし、不特定多数の株主から構成される株主総会とは違い、医療法人の最高意思決定機関である社員総会(社団医療法人の場合)は社員の数が限定され、その入れ替えもなかなか行われない現状があります。そうである以上、指導・監督の責を負う都道府県が医療法人の経営状況をしっかりと上からチェックしてもらうことが必要だろうと考えました。
研究課題として「サポートツールの開発」という会計研究としては少々異例のタイトルをつけましたが、都道府県側にマンパワーが不足しており、早晩に解消される見込みもない現状において、たとえ微力であっても助けになるものを考えてみたいという意思を込めて、このようなタイトルにしてみました。
先般発表された論文「医療法人による『関係事業者との取引の状況に関する報告書』における情報開示の現状と課題―第7次改正『医療法』施行初年度の開示状況調査をもとに―」では「関係事業者との取引の状況に関する報告書」のみに焦点をあてて調査を行いましたが、この研究では、ここで開示されているを会計情報や事業報告書に示された役員・開設施設と結びつけて、医療法人がその関係事業者との間で行っている取引のアウトラインを直感的に把握できるようなものを構築していきたいと考えています。
研究計画書について
「研究計画書には図表を入れましょう」といった話はよく聞くのですが、今回の研究計画書にはずも表もありませんでした。パワーポイントにありがちな概念図を使うこともありませんでした。指定された11ptで書いていたらあっという間に用紙が埋まってしまったというのが実際のところでしたが、私の作画センスのなさからして書かなかったのが正解だったのかもしれません。
見やすさが重要ということだったので、今回は、MS 明朝ではなく、UD-BIZ明朝を使用しました(pdf化にあたってフォントの埋め込みを忘れずに)。このフォントは、MS 明朝と比べて少し線が太いのと若干丸っこい印象があります。あとは形式面でいえば、本文に太字は使用せずに強調は下線で行う(審査委員の方が下線を引く可能性を考慮して波線としました)、見出し前に空行を入れる、注とカッコ書きは書籍と同じように少し小さめのフォントで書くといったところでしょうか。魂は細部に宿るというやつですね。
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