移動平均法による商品有高帳の記帳③(返品時)

会計帳簿商品売買
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この記事では、移動平均法による商品有高帳の記録のうち、返品が行われたときに行う記録について見ていきます。

返品とは、商品の汚損・破損といった問題により、商品売買契約を事後的に取り消し、商品を買手から売手に戻すことをいいます。増加と減少という違いはありますが、仕入や売上の場合と同じように企業が保有する商品の数が変化するので、商品有高帳への記録が必要になります。

設例

次の甲商品について4月中に行われた一連の取引について、移動平均法により商品有高帳への記録を行いなさい。なお、甲商品の前月繰越高は14,400円(30個×@480円)である。

4月3日売上10個商品1個あたりの販売価格@800円
9日仕入40個商品1個あたりの購入価格@490円、付随費用200円
10日仕入返品20個9日仕入分。返金額9,800円
12日売上20個商品1個あたりの販売価格@800円
14日売上返品10個12日売上分。返金額8,000円(返品商品は販売前の商品と区別しない)
18日売上10個商品1個あたりの販売価格@800円
20日仕入20個商品1個あたりの購入価格@489円、付随費用195円
27日売上10個商品1個あたりの販売価格@800円

商  品  有  高  帳
甲 商 品
摘要受入払出残高
数量単価金額数量単価金額数量単価金額
41前月繰越3048014,400   3048014,400
 3売上   104804,800204809,600
 9仕入4049519,800   6049029,400
 10仕入返品△20495△9,900   40487.519,500
 12売上   20487.59,75020487.59,750
 14売上返品   △10487.5△4,87530487.514,625
 20仕入20498.759,975   5049224,600
 27売上   104924,9204049219,680

売上返品(売上戻り)があったときの記録

販売先から商品が返品された場合の記録は、その商品を販売前の商品(新品)と区別せずに処理するか、中古品・アウトレット品のように販売前の商品(新品)とは別のものとして処理するかによって変わります。

戻り商品を販売前の商品と区別せずに処理する場合

払出欄

販売先から返品された商品を、まだ販売されていない商品と区別せずに処理する場合は、商品を売り上げたときに行った払出欄の記録を取り消すと考えて記録を行います。

単価欄には、その商品を売り上げたときに使用した払出単価を使用します。この設例で14日に返品された商品はもともと12日に売り上げたものでした。12日にはその記録を払出単価487.5円で行っていますので、14日に返品された商品の単価も487.5円となります。

あとは、この単価に返品された商品の数量を掛けて、金額欄に記入する額を次のように求めます。

  • 払出欄に記入する金額:10個×487.5円=4,875円
摘要受入払出残高
数量単価金額数量単価金額数量単価金額
 12売上   20487.59,75020487.59,750
 14売上返品   △10487.5△4,87530487.514,625

なお、払出欄の記録を取り消すのですから、払出欄に記録する数量、金額はどちらもマイナスになります。そこで、マイナスの数量、マイナスの金額であることが分かるように、その記入を赤字で行ったり、金額の前にマイナスを意味する△をつけたりします。このとき、一般にマイナスを表すときに使われる「-」は使用しません。見間違えやコピー等で判別しにくくなってしまうことを避けるためです。

商品有高帳は、補助簿として作成されることから、その記録の方法について会計基準などに定めが設けられていることはありません。このため、その記入方法についても企業の裁量が認められています。

返品の記録にあたって、上では払出欄に記録する方法を説明しましたが、書籍やインターネットサイトでは、これを払出欄ではなく、受入欄に記録する方法で説明されているものもあります。定めがない以上、このような方法も間違いではありません。

日商簿記検定などの資格試験では、解答すべき場所が(   )で指定されていますから、(   )のある場所に解答してください(受入欄に記入する場合は、赤記・△はいずれも必要ありません)

このサイトでは、値引・割戻時に記録が行われる場所との整合性を図るため、上のように払出欄に記入する方法で説明しています。

残高欄

残高欄には、次の3つのものを記録します。

  1. 返品後の商品の数量(在庫数量)
  2. 平均単位取得単価【最後に求める】
  3. 残高金額

商品の在庫数量は、返品があった直前の残高欄に記録されていた数量に、返品された商品の数量(払出欄に記入した数量)を加えて計算します。同様に、商品の残高金額も、返品があった直前の残高欄に記録されていた金額に、返品によって増加した原価の額(払出欄に記入した金額)を加えて計算します。

平均単位取得原価は、ここで残高欄に記録した残高金額を在庫数量で割って計算します。下の例において、平均取得単価は、次のように求められます。

  • 合計数量:20個+10個=30個
  • 合計金額:9,750円+4,875円=14,625円
  • 平均単位取得原価:14,625円÷30個=487.5
摘要受入払出残高
数量単価金額数量単価金額数量単価金額
 12売上   20487.59,75020487.59,750
 14売上返品   △10487.5△4,87530487.514,625

なお、この例では、売上直後にその商品の返品を受けたため、返品の前後で平均単位取得原価が変わっていませんが、間に仕入取引があったり、払出単価が異なる商品の返品等があったときは、返品の前後で平均単位取得原価が変わります。このため、売上返品があったときは、常に平均単位取得原価の計算を行うと覚えておきましょう。

戻り商品を販売前の商品(新品)とは別のものとして処理する場合

商品有高帳では、商品ごとに別々に場所を分けて記録を行っていきます。したがって、返品された商品を販売前の商品(新品)と別のものとして処理する場合は、その返品された商品の記録を元の商品とは別の場所に行わなければなりません

この場合、新しい場所には、その商品を売り上げたときの払出単価を使って、受入欄および残高欄の記録を行います。このようにすることで、以前の記録が行われていた場所から、その商品に係る取得原価がそのまま新しい場所に移動することになります。

摘要受入払出残高
数量単価金額数量単価金額数量単価金額
414戻り商品10487.54,875   10487.54,875

なお、この場合は、過去に払出欄に行った記録の取り消しではありませんから、払出欄ではなく、受入欄にその記録を行います。

仕入返品(仕入戻し)があったときの記録

受入欄

商品を仕入先に返品したときは、商品を仕入れたときに行った受入欄の記録を取り消すと考えて記録を行います。

単価欄には、その商品を仕入れたときに使用した単位取得原価を使用します。この設例で10日に返品した商品はもともと9日に仕入れたものでした。9日にはその記録を単位取得原価495円で行っていますので、10日に返品した商品の単価も495円となります。

あとは、この単価に返品した商品の数量を掛けて、金額欄に記入する額を次のように求めます。

  • 受入欄に記入する金額:20個×495円=9,900円
摘要受入払出残高
数量単価金額数量単価金額数量単価金額
 9仕入4049519,800   6049029,400
 10仕入返品△20495△9,900   40487.519,500

なお、この金額は、返品にともなって仕入先から返金される金額とは異なる場合があります。それは、仕入先以外の企業や組織に対して付随費用を支払っている場合です。仕入先が返金してくれるのは、その仕入先がその商品について受け取っている金額だけです。運送業者に対して支払った運送料、運送中の事故に備えて掛けた保険に係る保険料などは、仕入先とは関係のないものだからです。

商品有高帳は、付随費用を含む取得原価で記録を行っていく会計帳簿なので、このような付随原価が含まれない仕入先からの返金額(この設例の場合は9,800円)を使ってはいけません。あくまでも受入欄に記録する単価は、その商品を仕入れたときに計算した単位取得原価となります。

残高欄

残高欄には、次の3つのものを記録します。

  1. 返品後の商品の数量(在庫数量)
  2. 平均単位取得単価【最後に求める】
  3. 残高金額

商品の在庫数量は、返品があった直前の残高欄に記録されていた数量から、返品された商品の数量(受入欄に記入した数量)を差し引いて計算します。同様に、商品の残高金額も、返品があった直前の残高欄に記録されていた金額から、返品によって減少した原価の額(受入欄に記入した金額)を差し引いて計算します。

平均単位取得原価は、ここで残高欄に記録した残高金額を在庫数量で割って計算します。下の例において、平均取得単価は、次のように求められます。

  • 合計数量:60個-20個=40個
  • 合計金額:29,400円-9,900円=19,500円
  • 平均単位取得原価:19,500円÷40個=487.5円
摘要受入払出残高
数量単価金額数量単価金額数量単価金額
 9仕入4049519,800   6049029,400
 10仕入返品△20495△9,900   40487.519,500

なお、状況によっては、返品の前後で平均単位取得原価が変わらないこともありますが、仕入返品があったときも、常に平均単位取得原価の計算を行うことが基本であると覚えておきましょう。

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