この記事では、先入先出法による商品有高帳の記録のうち、返品が行われたときに行う記録について見ていきます。
返品とは、商品の汚損・破損といった問題により、商品売買契約を事後的に取り消し、商品を買手から売手に戻すことをいいます。増加と減少という違いはありますが、仕入や売上の場合と同じように企業が保有する商品の数が変化するので、商品有高帳への記録が必要になります。
- 先入先出法による商品有高帳の記帳①(仕入時と売上時の記録)
- 先入先出法による商品有高帳の記帳②(値引・割戻時の記録)
- 先入先出法による商品有高帳の記帳③(返品時の記録)
設例
問題
次の甲商品について4月中に行われた一連の取引について、先入先出法により商品有高帳への記録を行いなさい。なお、甲商品の前月繰越高は14,400円(30個×@480円)である。
4月3日 | 売上 | 10個 | 商品1個あたりの販売価格@800円 |
9日 | 仕入 | 40個 | 商品1個あたりの購入価格@490円、付随費用200円 |
10日 | 仕入返品 | 20個 | 9日仕入分。返金額9,800円 |
12日 | 売上 | 20個 | 商品1個あたりの販売価格@800円 |
14日 | 売上返品 | 10個 | 12日売上分。返金額8,000円(返品商品は販売前の商品と区別しない) |
18日 | 売上 | 10個 | 商品1個あたりの販売価格@800円 |
20日 | 仕入 | 20個 | 商品1個あたりの購入価格@489円、付随費用195円 |
27日 | 売上 | 10個 | 商品1個あたりの販売価格@800円 |
解答
商 品 有 高 帳 | |||||||||||
甲 商 品 | |||||||||||
月 | 日 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
4 | 1 | 前月繰越 | 30 | 480 | 14,400 | 30 | 480 | 14,400 | |||
3 | 売上 | 10 | 480 | 4,800 | 20 | 480 | 9,600 | ||||
9 | 仕入 | 40 | 495 | 19,800 | 20 | 480 | 9,600 | ||||
40 | 495 | 19,800 | |||||||||
10 | 仕入返品 | △20 | 495 | △9,900 | 20 | 480 | 9,600 | ||||
20 | 495 | 9,900 | |||||||||
12 | 売上 | 20 | 480 | 9,600 | 20 | 495 | 9,900 | ||||
14 | 売上返品 | △10 | 480 | △4,800 | 10 | 480 | 4,800 | ||||
20 | 495 | 9,900 | |||||||||
20 | 仕入 | 20 | 498.75 | 9,975 | 10 | 480 | 4,800 | ||||
20 | 495 | 9,900 | |||||||||
20 | 498.75 | 9,975 | |||||||||
27 | 売上 | 10 | 480 | 4,800 | 20 | 495 | 9,900 | ||||
20 | 498.75 | 9,975 |
売上返品(売上戻り)があったときの記録
販売先から商品が返品された場合の記録は、その商品を販売前の商品(新品)と区別せずに処理するか、中古品・アウトレット品のように販売前の商品(新品)とは別のものとして処理するかによって変わります。
戻り商品を販売前の商品と区別せずに処理する場合
払出欄
販売先から返品された商品を、まだ販売されていない商品と区別せずに処理する場合は、商品を売り上げたときに行った払出欄の記録を取り消すと考えて記録を行います。
単価欄には、その商品を売り上げたときに使用した払出単価を使用します。この設例で14日に返品された商品はもともと12日に売り上げたものでした。12日にはその記録を払出単価480円で行っていますので(売上直前の残高欄の最も上に記入されているもの)、14日に返品された商品の単価も480円となります。
あとは、この単価に返品された商品の数量を掛けて、金額欄に記入する額を次のように求めます。
- 払出欄に記入する金額:10個×480円=4,800円
月 | 日 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
10 | 仕入返品 | △20 | 495 | △9,900 | 20 | 480 | 9,600 | ||||
20 | 495 | 9,900 | |||||||||
12 | 売上 | 20 | 480 | 9,600 | 20 | 495 | 9,900 | ||||
14 | 売上返品 | △10 | 480 | △4,800 | 10 | 480 | 4,800 | ||||
20 | 495 | 9,900 |
なお、払出欄の記録を取り消すのですから、払出欄に記録する数量、金額はどちらもマイナスになります。そこで、マイナスの数量、マイナスの金額であることが分かるように、その記入を赤字で行ったり、金額の前にマイナスを意味する△をつけたりします。このとき、一般にマイナスを表すときに使われる「-」は使用しません。見間違えやコピー等で判別しにくくなってしまうことを避けるためです。
残高欄
残高欄には、次の3つのものを記録します。
- 返品後の商品の数量
- 単位取得単価
- 残高金額
先入先出法では、先に受け入れた(仕入れた)商品から順に払い出しが行われます。このため、商品が返品された場合、その商品は、返品直前にその企業が保有しているどの商品よりも古い(先に受け入れた)ものとなります。したがって、返品された商品は、残高欄の一番上に記録する必要があります。
月 | 日 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
10 | 仕入返品 | △20 | 495 | △9,900 | 20 | 480 | 9,600 | ||||
20 | 495 | 9,900 | |||||||||
12 | 売上 | 20 | 480 | 9,600 | 20 | 495 | 9,900 | ||||
14 | 売上返品 | △10 | 480 | △4,800 | 10 | 480 | 4,800 | ||||
20 | 495 | 9,900 |
なお、返品直前の残高欄の一番上に、返品された商品と同じタイミングで仕入れた(同じ単位取得原価の)商品がある場合は、上に1行記録を増やすのではなく、その単位取得原価の商品の数量を返品を受けた分だけ増やしたうえで金額計算を行ってください。
戻り商品を販売前の商品(新品)とは別のものとして処理する場合
商品有高帳では、商品ごとに別々に場所を分けて記録を行っていきます。したがって、返品された商品を販売前の商品(新品)と別のものとして処理する場合は、その返品された商品の記録を元の商品とは別の場所に行わなければなりません。
この場合、新しい場所には、その商品を売り上げたときの払出単価を使って、受入欄および残高欄の記録を行います。このようにすることで、以前の記録が行われていた場所から、その商品に係る取得原価がそのまま新しい場所に移動することになります。
月 | 日 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
4 | 14 | 戻り商品 | 10 | 480 | 4,800 | 10 | 480 | 4,800 |
なお、この場合は、過去に払出欄に行った記録の取り消しではありませんから、払出欄ではなく、受入欄にその記録を行います。
仕入返品(仕入戻し)があったときの記録
受入欄
商品を仕入先に返品したときは、商品を仕入れたときに行った受入欄の記録を取り消すと考えて記録を行います。
単価欄には、その商品を仕入れたときに使用した単位取得原価を使用します。この設例で10日に返品した商品はもともと9日に仕入れたものでした。9日にはその記録を単位取得原価495円で行っていますので、10日に返品した商品の単価も495円となります。
あとは、この単価に返品した商品の数量を掛けて、金額欄に記入する額を次のように求めます。
- 受入欄に記入する金額:20個×495円=9,900円
月 | 日 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
9 | 仕入 | 40 | 495 | 19,800 | 20 | 480 | 9,600 | ||||
40 | 495 | 19,800 | |||||||||
10 | 仕入返品 | △20 | 495 | △9,900 | 20 | 480 | 9,600 | ||||
20 | 495 | 9,900 |
なお、この金額は、返品にともなって仕入先から返金される金額とは異なる場合があります。それは、仕入先以外の企業や組織に対して付随費用を支払っている場合です。仕入先が返金してくれるのは、その仕入先がその商品について受け取っている金額だけです。運送業者に対して支払った運送料、運送中の事故に備えて掛けた保険に係る保険料などは、仕入先とは関係のないものだからです。
商品有高帳は、付随費用を含む取得原価で記録を行っていく会計帳簿なので、このような付随費用が含まれない仕入先からの返金額(この設例の場合は9,800円)を使ってはいけません。あくまでも受入欄に記録する単価は、その商品を仕入れたときに計算した単位取得原価となります。
残高欄
残高欄には、次の3つのものを記録します。
- 返品後の商品の数量
- 単位取得単価
- 残高金額
商品の在庫数量は、返品があった直前の残高欄に記録されていた数量から、返品された商品の数量(受入欄に記入した数量)を差し引いて計算します。先入先出法は、先に受け入れた(仕入れた)商品から順に払い出していくと仮定する方法ですが、返品の場合は例外です。返品にあたって数量を差し引く商品は、先に仕入れた商品ではなく、返品した商品を受け入れたときの単位取得原価が記録されているものになります。
残高欄に記録する金額は、この減少後の数量に単位取得原価を掛けて次のように計算します。
- 払出欄に記録する金額:20個×495円=9,900円
月 | 日 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
9 | 仕入 | 40 | 495 | 19,800 | 20 | 480 | 9,600 | ||||
40 | 495 | 19,800 | |||||||||
10 | 仕入返品 | △20 | 495 | △9,900 | 20 | 480 | 9,600 | ||||
20 | 495 | 9,900 |
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