用途が狭く限定された勘定科目は難しい(クレジット売掛金、受取商品券、手形貸付金・手形借入金)

簿記の考え方簿記債権債務
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簿記・会計資格試験では、時事ネタというかその時期のトレンドのようなものが採り入れられることも珍しくありません。先日受験した税理士試験でも暗号資産(仮想通貨)の取り扱いが出題されました。日商簿記検定でもこの傾向は見られており、この10年近くの改定項目のなかには、実務で必要とされる実践的なスキルの習得を謳って採択されたものも少なからずあります。タイトルに掲げたクレジット売掛金も2015年の改定によって新たに試験範囲に加わったものになりますが、このようなトレンド追従型の勘定は取り扱いが難しいなあと思っています。

クレジット売掛金

クレジット売掛金とは

クレジット売掛金勘定は、一般消費者に対して商品等を販売した際に、その代金の支払いにクレジットカードが使用された場合に使用される勘定です。クレジットカードが使用された場合、信販会社に商品等の販売代金を一般消費者に代わって支払ってもらうことになるため、貸し倒れのリスクが基本的にはなく、また、一般消費者の都合(一括・分割)にかかわらず代金をまとめて(一括で)受け取ることができます。ただし、これらの便益を受ける見返りとして、企業側は信販会社に対して一定の手数料を支払う必要があります。

このように、クレジットカードが使用された場合に発生する売上債権は、自ら顧客と直接掛取引を行った場合に発生する売上債権と性格が異なるため、別の勘定を使って記録しましょうというのが、売掛金勘定とは別にクレジット売掛金勘定が設けられた趣旨になります(日本商工会議所「商工会議所簿記検定試験出題区分表の改定等について」2015年4月24日)。

交通系ICカード、〇〇pay系の決済サービスが使用されたときはどうするの?

数年前に(東京五輪開催前)、政府をあげてキャッシュレス決済を普及させようとする動きがありました。キャッシュレス決済サービスには、交通系ICカードであるとか、〇〇payであるとか、さまざまなものがありますが、これらが使用されたときの処理はどのようにすればよいでしょうか。

交通系ICカードが商品等の販売代金の決済に使用された場合、以前から一定の手数料がとられていました。〇〇payに関しても、政府の後押しがなくなったからか、ある程度の普及が実現されたからか、最近では手数料ゼロの方針を見直し、手数料をとるようになりました。事実上、商品等を販売する側の企業からすれば、これらが使用された場合も、クレジットカードが使用された場合と同じような決済プロセスがとられることになっていると思われます(加盟店に対する審査の有無や軽重など詳しいことは分からないので想像でしかありませんが)。

credit=信用という意味を理解している人であれば、これらの取引から生じるも一種の「credit」売掛金と整理することも容易でしょう。しかし、そうでない人からすればクレジット売掛金の「クレジット」は、クレジットカードのクレジットというイメージで、交通系ICカードか〇〇payのイメージと直結する人はそれほど多くないんじゃないかなという思いもあります。

日商簿記検定では、数年前から、交通系ICカードへのチャージ(仮払金)という消費者の立場からの処理を出題するようになっているので、そろそろ企業側の取り扱いについても考えてほしいなあと思うのですがどうなんでしょうか。いたずらに分けても面倒なだけなので「credit」の方向でまとめてしまうのがシンプルなのかなとは思いますが。

受取商品券

受取商品券とは

受取商品券勘定は、一般消費者に対して商品等を販売した際に、その代金の支払いに商品券が使用された場合に使用される勘定です。日商簿記検定では、券面金額通りの金額が商品券の発行機関等から入金されることを前提に出題がされているように思われますが、手数料に相当する費用が発生する可能税もゼロではなさそうです(図書券は券面額に対して5%引きでの買取りとされていたようです(Wikipedia「全国共通図書券」))。

最近は「券」でないものも

商品券も以前は紙片で発行されるものが普通でしたが、最近ではその形態も多様化しています。図書券は2005年に紙片形態のものの発行を停止し、プリペイドカード形態(図書カード)のものや、QRコードを読み取らせるもの(図書カードNEXT・図書カードNEXTネットギフト)などが出てきています。全国百貨店共通商品券についても、2008年からはプリペイド型の百貨店ギフトカードの取り扱いを始めています。

電子決済技術の発展により、今後もこのような紙片として発行されない、電子決済に対応した「商品券」の後継サービスが出てくるものと思われます。この点、普段の講義でどのように説明したものかなと思っています。「credit」取引の結果として生じる債権と同様、信用取引から生じる債権になりますから、お金だけの話を考えれば、クレジット売掛金との境界はあいまいになってくるのだろうなと思います。

手形貸付金・手形借入金

手形貸付金・手形借入金とは

手形貸付金勘定・手形借入金勘定は、金銭貸借にあたり、借手側が返済期日に支払う金額についてその返済期日を支払期日とする約束手形(金融手形)を振り出したときに使用される勘定です。

貸し借りされた金額(元本)のみが計上される貸付金勘定・借入金勘定とは違い、手形貸付金勘定・手形借入金勘定には元本金額だけでなく、約束手形に記入された利息相当額もあわせた金額が記載されます。通常、利息は、金銭の貸し借りが行われていた期間の経過によって漸次発生していくものなので、貸し借りを行ったとき(まだ利息が発生していないとき)に債権・債務の額に含めるものではないのですが、この場合は、約束手形においてその支払いが行われることが約束されているため、その券面金額がそのまま手形貸付金勘定・手形借入金勘定に記録されることとなります。

手形の廃止、電子記録債権・債務への移行の動きがあるが……

現在、政府は2026年をめどに手形の取り扱いを終了することを計画しています。全国銀行協会は、2022年11月2日をもって手形交換所を廃止し、電子交換所システムに移行することをすでに発表しています(全国銀行協会「電子交換所システムの稼働について」2022年7月19日)。

日商簿記検定では、紙片として発行される手形を受取手形勘定・支払手形勘定に、でんさいねっとなどの電子債権記録機関で処理されるものを電子記録債権勘定・電子記録債務勘定にと別々の勘定を設けて記録する方針を採用してきましたが、手形貸付金勘定・手形借入金勘定に対応する電子記録版の勘定はまだ許容勘定科目表に明記されていません。そろそろ考えるべき時期になっているのではないでしょうか。

おわりに

今回3つの勘定をとりあげましたが、これらはすべて日商簿記3級の出題範囲となります。実務、実践力を強調する以上、流行り廃りの影響を受けることは避けられません。このような方針を定めている以上、勘定科目はタイムリーに見直していく必要があるでしょう。逆に、複式簿記の仕組みを正しく理解するという点を大事だと考えるのであれば、このようなトレンド的な話は分量を減らしてもいいのかもしれません。

勘定科目は、本来、企業が任意で設定するものですが、その設定にあたって、簿記学習の入口ともいえる日商簿記3級での取り扱いは、明に暗に学習者に「すりこまれて」しまいます。その意味では、あまり突飛なものが並ぶ状況は避けた方がいいのかもしれませんね。個人的には、青色申告書(一般用)の項目くらいでもいいのかなとは思っています。実践的ですし。

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