仕入割引とは、商品等を仕入れた側の企業(買手)が買掛金等の仕入債務を通常の支払期日よりも前に弁済する場合に、その債務の一部について支払いの免除を受けることをいいます。この記事では、消費税の処理を税抜方式で行っている企業において、仕入割引があったときにどのような仕訳が行われるべきかについて考えてみます。
金商法会計と税務(消費税法)会計の考え方の違い
金商法会計の場合
仕入割引によって支払いの免除を受けた金額について、金商法会計では、弁済を前倒しした期間(当初の支払期日~実際の支払日)に係る利息相当額と考えます(受取利息と同じ)。仕入割引は、仕入債務を前倒しで支払った=資金を融通したという企業の行動によって得られるものですから、仕入債務が発生したもともとの仕入取引とは別の取引として取り扱う、というのが金商法会計の原則となります。
たとえば、買掛金500,000円について、早期に支払いを行い、5,500円の割引きを受けたとしましょう。この場合の仕訳は次のようになります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
買掛金 | 500,000 | 当座預金 | 494,500 |
仕入割引 | 5,500 |
金商法会計では、消費税の処理を税抜方式によって行うことが原則となりますが、仕入割引は、商品の仕入れとは別の取引(金融取引)ですから、この取引で消費税に係る記録が行われることはありません。
税務(消費税法)会計の場合
これに対して、消費税法では、仕入割引によって支払いの免除を受けた金額を、商品の仕入れに係る対価の一部を返還したものと考えます(仕入値引と同じ)。消費税は、そもそも財やサービスの消費に対して課せられるものであり、その課税標準は、それらの消費のために支払った金額となります。仕入割引を受けるということは、それだけ買手の支払金額が減ることになるので、値引きを受けたのと変わりはないという考え方になります。
さきほどと同じ取引について仕訳をしてみると、次のようになります(消費税法では、消費税額を含む税込金額で処理することを前提としているため、仮払消費税勘定は出てきません)。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
買掛金 | 500,000 | 当座預金 | 494,500 |
仕入 | 5,500 |
消費税法では、仕入割引を仕入れに係る対価の一部返還と考えますから、割引きを受けた金額は仕入勘定から減額することになります。この仕訳で減額された仕入勘定の金額5,500円のなかには、仕入に際して支払うことを約束した消費税500円(=5,500÷1.1×0.1。消費税率は10%として計算しています)が含まれています。
2つの考え方を両立させる仕訳とは?
「企業会計原則」では、目的別に別々の会計帳簿を作成することを禁じています(単一性の原則)。このため、金商法会計と税務(消費税法)会計との間で考え方が違ったとしても、1つの取引について2つの仕訳を行うわけにはいきません。金商法会計上の考え方と税法上の考え方との違いを会計帳簿上調整する手段として税効果会計というものがありますが、税効果会計は法人税等を前提としているものなので、これを消費税の調整には使うことはできません。
仮払消費税勘定の残高を減らす必要はあるか
税抜方式では、仕入れに際して支払った、または、支払うこととなる消費税額を仕入勘定とは別に仮払消費税勘定に記録することとなっています。
仮払消費税勘定に記録される金額を、納付税額の計算にあたって控除されうる金額(課税仕入れ等に係る消費税額)と考えるのであれば、消費税法上、仕入割引が仕入値引と同様に取り扱われる以上、仮払消費税勘定に記録された金額を減らすのが適当でしょう。
これに対して、仮払消費税勘定に記録される金額を、取引を税抜金額で記録するために取り除かれた余分な金額と考えるのであれば、仕入割引が利子とみなされる以上、商品を仕入れたときに仮払消費税勘定に行われた記録を減額する必要はありません。なお、利子を対価とする金銭の貸付けは非課税取引であるため、仕入割引の額に対して消費税が課されることもありません(仮受消費税勘定への記録は行われない)。
仮払消費税勘定は、仮払金勘定と同じく仮勘定(将来、他の何らかの勘定に振り替えられることが確定している一時的な勘定)に分類されるものであるため、その会計学的性格を考えることに意味がありません。それがために、どのような処理をするのが適切かを理論的に考えることができないのです。
仮払消費税勘定の残高を減額するケース
仕入割引に際して、その割引きを仕入値引きと考えた場合に割引額に含まれることとなる消費税相当額を仮払消費税勘定から減らす場合、どのような仕訳を行えばよいのでしょうか。
さきほどの取引において、仕入割引を受けた金額は5,500円、この金額に対応する消費税額は500円ですので、次のような仕訳が考えられるでしょう。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
買掛金 | 500,000 | 当座預金 | 494,500 |
仕入割引 | 5,500 | ||
雑損(?) | 500 | 仮払消費税 | 500 |
仕入割引勘定への記録と、仮払消費税勘定への記録は、それぞれ異なる根拠から根拠を別にするものですから、金額を合算せずに、別々に記録するのが妥当でしょう。
仮払消費税勘定の相手勘定は雑損勘定としました。損失扱いしたのは、納付税額の計算にあたって控除されうる金額であった仮払消費税が減ってしまったので、それだけ納付税額が増えることになる点に注目したためです。
しかし、実際のところ、消費税の納付額を計算するにあたって、常に、企業が消費税名目で支払った金額のすべてが控除されるわけではないため、仮払消費税の減少額がそのまま損失となるわけではありません(しかも、控除できる金額は決算まで確定しません)。損失が確定していないことに注目するならば、雑損勘定に代えて、「仮払消費税返還額」のような新たな仮勘定を設けるという選択肢もありそうです(この場合、仮勘定の仮勘定という屋上屋を重ねる状況になってしまいますが)。
仮払消費税勘定の残高を減額しないケース
仮払消費税勘定を、消費税の納付額を計算したり、見積もるするために必要な金額が集計される勘定としてではなく、単に、取引金額を税抜金額で会計帳簿に記録するにあたって不要となった金額をとりあえず入れておくための調整用の勘定と考えるのであれば、仕入割引にあたって、仮払消費税勘定への記録は不要となります。仕入割引はあくまでも資金融通に係る対価(利子)であって、その金額のなかに消費税額は含まれていないからです。
この場合の仕訳は、次のようになるでしょう。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
買掛金 | 500,000 | 当座預金 | 494,500 |
仕入割引 | 5,500 |
どちらの処理でもいいのでしょうけど……
仮払消費税勘定が仮勘定であり、その会計学的性格が不定である以上、どの方法が絶対的に正しいということはありません。企業においてルールを決めて、継続してその方法で処理していれば、その処理が問題視されるようなこともないものと思われます。
この場合、経理実務的に便利かどうかでどのような処理方法をとるかを決定することになるかと思われます。私は経理実務のことはまったく知識も経験もないのですが、仮払消費税勘定を減額する処理の穂が望ましいかなと思います。仕入れに係る対価の返還等に該当する取引が行われたことが会計帳簿上も明確になりますし、割引を受けるごとに仕入税額控除の対象になるか、税率は何%かなどを判断し、記録に残しておくこともできますので。
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