この記事では、総記法による商品売買取引の処理について見ていきます。総記法は、商品を仕入れたときにはその取得原価で、商品を売り上げたときはその販売金額で、商品勘定に記録を行っていく方法です。
総記法は、商品の動きが商品勘定に記録されること、また、商品売買取引によってやりとりされる金額と商品勘定に記録される金額が等しくことから、仕訳だけを考えれば、非常に直感的に理解しやすい方法であるといえます。しかし、会計帳簿に記録された情報の活用、財務諸表の作成といったところまで視野を広げて考えると、いくつかの欠点も見えてきます。
- 総記法による商品売買取引の処理
- 分記法による商品売買取引の処理
- 売上原価対立法による商品売買取引の処理
- 分割法(三分法)による商品売買取引の処理
総記法による商品売買取引の仕訳
それでは、次の設例を使って、総記法による商品売買取引の仕訳を見ていきましょう。
【設例】次の一連の取引について、総記法による仕訳を示しなさい。
- 商品5個を1個あたり100円で仕入れ、代金は掛けとした。
- 1.で仕入れた商品のうち3個を1個あたり500円で売り上げ、代金は掛けとした。
商品を仕入れたとき
商品を仕入れたときは、その取得原価を商品勘定の借方に記録します。取引1.で仕入れた商品の取得原価は500円(=5個×100円)ですから、その仕訳は次のようになります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
商品 | 500 | 買掛金 | 500 |
商品を売り上げたとき
商品を売り上げたときは、その販売金額を商品勘定の貸方に記録します。取引2.で売り上げた商品の販売金額は1,500円(=3個×500円)ですから、その仕訳は次のようになります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
売掛金 | 1,500 | 商品 | 1,500 |
期中における商品勘定の状況
このように、総記法では、商品を仕入れたときも、商品を売り上げたときも商品勘定に記録が行われますが、そこに記録される金額は、たとえ同じ商品に関する金額であっても、商品を仕入れたとき(取得原価)と売り上げたとき(販売金額)とで変わります。商品勘定に記録される金額を、商品の返品、値引し、割戻しのケースを含めてまとめてみると、次のようになります。
商 品 | |
仕 入(原価) | 売 上(売価) |
売上返品(売価) | 仕入返品(原価) |
売上値引(売価) | 仕入値引(原価) |
売上割戻(売価) | 仕入割戻(原価) |
このように1つの勘定に異なる金額の記録が混ざっていると、勘定の残高金額を見ても、現在、どれだけの商品が手元にあるのかが分かりません。原価と売価が混在しているので、貸借差額として計算される残高金額に何の意味も見出すことができません。
さきほどの【設例】でいれば、借方が500円、貸方が1,500円なので、商品勘定の残高は1,000円の貸方残となっています。商品は、企業が将来の活動に利用できる財産なので、資産として処理されなければなりません。資産は、貸借対照表上、左側に記載されますから、その勘定残高は借方残となっているのが自然です。しかし、総記法では、このように貸方の合計金額の方が大きくなってしまうことが普通にあります。
商 品 | |
仕 入(500) | 売 上(1,500) |
決算時の処理
商品売買取引の処理を総記法で行っている場合、決算のタイミングで、商品の棚卸を行い、商品の期末棚卸高が商品の勘定となるように修正を行う必要があります。
上の【設例】では、5個仕入れた商品のうち3個が販売されていますから、期末に残っている商品の数は2個です。商品は1個あたり100円で仕入れていますから、この修正で、商品勘定の残高を200円の借方残としていなければなりません。さきほど商品の勘定残高が1,000円の貸方残となっていることを確認しました。この残高金額を200円の借方残にするためには、商品勘定の借方に1,200円を追加しなければなりません。
この仕訳において、商品勘定の相手勘定は商品売買益勘定とします。これは、その名の通り、商品売買取引を通じて得られた利益(売価と原価の差額)を意味します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
商品 | 1,200 | 商品売買益 | 1,200 |
ここで計上した1,200円が本当に商品売買益の金額を表しているかを確認しておきましょう。この【設例】では、1個100円で仕入れた商品を1個500円で販売していますから、商品1個あたりの利益の額(商品売買益)は400円(=500円-100円)です。取引2.では、この商品を3個販売していますので、3個分の利益の額を計算すると、これも1,200円(=3個×400円)となります。
これをT字勘定を使って視覚的に示してみると、次のようになります。商品1つ1つの記録を別々に分けて書いてみました。上3つは販売された商品、下2つはまだ販売されていない商品です。販売された商品については、借方にその取得原価100円が、貸方にその販売価格500円が記録されています。決算にあたって商品勘定の借方に追加計上される金額は、これらの差額の400円となります(販売された商品の数は3個ですので、借方に追加計上される金額は3個分の1,200円となります)。
商 品 | |
仕 入(100) | 売 上(500) |
商品売買益(400) | |
仕 入(100) | 売 上(500) |
商品売買益(400) | |
仕 入(100) | 売 上(500) |
商品売買益(400) | |
仕 入(100) | |
仕 入(100) |
総記法の問題点
総記法は、商品と交換される金額がそのまま商品勘定に記録されるため、商品を仕入れたときと売り上げたときとで仕訳の方法に変わりはなく、直感的に理解しやすい記録の方法であるといえます。しかし、総記法には、次の2つの問題点があります。
第1に、上述したように、総記法では、決算にあたって勘定残高の修正(商品売買益勘定への振替え)が行われたとき以外、商品勘定の勘定残高に意味がないということです。このため、会計期間中は、商品勘定の記録を見ても、どれだけの商品があるかが分かりません。このため、総記法を採用している企業において、商品の在庫状況を会計期間中にタイムリーに把握できるようにするためには、主要簿の記録の他に商品有高帳などを作成し、そちらに別途記録を行っていく必要があります。
第2に、総記法では、利益の額こそわかるものの、商品をどのくらい仕入れたか、商品をどのくらい売り上げたかといった商品売買取引の規模が分からないということです。商品を仕入れた際の取得原価と、商品を売り上げた際の販売価格は、同じ商品勘定のなかで相互に相殺されてしまいます。このため、商品勘定の残高金額を見たところで、仕入総額も販売総額も分かりません。また、記事ではくわしく取り上げませんでしたが、返品・値引・割戻の金額も、仕入分と売上分とが相殺されてしまいます。このため、返品・値引・割戻があった場合は、借方・貸方それぞれの合計金額のレベルでも全体の規模を正しくつかむことができません。
現在の会計のルール上、財務諸表の作成にあたっては、商品売買取引の規模が分かるように、仕入と売上を相殺せずに表示することが求められています(総額主義)(「企業会計原則」第二、一、B)。このため、第2の欠点を放置しておくことはできず、仕入高や売上高についても、主要簿の記録の他に仕入帳や売上帳を作成して、その金額を別途把握することになります。
このように、総記法による記録は、仕訳を直感的に理解しやすいという長所があるものの、主要簿への記録の他にさまざまな記録を行うことが必要となるため、仕訳以外の側面まで含めて考えると、企業に求められる負担が小さくないという意味で問題もあります。
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