【論文紹介】医療法人グループ会計における資本連結手続―医療法人が他の医療法人に資金拠出をした場合の処理―

研究書籍・論文紹介
《広告》

この記事では、2019年に公表した論文「医療法人グループ会計における資本連結手続―医療法人が他の医療法人に資金拠出をした場合の処理―」を紹介します。この論文は、『和光経済』(和光大学社会経済研究所)第52巻第1号《葉山幸嗣准教授追悼号》(2019年12月発行)に掲載されています。

和光大学リポジトリ
CMS,Netcommons,Maple

論文の概要

背景

今日の医療法人経営は、医療法人だけでなく、関連する他の医療法人、社会福祉法人、いわゆるメディカル・サービス法人(MS法人)とよばれる株式会社など、さまざまな法人がグループとなってすすめられています。このため、医療法人の会計に対しては、その経営実態を正しく把握するために連結会計を求める声がたびたびあがっていました。

現在の医療法人会計基準には、各法人の財務諸表を連結するためのルールは存在しておらず、実際に連結会計を行うためには、企業会計のルールを参照する必要があることが予想されます(他の会計ルールについては、企業会計のルールが参照されることが一般的です)。ところが、医療法人と会社とでは資本として記載すべき項目に違いがあり、連結会計の第一歩となる投資と資本の相殺消去をそのままの形では行うことができません。

そこで、この論文では、医療法人同士の財務諸表を連結することを前提に、この投資と資本の相殺消去の仕訳を検討することとしました。なお、上述したように、医療法人における連結会計を実現するためには、社団医療法人や株式会社の財務諸表との連結の方法についても考える必要があるため、この論文の内容は、あくまでもこの最終的な目標に向けての第一歩にすぎません。

時価による再評価の要否

企業会計では、新たに他の企業に対する支配を獲得して、当該他の企業を連結の範囲に加えるときは、その企業が保有する資産・負債を支配獲得日の時価に再評価しなければならないこととされています。これは、支配を獲得したタイミングで、それらの資産・負債に対する支配を新たに取得したと考えるためです。

ところが、医療法人の場合は、この資産や負債に対する「支配」を株式会社と同じようには判断できません。株式会社の場合は、出資と法人財産に対する持分請求権が表裏の関係にあるので、他社の発行済株式を取得すれば、その株式に対応する部分の法人財産に対する持分請求権を自動的に有することとなります。ところが、医療法人の場合は、原則として、法人財産に対する社員の持分請求権が原則として認められていませんし、そもそも出資をしたところで社員としての資格を得られるかどうかもわかりません。

この論文では、原則として、出資先の医療法人の資産・負債については時価評価を不要とし、例外的に持分請求権が認められている経過措置型医療法人の場合にのみ時価評価を行うものとしました。

投資と資本の相殺消去

現在、医療法人が出資を受けたときに使用される貸方勘定には、次の3つのものがあります。

  1. 基金制度が採用されていない社団医療法人・財団医療法人の場合……(受取)寄附金
  2. 基金制度が採用されている社団医療法人の場合……基金
  3. 経過措置型医療法人(社団医療法人)の場合……出資金

1.の寄附金は特別利益となる勘定ですが、純資産の部においては資本振替仕訳を経て剰余金として表示されることになります。2.の基金とは、退社にあたって出資者に返還される金額をいい、これは株式会社にはない医療法人特有のものです。これは、純資産の部に計上される科目ではありますが、預り金としての性質を有しています。最後、3.の出資金は、株式会社における資本金に相当するものです。

投資と資本の相殺消去は、2.と3.の場合にのみ必要となると考えられます。2.の場合は法人財産に対する出資者の持分ではなく基金の額(基本的には出資額と同じ)が出資額との相殺対象となり、3.の場合は法人財産に対する出資者の持分が出資額との相殺対象となります(株式会社と同じ。のれん、負ののれん発生益も計上)。

コメント

医療法人の連結を考えるにあたっては、経過措置型医療法人の存在が支障になります。経過措置型医療法人とは、第5次改正「医療法」において禁止された法人財産に対する社員の持分請求権が認められている医療法人です。経過措置型医療法人は、第5次改正「医療法」の施行日前に設立されていた社団医療法人で、これらに対しても、社員の持分請求権を放棄することが求められていますが、この要請は改正から15年が経過した今もなお多くの法人で無視されている状況にあり、依然として医療法人の最大割合(7割強)を占めています。このような例外的な法人が過半数を占めている状況で、少数派である第5次改正「医療法」に準拠した法人の「原則的な処理」を考えることの意味に悩むところもありましたが、実力行使的な引き延ばしにつきあって制度が旧式化してしまうことのマイナスを考えてこのような論文をまとめてみました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました