複式簿記とは何か
簿記の目的
企業は、営業活動のために使用された、または、されている財産の動きを会計帳簿に記録しなければなりません。会計帳簿への記録を行うことで、「保有する財産がどのように使われたのか」、「現在の状況になるまでにどのようなできごとがあったのか」をいつでも、あとから振り返ることができるようになります。人間の記憶は、時間が経つにつれて次第にあいまいになっていき、いつかは思い出せなくなってしまいます。目の前にある財産はいつでも数えることができますが、このような財産の動きに関するできごとについては、記録という形に残しておかないと、永遠に思い出すことができません。会計帳簿への記録は、この企業の財産の動きに関する過去の出来事を、半永久的に残しておくために行われます。なお、簿記という言葉は、この会計帳「簿」への「記」録というところに由来している(といわれます)。
単式簿記と複式簿記
会計帳簿への記録の方法には、単式簿記と複式簿記の2つがあります。単式簿記とは、特定の財産(現金、預金、商品など)や特定のできごと(売上、仕入など)に注目して、それらの財産やできごとごとに記録をしていく方法です。どの財産やできごとを記録するかは企業の裁量に任されているため、企業が保有する財産やそれらの財産を増減させるできごとのすべてが記録されることになるとは限りません。これに対して、複式簿記とは、「どのような財産が、どのようになったか」を記録していく方法です。企業のあらゆる活動は元手となる金銭(現金、預金)を使うところからスタートするため、この金銭の動きを追跡していくことで、企業が保有する財産やそれらの財産を増減させたできごとのすべてが網羅的に記録されていくことになります。
取引とその構成要素
簿記では、企業の財産を増減させたできごとのことを取引といいます。取引という言葉は、日常生活のなかでは、複数の人が集まって、お金やものをやりとりする状況で使われることが多いですが、簿記では、複数の人が集まらなくても、直接、お金やものがやりとりされなくても、企業の財産が増減すれば取引ということになります。たとえば、家賃や電気料金が預金口座から引き落とされたであるとか、火災で倉庫に保管されていた物品が消失してしまったであるとかいったできごとも企業の財産が増減するので、簿記では取引として取り扱われます。
取引で複式簿記を記録する場合、取引をその構成要素に分解することが必要になります。取引の構成要素とは、取引による財産の増減と、そのような財産の増減をもたらした原因・理由のことをいいます。たとえば、家賃が普通預金口座から引き落とされた場合、「普通預金口座の残高が減少した」というのが財産の増減で、「家賃が発生した(店舗や事務所を借りた)」というのがその原因・理由となります。
総勘定元帳への記録
勘定
取引の構成要素は、それぞれ総勘定元帳とよばれる会計帳簿に記録されていきます。総勘定元帳では、取引の構成要素をそれぞれ別々に記録していくことができるように、記録を行う場所が細かく分けられています。この取引の構成要素を記録するために設けられた1つ1つの場所のことを勘定といいます。各勘定には、それが何を記録する場所であるかが分かるようにそれぞれ別々の名前がつけられていますが、この勘定につけられた名前のことを勘定科目といいます。総勘定元帳という会計帳簿の名前は、企業が取引を記録するために使用するすべて(総て)の勘定が収録されているところに由来しています。
会計帳簿に具体的にどのような勘定を設けるかは、各企業の判断に任されています。通常、企業の財産の状況について細かく情報把握を行いたいと考える企業では勘定も細かく分けられ、法令で求められる最低限の記録さえできればよいと考える企業では設けられる勘定の種類も少なくなります。どのような勘定を設けるかを決めるにあたっては、最終的に必要となる情報から逆算して考えていくことが必要です。
借方と貸方
各勘定では、記録を行う場所がそれぞれ左右に分けられており、左側の記入欄のことを借方、右側の記入欄のことを貸方といいます。これらの記入欄には、取引による増加額(原因の発生高)と、取引による減少額(過去の記録の取消高)がそれぞれ別々に記録されます。増加額(発生高)と、減少額(取消高)のどちらが借方に記録され、どちらが貸方に記録されるかは、勘定によって異なります。複式簿記を学習するにあたっては、取引があったときに、その構成要素をどの勘定のどちら側に記録するかを正しく覚えることが重要になります。