現在の研究テーマ

医療法人会計の研究

テーマの概要

医療法人会計は、もともと「企業において行われている会計管理の手法を医療法人経営に役立てる」というという目的から出発したこともあり、医療法人会計の研究というと、医療法人の効率的な経営管理に資する会計のあり方を検討する管理会計の立場から行われるものがイメージされることが一般的であったように思われます。

しかし、2010年代以降、医療法人会計に対しては、次のようなことを背景として、医療法人経営の健全化・透明化をすすめるための手段としての役割が期待されるようになってきています。

  1. 医療の高度化にともなう医療費の増大
  2. 少子高齢化にともなう社会保障財源の逼迫化(現役世代の過剰負担)
  3. 一部の医療法人における不適切な経理(法人財産の私物化、脱税など)

第7次改正「医療法」により、比較的大規模な医療法人に対しては、公認会計士・監査法人による会計監査と計算書類の公告が義務づけられるようになり、以前に比べれば、信頼性の高い情報を外部から得やすい環境にはなりました。

しかし、医療法人に対しては、株式会社のように不特定多数の出資者は存在せず、融資を行っている金融機関は与信審査にあたって必要な情報を医療法人に直接請求することができます。医療法人の計算書類が公告されても、その情報を待っている外部利害関係者はそれほど多くありません。

計算書類の公告は、もともと「外部からの目」を意識させることで不適切、不健全なことを自粛させようという趣旨で行われるものです(関連記事 【論文紹介】医療法人に係る会計ディスクロージャー制度のねらいとその限界―会計情報に対する「世間からの目」の違いに着目して―)。医療法人の計算書類に関心を持つ人が多くない以上、その公告を義務づけても、これが医療法人経営の健全化、さらには医療・介護に係る費用負担に対する現役世代からの理解につながるとは考えにくいものがあります。

そこで、現在は、道府県が医療法人に対する指導・監督を行うにあたって、会計情報を有効に活用してもらえるような仕組みの構築をテーマとして研究を行っています。2022年には、「都道府県による医療法人の経営実態把握を支援するサポートツールの開発」というテーマで日本学術振興会科学研究費補助事業(科研費)のテーマとして採択していただいています。

このテーマに関連する研究業績

  1. 「経過措置型医療法人に対する留保金課税の導入に関する検討」『和光経済』第55巻第2号、2022年、1-13頁。
  2. 「医療法人による『関係事業者との取引の状況に関する報告書』における情報開示の現状と課題―第7次改正『医療法』施行初年度の開示状況調査をもとに―」『和光経済』第54巻第2・3号、2022年、9-26頁。
  3. 「医療法人に係る会計ディスクロージャー制度のねらいとその限界―会計情報に対する『世間からの目』の違いに着目して―」(和光大学経済経営学部『現代に問う経済のあり方、経営のあり方(和光大学経済経営学部55周年記念 研究論文編)』創成社、2021年、所収)、195-210頁。
  4. 「医療法人グループ会計における資本連結手続―医療法人が他の医療法人に資金拠出をした場合の処理―」『和光経済』第52巻第1号、2019年、1-10頁。
  5. 「医療法人グループ会計における連結範囲の画定基準」『和光経済』第51巻第2号、2019年、11-20頁。
  6. 「医療法人会計基準が診療報酬の適正化に果たす役割」『社会保障研究』第2巻第4号、2018年、566-577頁。
  7. 「医療法人会計における連結会計の必要性」『地域ケアリング』第20巻第8号、2018年、99-101頁。
  8. 「医療法人にける財務透明性確保の意義―平成27年医療法改正を契機として―」第15回日本医療マネジメント学会栃木支部学術集会(ポスター発表)。
  9. 「平成27年改正『医療法』の会計公告規制対象となる栃木県内医療法人の実態調査」国際医療福祉学会第5回大会、2016年(ポスター発表)。

【資料】省令「医療法人会計基準」の逐条解説