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商品の払出金額の計算

商品の払出金額を計算する必要性

企業が商品売買を通じて得た利益の額(商品売買益・粗利)は、商品の販売価額(売価)から、その商品を仕入れるにあたって支払う金額(原価)を差し引くことで計算されます。現在の簿記では、企業の活動期間を強制的に区切って、その区切られた1つ1つの期間(会計期間)ごとに利益の計算を行わなければなりませんが、商品を仕入れてから売り上げるまでには一定の時間が必要であるため、仕入と売上が別々の会計期間になってしまうこともあります。そこで、企業が商品売買を通じて得た利益の額を各会計期間において正しく計算するためには、会計期間中に仕入れた商品の取得原価(当期商品仕入高)とは別に、「その会計期間中に売り上げた商品はもともといくらで仕入れたものだったのか」を計算する必要があります。この会計期間中に売り上げた商品の取得原価のことを、その商品の払出金額といいます。

商品の払出金額の計算方法

商品の払出金額を会計期間中常に把握できる方法(継続記録法)

売上原価対立法、分記法のように、商品を売り上げるつど、その売り上げた商品の取得原価に関する記録を行わなければならない方法で商品売買取引の処理を行っている場合は、会計期間中、商品の払出単価を常に把握できる方法(継続記録法)によって、商品の動きを記録しておく必要があります。

個別法

個別法とは、商品1単位(1個、1ケースなど)ごとに取得原価を把握しておき、商品を払い出すたびに、その商品について把握されている取得原価の額を払出金額とする方法です。たとえ同じ種類の商品を同じ価額で仕入れている場合であっても、引取運賃等の付随費用が発生している場合は、1単位当たりの取得原価が変わることがあります。このため、取得原価の把握は、商品の種類ごとではなく、あくまでも商品1単位ごとに行わなければなりません。

個別法は、特注品であったり、貴重品・希少品とされる商品を取り扱う企業に適した方法です。逆に、同じ商品を繰り返し販売している企業、薄利多売の企業などでは、手間がかかりすぎることから、この方法は推奨できません。

移動平均法

移動平均法とは、同じ種類の商品であれば、その仕入れたタイミングにかかわらず、すべて同じ単価で取得したものと考えて払出単価の計算をする方法です。移動平均法では、事前に、商品を仕入れたり、仕入れた商品について返品、値引き、割り戻しを受けたとき(保有する商品の取得原価総額が変わったとき)に、商品1単位当たりの取得原価を再計算しておき、商品を払い出すつど、最新の単価(払出単価)に払い出した数量を乗じて払出金額を計算します。

商品1単位当たりの取得原価は、次の計算式によって求められます。なお、返品、値引き、割り戻しがあった場合は、その状況に応じて、その数量または金額を「仕入金額」「仕入数量」のところでそれぞれマイナスします。

1単位当たりの取得原価=(直前の保有金額+仕入金額)÷(直前の保有数量+仕入数量)

移動平均法を選択している場合は、会計期間中、商品有高帳などに継続して商品の受け入れ、払い出しの状況を記録しておく必要があります(参考:移動平均法による商品有高帳の記録)。

先入先出法(FIFO)

先入先出法とは、同じ種類の商品について、先に仕入れたものから順に払い出すと仮定して払出金額の計算をする方法です。この方法では、同じタイミングで仕入れた商品はすべて同じ単価で仕入れたものとみなされるため、商品1単位ごとに取得原価を把握する必要はありませんが、仕入れたタイミングごとに、仕入れた数量および仕入れた金額(総額)を把握しておく必要があります。

会計期間中、継続して商品有高帳への記録を行うなどしていれば(参考:先入先出法による商品有高帳の記録)、商品の払出金額はいつでも把握することができます。また、商品有高帳などへの記録を継続して行っていない場合であっても、最も新しく仕入れた商品を期末商品棚卸高とすることで、逆算により、先入先出法による当期中の商品の払出金額を求めることもできます。

後入先出法(LIFO)

後入先出法とは、同じ種類の商品について、最も新しく(最も後に)仕入れたものから順に払い出すと仮定して払出金額の計算をする方法です。この方法でも、同じタイミングで仕入れた商品はすべて同じ単価で仕入れたものとみなされるため、商品1単位ごとに取得原価を把握する必要はありませんが、仕入れたタイミングごとに、仕入れた数量および仕入れた金額(総額)を把握しておく必要があります。

会計期間中、継続して商品有高帳への記録を行うなどしていれば、商品の払出金額はいつでも把握することができます。また、商品有高帳などへの記録を継続して行っていない場合であっても、最も先に仕入れた商品を期末商品棚卸高とすることで、逆算により、後入先出法による当期中の商品の払出金額を求めることもできます。

なお、後入先出法では、貸借対照表に期末における商品の状況を適切に反映できない(新しく仕入れた商品の価額にならない)ため、今日の簿記では、企業に選択することが認められる方法から除外されています(「棚卸資産の評価に関する会計基準」第34-5項~第34-12項)。

商品の払出金額を一定期間ごとにまとめて把握する方法

総平均法

総平均法とは、同じ種類の商品について、1か月、1年間などあらかじめ定めた一定の期間ごとに平均単価を求め、その平均単価と期末棚卸数量をもとに期末商品棚卸高を計算し、逆算により、当期中の商品の払出金額を求める方法です。総平均法は、移動平均法と同じく、同じ種類の商品であれば、その仕入れたタイミングにかかわらず、すべて同じ単価で取得したものと考える方法ですが、単価の計算を仕入れのつどではなく、一定期間ごとにまとめて行うところに違いがあります。

商品1単位当たりの取得原価は、次の計算式によって求められます。なお、仕入金額、仕入数量はどちらも返品、値引き、割り戻しの額金額、数量を差し引いた純額を使用します。

1単位当たりの取得原価=その期間中の合計仕入金額÷その期間中の合計仕入数量

最終仕入原価法

最終仕入原価法では、期末に保有する商品のすべてを、会計期間中、最も後に仕入れたときの単価で評価したうえで、逆算により、当期中の商品の払出金額を求める方法です。最終仕入原価法では、期首商品棚卸高、当期商品仕入高が記録されており、最後に商品を仕入れたときの情報(取得原価、数量)が分かれば、会計期間中、商品1つ1つの原価を把握していなくても、期末商品棚卸高や払出金額を計算することができます。

なお、最終仕入原価法は、期末に保有する商品のなかに、最も後に仕入れたときよりも前に仕入れた商品が含まれている場合、期末商品棚卸高が実際の取得原価に基づく金額と乖離してしまう可能性があります。会計期間中の取得原価の変動が大きい場合はなおさらです。このため、貸借対照表上、商品の額を適切に表示するという観点からは、積極的に推奨できる方法とはされていません。

売価還元法

売価還元法とは、期末商品棚卸高を商品の売価と会計期間中におけるその商品の原価率から計算したうえで、逆算により、当期中の商品の払出金額を求める方法です。期末商品棚卸高の計算方法には、売価還元原価法と売価還元低価法の2つがあり、期末商品棚卸高はそれぞれ次の計算式によって求められます。

売価還元原価法

期末商品棚卸高(原価)=期末商品棚卸高(売価)×{(期首商品棚卸高+当期商品仕入高)÷(期首商品棚卸高(売価)+当期商品仕入高+原初値入高+値上高-値上取消高-値引高+値引取消高)}

売価還元低価法

期末商品棚卸高(原価)=期末商品棚卸高(売価)×{(期首商品棚卸高+当期商品仕入高)÷(期首商品棚卸高(売価)+当期商品仕入高+原初値入高+値上高-値上取消高)}