研 究
現在の研究テーマ
私は、現在、医療法人における会計制度のあり方について研究しています。具体的には、次のようなことを考えています。
- 医療法人全体を対象とする会計報告の目的(会計情報の利用者の範囲)
- 医療法人会計基準における報告単位(連結、セグメント)のあり方
- 医療法人の経営状況把握に必要な関係当事者に係る情報をどこまで把握すべきか(できるか)
- 医療法人経営の管理・監督手段として、届出情報を利用した直接管理と情報開示を通じた間接管理をどのように使い分けるべきか
研究の背景
わが国には、医療法人全体を報告単位とする会計基準は永らく存在していませんでした。病院、診療所といった医療提供施設を報告単位とする「病院会計準則」は古くから存在していましたが、複数の医療提供機関を開設・運営する医療法人や、医療提供機関の開設・運営以外の事業(附帯事業・収益事業)を営む法人については、このような個々の医療提供施設を報告単位とする会計基準だけでは、全体の経営状況がつかめません。医療法人が開設する医療提供施設や事業の存続は、法人全体の経営上のバランスから考慮されますし、そもそも金融機関から融資を受けるのは施設単位ではなく法人単位で行われますから、法人単位の経営状況を把握することはどうしても必要した。
医療法人全体の経営状況が、その医療法人が開設する医療提供施設や事業の経営状況を単純に足し合わせただけで計算できるならば、「病院会計準則」のような施設単位の会計基準だけでも十分でしょう。しかし、そうではありません。医療提供施設や事業の間で、資金や物品、サービスの移動、従業員のやりくりといった「内部取引」が行われているからです。施設単位の基準では、このような医療法人内部でのヒト・モノ・カネの単なる移動も「外部取引」として記録されているため、これを単純合算すると、その経営状況は実態以上に水増しされたものになってしまいます。
医療法人全体を報告対象とする会計基準がはじめて作られたのは2014年のことです(平成26年3月19日付厚生労働省医政局長発通知(医政発0319第7号)「医療法人会計基準について」)。しかし、この基準は、当時の「会計基準がない法人」という評価を払拭するという動機によって作られたものであり、医療法人全体を報告対象とする会計基準が果たすべき指名や、あるべき情報の内容について検討されたものではありませんでした(四病院団体協議会会計基準策定小委員会「医療法人会計基準に関する検討報告書」(上記通知内)、2014年2月26日、1-2頁)。その後、厚生労働省は、公認会計士監査を受けることが義務づけられる大規模医療法人を適用対象とする「医療法人会計基準」(平成28年厚生労働省令第95号)を策定しましたが、これも上述の医療提供者側が作成した会計基準を踏襲するものとなっており、この状況は基本的に変わっていません。
発表した学術論文の紹介
- 「医療法人における対関係事業者取引の事業報告書を通じた実態把握の限界」『和光経済』第56巻第1号、2023年、1-13頁。
- 「経過措置型医療法人に対する留保金課税の導入に関する検討」『和光経済』第55巻第2号、2022年、1-13頁。
- 「医療法人による『関係事業者との取引の状況に関する報告書』における情報開示の現状と課題―第7次改正『医療法』施行初年度の開示状況調査をもとに―」『和光経済』第54巻第2・3号、2022年、9-26頁。
- 「医療法人に係る会計ディスクロージャー制度のねらいとその限界―会計情報に対する『世間からの目』の違いに着目して―」(和光大学経済経営学部『現代に問う経済のあり方、経営のあり方』(和光大学経済経営学部55周年記念研究論文編)創成社、2021年、所収)、195-210頁。
- 「医療法人グループ会計における資本連結手続―医療法人が他の医療法人に資金拠出をした場合の処理―」『和光経済』第52巻第1号、2019年、1-10頁。
- 「医療法人グループ会計における連結範囲の画定基準」『和光経済』第51巻第2号、2019年、11-20頁。
- 「医療法人会計基準が診療報酬の適正化に果たす役割」『社会保障研究』第2巻第4号、2018年、566-577頁。
- 「医療法人会計における連結会計の必要性」『地域ケアリング』第20巻第8号、2018年。
- 「地域連携推進法人における会計報告単位のあり方」日本会計研究学会第76回大会自由論題報告カンファレンス・ペーパー、2017年。
- 「民間医療サービス提供主体における経営実態把握手段としての連結財務諸表の意義―医療の非営利性の解釈を中心として」日本会計研究学会第75回大会自由論題報告カンファレンス・ペーパー、2016年。