「医療法」における会計情報の届出・報告規制の概要
医療法人は、会計期間ごとに、その主たる事務所の所在地の都道府県知事に対して、決算に関する情報を提供しなければならない。「医療法」には、この決算に関する情報の提供について、次の2つの制度が設けられている。ひとつは、医療法人が法人単位で作成した計算書類を届け出る制度であり、もうひとつは、医療法人がその開設する病院または診療所ごとに作成した収益および費用の内容を報告する制度である。
医療法人の計算書類の届出制度
医療法人は、会計期間の終了後3月以内に、その主たる事務所の所在地の都道府県知事に対して計算書類その他の書類を届け出なければならない(「医療法」第52条)。届け出るべき計算書類は、財産目録、貸借対照表、損益計算書および関係事業者との取引の状況に関する報告書の4つであり(「医療法」第51条第1項)、それぞれ様式が定められている。届け出にあたっては、これらの計算書類に、医療法人自体について説明した事業報告書、計算書類に対して監事が行った監査の報告書(「医療法」第51条第2項の医療法人にあっては、これに加えて公認会計士または監査法人が行った監査の報告書)をあわせて提出する必要がある。
これらの計算書類等は、都道府県知事が所管の医療法人の運営状況を把握するために使用される。「医療法」は、都道府県知事に対して、医療法人の業務または会計が法令等に準拠して行われているかどうかを監督し、必要に応じて適切な対応をとることを求めている(「医療法」第63条・第64条)。計算書類等は、都道府県知事が医療法人の会計の状況を把握するための情報源のひとつとして利用される。
都道府県知事に対して届け出られた計算書類等は、その届出先の都道府県知事に対して請求することで、誰でも閲覧することができる。閲覧請求手続および開示される情報の範囲は、各都道府県の判断に委ねられているため、都道府県によってさまざまである。計算書類等のインターネット上に設けられたウェブサイトにアップロードしておき、閲覧請求なしでこれらを閲覧できる状況にしている都道府県もあれば、請求者の氏名等を明らかにしたうえで、請求理由とあわせて申請することを求める都道府県もある。また、届け出られた計算書類等をそのまま提供する都道府県もあれば、一部の情報を黒塗りし、分からない状態にしたうえで提供する都道府県もある。
病院・診療所の収益・費用の内容等の報告(医療法人の経営状況の報告制度)
医療法人は、会計期間の終了後3月以内(「医療法」第51条第2項の医療法人は会計期間の終了後4月以内)に、開設する病院および診療所ごとの収益および費用の内容、職員の職種別人員数その他の人員に関する事項その他一定の事項を報告しなければならない(「医療法」第69条の2第2項、「医療法施行規則」第38条の5第1項、第38条の6)。これを医療法人の経営状況の報告制度という。
医療法人から提供された情報は、政府が政策立案等を行うための基礎資料として使用される。医療法人の経営状況の報告制度は、令和5年(2023年)の「医療法」の改正によって導入されたものであるが、わが国では、それまで病院または診療所単位で運営状況を把握することは行われていなかった。政府は、この病院または診療所単位での運営状況の把握が行われていなかったことを、新型コロナウイルスの感染拡大期に適切な措置を迅速に講じることができなかった原因のひとつとして位置づけて、この制度を新しく設けることにした(医療法人の経営情報のデータベースの在り方に関する検討会「『医療法人の経営情報のデータベース』の在り方に関する報告書」、2022年、2頁・3頁)。
収集された情報は、一定の統計処理を加えたうえで国民に対しても公表される。「医療法」は、厚生労働大臣に対して、各都道府県から医療法人が開設する病院または診療所の収益および費用の内容等に関する情報を各都道府県から収集し、分析した結果を迅速に提供するための施策を講じなければならないものとしている(「医療法」第69条の2第3項〜第5項)。また、各都道府県知事に対しても、これらの情報を分析した結果を公表するよう務めなければならないと努力義務を課している(「医療法」第69条の2第1項)。
なお、厚生労働大臣が行うものとされている分析結果の提供は、独立行政法人福祉医療機構が運営するウェブサイト(WAM NET)の「医療法人経営情報データベースを活用した分析等」のページにおいて行われている。