研 究
会計制度論の研究を行っています。これまで会計ディスクロージャー制度、連結会計、公正価値会計などを研究対象としてきました。現在は、医療法人に係る会計制度のあるべき姿を探るための研究を進めています。これまで医療法人会計における連結制度導入に向けた理論的基盤の構築に関する研究、都道府県による医療法人の経営実態把握を支援するサポートツールの開発というテーマで日本学術振興会科学研究費の助成を受けています。
医療法人会計
医療法人に係る会計制度は、2010年代初頭の公益法人制度改革を受けて、大きく変化しつつあります。第7次「医療法」改正により、比較的規模の大きな医療法人(「医療法」第51条第2項適用医療法人)に対しては、その計算書類(貸借対照表、損益計算書等)について、公認会計士または監査法人から監査を受けたうえで公告することが求められるようになりました。公認会計士等が監査を行うにあたって準拠性を判断するための基準として「医療法人会計基準」(省令)も作られました。また、これとは別に、「医療法」第51条第2項適用医療法人出ない法人も含むすべての医療法人の計算書類が、都道府県知事に請求をすることによって誰もが閲覧できるようになっています。2023年からは、都道府県知事に対して届け出られた計算書類の閲覧請求をインターネットを通じて行うこともできるようになっており、医療法人が作成する計算書類へのアクセス可能性は年々高まっています。
医療法人が準拠すべき会計の基準は、ながらく企業会計の基準をもとに作成されてきました。「医療法人会計基準」が作成される前、病院、診療所などの施設単位の経営状況を明らかにするために利用されていた「病院会計準則」は「企業会計原則」をもとに作成されたものであり、「医療法人会計基準」(四病院団体協議会版、省令)も基本的にはこの方針を受け継いでいます。2000年代に入って以降、企業会計の基準は、「企業会計原則」が中心であった時代とは異なり、国際的な調和化を図る観点からさまざまな見直しが進められていますが、医療法人が準拠すべき会計の基準にこのような新しい考え方を受け入れるべきか、そもそも受け入れるかどうかをどのような基準で判断するかについての検討はまだすすめられていません。
一般に医療法人は非営利法人であると説明されることがありますが、公益法人制度改革を通じて非営利性が定義されたことから、現在、医療法人を非営利法人として位置づけるべきかどうかは微妙なところにあります。公益法人制度改革では、いかなる手段においても剰余金の分配を行わないことを非営利性の要件としましたが、医療法人制度では、社団医療法人の社員に法人財産に対する持分請求権や残余財産請求権が認められている「経過措置型医療法人」がいまだに認められている状況にあるからです。関連法人を通じて剰余金を流出させる実務慣行は他の非営利法人にもみられますが、非営利法人とされる医療法人本体についてこのような事実上の剰余金の分配が認められているのは非常に特徴的なところです。
医療法人に係る会計ディスクロージャー制度の意義と限界
- 「医療法人に係る会計ディスクロージャー制度のねらいとその限界―会計情報に対する『世間からの目』の違いに着目して―」和光大学経済経営学部『現代に問う経済のあり方、経営のあり方(和光大学経済経営学部55周年記念 研究論文編)』創成社、2021年3月9日、所収、195-210頁。
医療法人の会計ディスクロージャーに関する実態調査
- 「インターネットを利用した医療法人の事業報告書等の閲覧に係る都道府県の方針の違いに関する実態調査」『和光経済』第56巻第3号、2024年3月29日、1-10頁。
- 「医療法人における対関係事業者取引の事業報告書等を通じた実態把握の限界」『和光経済』第56巻第1号、2023年8月10日、1-13頁。
- 「医療法人による『関係事業者との取引の状況に関する報告書』における情報開示の現状と課題―第7次改正『医療法』施行初年度の開示状況調査をもとに―」『和光経済』第54巻第2・3号、2022年3月8日、1-13頁。
- 「平成27年改正『医療法』の会計公告規制対象となる栃木県内医療法人の実態調査」国際医療福祉学会第5回大会、2016年、ポスター発表、単独。
医療法人に係る会計基準の検討
- 「医療法人グループ会計における資本連結手続―医療法人が他の医療法人に資金拠出をした場合の処理―」『和光経済』第52巻第1号、2019年12月25日、1-10頁。
- 「医療法人会計基準が診療報酬の適正化に果たす役割」『社会保障研究』第2巻第4号、2018年3月25日、566-577頁。
医療法人の非営利性
- 「経過措置型医療法人に対する留保金課税の導入に関する検討」『和光経済』第55巻第2号、2022年12月20日、1-13頁。
医療法人の関係事業者、関連法人を包摂する会計情報の検討(報告単位の拡大)
- 「医療法人グループ会計における連結範囲の画定基準」『和光経済』第51巻第2号、2019年2月28日、11-20頁。
- 「医療法人会計における連結会計の必要性」『地域ケアリング』第20巻第8号、2018年、99-101頁。
- 「地域医療連携推進法人における会計報告単位のあり方」日本会計研究学会第76回大会自由論題報告、2017年9月23日。
- 「民間医療サービス提供主体における経営実態把握手段としての連結財務諸表の意義」日本会計研究学会第75回大会自由論題報告、2016年9月13日。