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簿記上の現金

最終更新日:2024年06月15日

簿記上、現金勘定に記録されるものは、私たちが日常生活において現金としてイメージしているものの範囲とは若干異なります。このため、現金勘定への記録を行うにあたっては、まず、現金勘定には具体的にどのようなものを記録するかを明確にしておくことが必要です。

簿記上、現金勘定に記録されるものは、通貨と通貨代用証券の大きく2つに分けられます。

通貨

通貨とは、国または国に相当する地域が発行し、その価値を管理している貨幣(法定通貨)をいいます。通貨には、日本円、米国ドル、RUのユーロなどさまざまなものがあります。

地域通貨、仮想通貨のように、法定通貨以外にも「通貨」という名前がつけられているものがありますが、どちらも「国または国に相当する地域が発行」しているものではないため、簿記上、通貨として取り扱われることはありません。このため、これらを保有している場合も、現金勘定ではなく、現金勘定以外の他の勘定を用いて記録を行います。また、ウェブマネーのように「マネー」という名前がつけられているものについても、同様の理由で通貨の範囲には含まれません。

プリペイドカードやチャージ式のICカードのように、支払手段として使用するために、紙幣や硬貨の形を変えて保有・保管されるものもあります。これらは形が変わった時点、すなわち、プリペイドカードを購入したり、ICカードにチャージしたときに支払った金額を現金勘定から取り除きます。すなわち、プリペイドカードの未使用額もチャージ式のICカードにチャージされている金額も、簿記上、通貨として取り扱うことはしません。

通貨代用証券

通貨代用証券とは、銀行などの金融機関において、誰もが無条件に額面に記載されている金額の通貨と引き換えることができるものをいいます。通貨代用証券には、他人振出小切手、送金小切手、普通為替、配当金領収書などがあります。

通貨代用証券は、第三者に対して支払いを行ったり、送金したりするための手段として利用されてきました。法定通貨は、マネーロンダリング(資金洗浄)をはじめとする不適切な資金の移動を防ぐため、郵便や宅急便で送ることは原則として禁じられており、口座振込についても上限額が定められています。このため、遠方の取引先に支払いを行うためには、振込先が預金口座を有していなかったり、預金口座に関する情報を提供しなかった場合や、口座振込の上限額を超えるような支払いをしたい場合には、別の手段をとる必要があります。そこで使用されるのが通貨代用証券です。

小切手の振出しと受取り

企業が小切手を振り出すことは、その振出先に対して当座預金から支払いを行うことを約束したことを意味します。小切手は、約束手形と違い、支払期日を指定できないことから、小切手に記入した金額は、いつ支払われてもおかしくないものとして考えていなければなりません。そこで、小切手を振り出したときは、(実際にまだ支払いが行われていなかったとしても)当座預金勘定からその小切手に記入した金額を減らしてしまいます。

備品2,000,000円を購入し、代金は小切手を振り出して支払った。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
備品 2,000,000 当座預金 2,000,000

第三者が振り出した小切手のことを他人振出小切手といいますが、簿記では、この他人振出小切手を通貨代用証券として取り扱います。このため、他の企業から小切手を受け取った場合は、その金額を現金勘定に記録します。他人振出小切手は、基本的に、そのままの形で使用されることはなく、金融機関において通貨と引き換えてから使用されます。通貨でない状況(引き換え前の状況)をわざわざ記録しておく必要はありません。

なお、他人振出小切手は受け取ったときに現金勘定への記録を行ってしまいますから、その後、実際に金融機関で通貨と引き換えたときは記録を行う必要はありません。引き換えによって減るもの(他人振出小切手)も増えるもの(法定通貨)もどちらも現金勘定に記録するものであるため、この引き換えによって、現金勘定の残高に変化は生じないからです。

売掛金500,000円を先方振出の小切手で回収した。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金 500,000 売掛金 500,000

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