費用・収益の繰延べ
最終更新日:2024年06月15日
費用・収益の繰延べとは、当期中に費用・収益の各勘定に記録された金額のなかに翌期以降の期間に対応する金額が含まれているときに、決算にあたって、その翌期以降の期間に対応する金額をその費用・収益の各勘定から取り除くことをいいます。
会計期間中、各勘定への記録は、企業の財産に動きがあったとき(簿記上の取引があったとき)に、その動きがあった財産の額をもって行われます。かりにその金額のなかに翌期以降の期間に対応する金額があったとしても、そのままその金額が記録されます。会計期間中に各勘定に記録される金額は、当期分の金額だけではないのです。
今日の会計の大きな目的のひとつとして、会計期間ごとにどれだけの利益をあげることができたかを計算するということがあります(期間損益計算)。会計上の利益は、収益の額から費用の額を差し引いて計算されますが、この収益の額や費用の額に当期分でない金額が混ざっていると、当期の利益の額を正しく計算することができません。繰延べは、この当期分でない金額を費用・収益の勘定から取り除いて、当期の利益の額を正しく計算するために重要な手続のひとつです。
費用の繰延べ
![](/image/def_exp.gif)
決算時の処理
会計期間中、費用となる金額を支払ったときは、その金額が費用の勘定の借方に記録されます。このため、翌期以降の期間に対応する金額を取り除くときは、その取り除きたい金額をその費用の勘定の貸方に記録すればよいことになります。
このときの相手勘定は、前払費用勘定となります。前払保険料、前払家賃のように具体的な費用の種類ごとに勘定が分けられることもあります。前払費用勘定は、費用の勘定から取り除かれた金額が一時的に記録される勘定であり、このような勘定を経過勘定といいます。
なお、前払費用勘定は、あくまでも費用の勘定から取り除いた金額を一時的に記録しておくために使われる勘定であり、前払金勘定や建設仮勘定のように支払った内金の額が記録される勘定とは違います。前払費用勘定は、決算手続のなかでのみ使用される勘定であり、会計期間中の取引を記録するために使用する勘定ではありません。
4月1日に、当社が保有する店舗について火災保険契約を締結し、1年分の保険料240,000円を現金で納付した。(会計期間は毎年1月1日から12月31日)。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
保険料 | 240,000 | 現金 | 240,000 |
決算にあたり、翌期分(1月~3月分)の保険料を繰り延べる。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
前払保険料 | 60,000 | 保険料 | 60,000 |
- 繰り延べる保険料の額:240,000円÷12×3か月=60,000円
会計期間中、保険料勘定には240,000円が記録されていましたが、繰延べによって翌期分の60,000円が取り除かれた結果、保険料勘定の残高は180,000円(=240,000円-60,000円)となりました。この金額は、当期中に保険に加入していた期間(9か月。4月~12月)に対応する保険料の額180,000円(=240,000円÷12×9か月)と同じです。繰延べを行うことによって、当期分の金額だけを保険料勘定に残すことができました。
翌期首の処理
繰延べを行った場合、翌期首づけで再振替仕訳を行う必要があります。費用の繰延べを行った場合、再振替仕訳とは、前払費用として前期から繰り越されてきた金額を当期の費用の勘定に振り戻すことをいいます。
このようにすることで、前期以前に支払済みの費用の額を当期の費用の勘定に計上することができます。会計期間中は、企業の財産に動きがあったときしか記録が行われませんから(簿記上の取引)、この再振替仕訳を行っておかないと、前期以前に支払った当期分の費用の額がいつまで経っても費用の勘定に計上されないままになってしまうのです。
1月1日、新しい会計期間の記録を始めるにあたって、前期から繰り越されてきた前払保険料60,000円を保険料勘定に振り替えた。(会計期間は毎年1月1日から12月31日)。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
保険料 | 60,000 | 前払保険料 | 60,000 |
このように再振替仕訳を行うことによって、前期から繰り越されてきた前払費用勘定の残高はゼロとなり、同時に、費用の勘定の借方に、前期以前に支払った当期(以降)分の費用の額が記録されることになります。
収益の繰延べ
![](/image/def_rev.gif)
決算時の処理
会計期間中、収益となる金額を受け取ったときは、その金額が収益の勘定の貸方に記録されます。このため、翌期以降の期間に対応する金額を取り除くときは、その取り除きたい金額をその収益の勘定の借方に記録すればよいことになります。
このときの相手勘定は、前受収益勘定となります。前受利息のように具体的な収益の名前を使って勘定が設けられることもあります。前受収益勘定は、収益の勘定から取り除かれた金額が一時的に記録される勘定であり、このような勘定を経過勘定といいます。
なお、前受収益勘定は、あくまでも収益の勘定から取り除いた金額を一時的に記録しておくために使われる勘定であり、前受金勘定のように受け取った内金の額が記録される勘定とは違います。前受収益勘定は、決算手続のなかでのみ使用される勘定であり、会計期間中の取引を記録するために使用する勘定ではありません。
4月1日に、現金1,000,000円を期間1年の条件で取引先に貸し付け、先方から約束手形1,012,000円を受け取った。貸し付けた金額と手形金額との差額は、この貸付けに係る利息に相当する金額である(会計期間は毎年1月1日から12月31日)。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
手形貸付金 | 1,012,000 | 現金 | 1,000,000 |
受取利息 | 12,000 |
決算にあたり、翌期分(1月~3月分)の利息を繰り延べる。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
受取利息 | 3,000 | 前受利息 | 3,000 |
- 繰り延べる利息の額:(1,012,000円-1,000,000円)÷12×3か月=3,000円
会計期間中、受取利息勘定には12,000円が記録されていましたが、繰延べによって翌期分の3,000円が取り除かれた結果、受取利息勘定の残高は9,000円(=12,000円-3,000円)となりました。この金額は、当期中に金銭を貸し付けていた期間(9か月。4月~12月)に対応する利息の額9,000円(=12,000円÷12×9か月)と同じです。繰延べを行うことによって、当期分の金額だけを受取利息勘定に残すことができました。
翌期首の処理
収益についても、繰延べを行った場合、翌期首づけで再振替仕訳を行う必要があります。この場合、再振替仕訳とは、前受収益として前期から繰り越されてきた金額を当期の収益の勘定に振り戻すことをいいます。
このようにすることで、前期以前に受取済みの費用の額を当期の収益の勘定に計上することができます。会計期間中は、企業の財産に動きがあったときしか記録が行われませんから(簿記上の取引)、この再振替仕訳を行っておかないと、前期以前に受け取った当期分の収益の額がいつまで経っても収益の勘定に計上されないままになってしまうのです。
1月1日、新しい会計期間の記録を始めるにあたって、前期から繰り越されてきた前受利息3,000円を受取利息勘定に振り替えた。(会計期間は毎年1月1日から12月31日)。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
前受利息 | 3,000 | 受取利息 | 3,000 |
このように再振替仕訳を行うことによって、前期から繰り越されてきた前受収益勘定の残高はゼロとなり、同時に、収益の勘定の借方に、前期以前に受け取った当期(以降)分の収益の額が記録されることになります。
関連記事
- 費用・収益の繰延べ
- 費用・収益の見越し