先入先出法による払出原価の計算
先入先出法とは
先入先出法(First In, First Out Method; FIFO)とは、同一種類の商品について、(実際にはそうでなかったとしても)先に仕入れたものから順に払い出したものと仮定して払出原価を計算する方法です。
払出原価を商品を払い出すつど把握する場合(継続記録法による場合)
企業が行うべきこと
商品売買取引の処理を売上原価対立法や分記法で行っている場合のように、商品を売り上げるつど、顧客に引き渡した商品の原価に関する記録を行う必要がある場合は、次のように、払い出した商品の払出原価を求めることができます。この方法は、会計期間中、継続して商品の受け入れや払い戻しに関する記録を行う必要があることから、継続記録法とよばれます。
- 会計期間中、商品を仕入れたときに記録しておくべきこと
- 商品を仕入れた月日
- 商品の取得原価
- (同種の商品をまとめて複数単位仕入れた場合)仕入れた商品の数量
- 決算にあたって棚卸減耗損を把握したい場合は実地棚卸を行う
なお、継続記録法により商品の払出原価の計算を行う場合は、主要簿(仕訳帳、総勘定元帳)への記録に加えて、商品有高帳とよばれる補助簿を利用することが便利です。
設例による解説
【設例】次の商品Xに係る資料に基づいて、当期の商品Xの売上原価を計算しなさい。なお、会計期間は4月1日から3月31日までの1年間である。
1. 期首商品棚卸高:25個、取得原価25,300円
2. 会計期間中の商品仕入高
- 4月20日:【売上】20個
- 5月15日:【仕入】20個、取得原価21,500円
- 6月20日:【売上】20個
- 8月15日:【仕入】20個、取得原価22,000円
- 9月20日:【売上】25個
- 11月15日:【仕入】20個、取得原価22,000円
- 1月20日:【売上】10個
- 2月15日:【仕入】20個、取得原価22,200円
4月20日
4月20日に商品20個を売り上げたとき企業が保有していた商品は期首に保有していた商品25個のみですから、これを払出原価の計算に使用します。
- 期首商品棚卸高25個のうち売り上げた20個分の取得原価:25,300円÷25個×20個=20,240円
6月20日
6月20日に商品20個を売り上げたとき企業が保有していた商品は、期首に保有していた商品のうち5個(=期首数量25個-4月20日売上数量20個)と、5月15日に仕入れた20個です。先入先出法では、先に仕入れたものから払い出すと仮定して計算を行いますから、先に期首に保有していた5個分を払出し、残りの15個分(=20個-5個)を5月15日に仕入れた商品から払い出すと考えます。
- 期首商品棚卸高25個のうちまだ保有していた5個分の取得原価:25,300円÷25個×5個=5,060円
- 5月15日に仕入れた20個のうち売り上げた15個分の取得原価:22,000円÷20個×15個=16,500円
- 6月20日に売り上げた商品の払出原価:5,060円+16,500円=21,560円
9月20日
9月20日に商品25個を売り上げたとき企業が保有していた商品は、5月15日に仕入れた商品のうち5個(=仕入数量20個-6月20日売上数量15個)と、8月15日に仕入れた20個です。先入先出法では、先に仕入れたものから払い出すと仮定して計算を行いますから、先に期首に保有していた5個分を払出し、残りの20個分(=25個-5個)を8月15日に仕入れた商品から払い出すと考えます。
- 期首商品棚卸高25個のうちまだ保有していた5個分の取得原価:22,000円÷20個×5個=5,500円
- 8月15日に仕入れた20個分の取得原価:22,000円
- 6月20日に売り上げた商品の払出原価:5,500円+22,000円=27,500円
1月20日
1月20日に商品10個を売り上げたとき企業が保有していた商品は11月15日に仕入れた商品20個のみですから、これを払出原価の計算に使用します。
- 11月15日に仕入れた商品20個のうち売り上げた10個分の取得原価:22,000円÷20個×10個=11,000円
売上原価の計算
会計期間中の売上原価の合計額は、会計期間中、商品を売り上げるつど計算した払出原価をすべて合計することによって求めることができます。この設例の場合は80,300円(=20,240円+21,560円+27,500円+11,000円)となります。
なお、継続記録法の場合、売上原価の額は、商品を売り上げたときに計算した払出原価のみが集計されますから、試供品や見本品として提供されたものがあったり、紛失してしまったり、汚損や破損によって廃棄してしまったりした商品の取得原価がこの金額のなかに混ざってしまうことはありません。ものもあるかもしれません。この方法では、期中の商品の払出しの状況を把握していないので、払出原価の全額が売上原価である保証はありません。しかし、払出原価の大部分は売上原価であると考えられるため、すべてまとめて売上原価として処理してしまいます(参考:棚卸計算法による場合)。
払出原価を会計期間ごとにまとめて把握する場合(棚卸計算法による場合)
企業が行うべきこと
商品売買取引の処理を三分法で行っている場合のように、商品を売り上げたときに顧客に引き渡した商品の原価に関する記録を行う必要がない場合は、次のプロセスによって会計期間中の商品の払出原価の総額をまとめて求めてしまうことができます。この方法は、期末に商品の実地棚卸しを行って払出原価の計算を行うことから、棚卸計算法とよばれます。
- 会計期間中に記録しておくべきこと
- 商品を仕入れた月日
- 商品の取得原価
- (同種の商品をまとめて複数単位仕入れた場合)仕入れた商品の数量
- 決算にあたって必要なこと
- 期末に保有する商品の数量を実際に数える(実地棚卸)
- 期末商品棚卸高を計算する
- 逆算によって、会計期間中の払出原価(=売上原価)の総額を計算する
設例による解説
【設例】次の商品Xに係る資料に基づいて、当期の商品Xの売上原価を計算しなさい。なお、会計期間は4月1日から3月31日までの1年間である。
1. 期首商品棚卸高:25個、取得原価25,300円
2. 会計期間中の商品仕入高
- 5月15日:20個、取得原価21,500円
- 8月15日:20個、取得原価22,000円
- 11月15日:20個、取得原価22,000円
- 2月15日:20個、取得原価22,200円
3. 期末商品棚卸数量:30個
期末商品棚卸高の計算
この設例の場合、期末商品棚卸高は問題文のなかに与えられていますから、期末商品棚卸高の計算から始めます。先入先出法は、先に仕入れた商品から順に払い出していくと仮定して払出原価を計算していく方法ですので、期末商品棚卸高(まだ払い出されていない商品)は、新しく仕入れた商品から構成されると考えます。
決算のタイミング(3月31日)において最も新しく仕入れた商品は2月15日に仕入れた商品ですが、2月15日に仕入れた商品の数量は20個であり、期末商品棚卸数量30個には足りません。このような場合は、足りない10個を、その次に新しく仕入れた商品、すなわち、11月15日に仕入れた商品からもってきます。その結果、期末商品棚卸高は、次のように計算できます。
- 2月15日に仕入れた商品20個分の取得原価:22,200円
- 11月15日に仕入れた商品のうち足りない10個分の取得原価:22,000円÷20個(11月15日に仕入れた数量)×10個(期末に残っている数量)=11,000円
- 期末商品棚卸高:22,200円+11,000円=33,000円
会計期間中の払出原価(=売上原価)の計算
次に、会計期間中の払出原価(=売上原価)の額を計算します。この企業は、期首に25,300円の商品を保有しており、期中に87,700円(=21,500円+22,000円+22,000円+22,200円)の商品を仕入れました。会計期間中に商品をまったく払い出していなければ、期末には113,000円の商品があるはずです。期末に33,000円しか残っていないということは、差額の80,000円(=113,000円-33,000円)が払い出されたということになります。この払出原価の計算式を一般式の形で示すと、次のようになります。
払出原価:期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高
なお、この方法で払出原価を計算した場合は、この払出原価の金額をそのまま売上原価とみなします。会計期間中に払い出された商品のなかには、試供品や見本品として提供されたものがあったり、紛失してしまったり、汚損や破損によって廃棄してしまったりしたものもあるかもしれません。この方法では、期中の商品の払出しの状況を把握していないので、払出原価の全額が売上原価である保証はありません。しかし、払出原価の大部分は売上原価であると考えられるため、すべてまとめて売上原価として処理してしまいます(参考:継続記録法による場合)。