三分法・売上原価の計算
売上原価を計算する必要性
三分法では、商品を売り上げたときに、その売り上げた商品を売上原価として記録することがありません。企業が商品売買取引を通じて得られる利益の額は、商品の売上高から売上原価を差し引くことによって計算されるため、売上原価の額が決まらないと、どれだけの利益を稼げたかがいつまで経ってもわかりません。
そこで、三分法では、会計期間中ではなく、決算手続のなかでこの売上原価の額を計算するための手続を行います。売上原価の額を計算するための手続には次の2つの方法があり、企業はどちらの方法を選択することもできます。
- 売上原価勘定を使用する方法
- 仕入勘定の金額を修正する方法
売上原価勘定を使用する方法
ひとつめの方法は、売上原価を計算するための特別の勘定(売上原価勘定)を設ける方法です。この方法では、次の3つの仕訳が必要になります。
- 期首商品棚卸高を繰越商品勘定から売上原価勘定に振り替える。
- 当期商品仕入高(純額)を仕入勘定から売上原価勘定に振り替える。
- 期末商品棚卸高を売上原価勘定から繰越商品勘定に振り替える。
会計期間中に売り上げた商品の原価(売上原価)の合計額は、売上原価勘定の残高金額(借方に記録された金額の合計額と貸方に記録された金額の合計額の差額)として計算されます。下の勘定連絡図についていえば、会計期間中の売上原価の額は、借方の合計金額27,000円(期首商品棚卸高2,000円+当期商品仕入高25,000円)から貸方の合計金額(期末商品棚卸高3,000円)を差し引いた24,000円となります。

期首商品棚卸高の振り替え(繰越商品→売上原価)
期首商品棚卸高とは、前期から当期に繰り越されてきた商品(前期の期末商品棚卸高=前期中に販売されなかった商品)の取得原価のことです。この金額は、前期の決算手続において、繰越商品勘定の借方に記録されています(期末商品棚卸高の振り替え参照)。
決算にあたっては、この繰越商品勘定に記録されている期首商品棚卸高を売上原価勘定に振り替えます。具体的には、
- 期首商品棚卸高を繰越商品勘定から取り除く(貸方=もともとの記録の反対側=に記録)
- 期首商品棚卸高を売上原価勘定に記録する(借方=繰越商品勘定に記録されていたのと同じ側=に記録)
ための仕訳を行います。
【例1】期首商品棚卸高2,000円を仕入勘定から売上原価勘定に振り替える。
(借) | 売上原価 | 2,000 |
(貸) | 繰越商品 | 2,000 |
当期商品仕入高の振り替え(仕入→売上原価)
当期商品仕入高とは、当期中に仕入れた商品の取得原価のことをいいます。なお、会計期間中、返品をしたり、値引きや割り戻しを受けている場合は、それらの金額を差し引いた残額(純仕入高)を使用します。この金額は、どちらも仕入勘定に記録されていますから(三分法・期中の取引の記録参照)、売上原価を計算するときは、借方と貸方の差額、すなわち残高金額を使用します。
決算にあたっては、この仕入勘定に記録されている期首商品棚卸高を売上原価勘定に振り替えます。具体的には、
- 当期商品仕入高を繰越商品勘定から取り除く(貸方=もともとの残高の反対側=に記録)
- 当期商品仕入高を売上原価勘定に記録する(借方=仕入勘定に記録されていたのと同じ側=に記録)
ための仕訳を行います。
【例2】当期商品純仕入高25,000円を仕入勘定から売上原価勘定に振り替える。
(借) | 売上原価 | 25,000 |
(貸) | 仕入 | 25,000 |
期末商品棚卸高の振り替え(売上原価→繰越商品)
期末商品棚卸高とは、当期から翌期に繰り越す商品の取得原価のことです。企業が仕入れた商品のなかには、会計期間中(当期中)に販売されずに、翌期以降に販売されるものもあります。これまで2つの仕訳で、前期以前に仕入れた商品の取得原価(期首商品棚卸高。期首商品棚卸高の振り替え参照)と、当期中に仕入れた商品の取得原価(当期商品仕入高。当期商品仕入高の振り替え参照)をどちらも売上原価勘定に振り替えていますが、このなかに、当期中に販売されなかった商品がある場合は、その取得原価を売上原価勘定から取り除かなければなりません。
決算にあたっては、この売上原価勘定に記録されている期末商品棚卸高を繰越商品勘定に振り替えます。具体的には、
- 期末商品棚卸高を売上原価勘定から取り除く(貸方=もともとの記録の反対側=に記録)
- 期末商品棚卸高を繰越商品勘定に記録する(借方=売上原価勘定に記録されていたのと同じ側=に記録)
ための仕訳を行います。
【例3】期末商品棚卸高3,000円を売上原価勘定から繰越商品勘定に振り替える。
(借) | 繰越商品 | 3,000 |
(貸) | 売上原価 | 3,000 |
仕入勘定の金額を修正する方法
もうひとつの方法は、仕入れ勘定に行われている記録を修正することで売上原価を計算する方法です。この方法では、次の2つの仕訳が必要になります。
- 期首商品棚卸高を繰越商品勘定から仕入勘定に振り替える。
- 期末商品棚卸高を仕入勘定から繰越商品勘定に振り替える。
会計期間中に売り上げた商品の原価(売上原価)の合計額は、仕入勘定の残高金額(借方に記録された金額の合計額と貸方に記録された金額の合計額の差額)として計算されます。下の勘定連絡図についていえば、会計期間中の売上原価の額は、借方の合計金額27,000円(期首商品棚卸高2,000円+当期商品仕入高25,000円)から貸方の合計金額(期末商品棚卸高3,000円)を差し引いた24,000円となります。

なお、この方法では、仕入勘定に記録されている当期商品仕入高をそのまま使用するため、当期商品仕入高を他の勘定に振り替える必要はありません。他の勘定への振り替えを行わないだけで、当期商品仕入高も売上原価の計算に使用されますから、この方法によって計算される売上原価の額も、売上原価勘定を使って計算した売上原価の額と変わりません。
期首商品棚卸高の振り替え(繰越商品→仕入)
決算にあたっては、繰越商品勘定に記録されている期首商品棚卸高を売上原価勘定に振り替えます。具体的には、
- 期首商品棚卸高を繰越商品勘定から取り除く(貸方=もともとの記録の反対側=に記録)
- 期首商品棚卸高を仕入勘定に記録する(借方=繰越商品勘定に記録されていたのと同じ側=に記録)
ための仕訳を行います。
【例1】期首商品棚卸高2,000円を仕入勘定から売上原価勘定に振り替える。
(借) | 仕入 | 2,000 |
(貸) | 繰越商品 | 2,000 |
期末商品棚卸高の振り替え(仕入→繰越商品)
さきほどの仕訳で、前期以前に仕入れた商品の取得原価(期首商品棚卸高)と、当期中に仕入れた商品の取得原価(当期商品仕入高)が仕入勘定に集まりました。しかし、このなかに、当期中に販売されなかった商品がある場合は、その取得原価を仕入勘定から取り除かなければなりません。
決算にあたっては、この仕入勘定に記録されている期末商品棚卸高を繰越商品勘定に振り替えます。具体的には、
- 期末商品棚卸高を仕入勘定から取り除く(貸方=もともとの記録の反対側=に記録)
- 期末商品棚卸高を繰越商品勘定に記録する(借方=仕入勘定に記録されていたのと同じ側=に記録)
ための仕訳を行います。
【例2】期末商品棚卸高3,000円を売上原価勘定から繰越商品勘定に振り替える。
(借) | 繰越商品 | 3,000 |
(貸) | 仕入 | 3,000 |
これら2つの仕訳を行った結果、当期の売上原価は、仕入勘定の残高金額(借方合計と貸方合計の差額)として計算されることになります。勘定の名前は仕入勘定のままですが、残高金額の意味が「当期中の純仕入高」から「当期中の売上原価」に変わっていることに注意が必要です。