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複式簿記による会計帳簿への記録の基本

設例

現金50,000円を普通預金口座に預け入れた。

構成要素の分析

このできごとは、企業が保有する現金を減少させ、また、普通預金口座の残高を増加させているので、簿記上の取引に該当します。複式簿記による記録を行うにあたって、取引の構成要素を分析すると、次のようになります。

  1. 現金が50,000円減少した。
  2. 普通預金口座の残高が50,000円増加した。

複式簿記では、「どのような財産が、どのようになったか」が記録されます(参考:複式簿記とは何か)。上の2つの構成要素は、一見、どちらも財産の増減に着目したもので、「どのようになったか」がないように思われるかもしれませんが、そうでもありません。2つ目の「普通預金口座の残高が50,000円増加した」という構成要素は、普通預金という財産の変化を意味するだけでなく、現金が減少した後の状況(どのようになったか)も表しています。この取引のように、ある財産が他の財産に形を変えた場合は、それぞれの財産の変化を構成要素として認識することで、自動的に「どのようになったか」を記録できてしまうこともよくあります。

なお、この取引については、「自分のお金を預金口座に預け入れただけなのだから、『現金が減った』ということではないのではないか」と質問されることもよくあります。取引の構成要素を分析するにあたっては、「全体的に見てどうか」ではなく、1つ1つの財産を別々のものとして考えるようにしましょう。普通預金口座の残高が増えたということを無視して、手持ちの現金の額だけに注目して考えれば、この取引はやはり「現金が減少した取引」になります。

各勘定への記録

増減額の記録

まず、現金の動きは、現金勘定に記録されます。現金勘定では、取引による増加額を借方に、減少額を貸方に記録することが決まりになっています。この取引では、現金が50,000円減少していますから、次のように、現金勘定の貸方に50,000円を記録すればよいということになります。

次に、普通預金口座の残高の動きは、普通預金勘定に記録されます。普通預金勘定でも、取引による増加額を借方に、減少額を貸方に記録することが決まりになっています。この取引では、普通預金口座の残高が50,000円増加していますから、次のように、普通預金勘定の借方に50,000円を記録すればよいということになります。

相手勘定の記録

このように、複式簿記では、取引の構成要素が別々の勘定に分けて記録されます。このため、各勘定に記録を書くだけでは、その金額がどのような理由で増減したかが分かりません。そこで、各勘定への記録を行うにあたっては、増減額の記録とあわせて、その理由が分かるような記録を追加で行います。複式簿記では、この企業の財産が増減した理由に関する記録を、取引を記録するにあたって、自分とは反対側に記録が行われる勘定の名前を書くことによって行います。この自分とは反対側に記録が行われる勘定のことを相手勘定といいます。

まず、現金勘定への記録は貸方に行われました。貸方の反対側は借方ですから、借方に記録が行われている勘定が現金勘定の相手勘定です。この取引の場合、それは普通預金勘定になります。この場合、次のように、現金の減少額を記録したのと同じ側(貸方)に、その相手勘定の名前である「普通預金」を記入します。

次に、普通預金勘定への記録は借方に行われました。借方の反対側は貸方ですから、貸方に記録が行われている勘定が普通預金勘定の相手勘定です。この取引の場合、それは現金勘定になります。この場合、次のように、普通預金の増加額を記録したのと同じ側(借方)に、その相手勘定の名前である「現金」を記入します。

仕訳

複式簿記では、総勘定元帳への記録に先立って、仕訳とよばれる作業が行われることがあります。仕訳というのは、取引の構成要素をどの勘定のどちらがに記録するかを、取引ごとに1か所にまとめて記録することをいいます。総勘定元帳への記録とは違い、1つの取引について行われる記録がバラバラにちらばってしまうことがないため、総勘定元帳への記録に加えて仕訳を行っておくことで、どのようなできごとがあったのかを確認しやすくなります。

この設例の取引について仕訳を行ってみると、次のようになります。

(借) 普通預金 50,000
(貸) 現金 50,000

この仕訳は、次のような意味を表します。

以下、複式簿記による記録の方法を学習するにあたっては、原則として、この仕訳の形で各勘定への記録の方法を示していきます。次のステップに進む前に、この仕訳が各勘定に行われる記録とどのようにつながっているのかを繰り返し確認してください。