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商品評価損

商品評価損とは何か

貸借対照表に表示される商品の額は、原則として、期末に保有する商品の取得原価となります。商品売買取引による利益は、商品の販売価額から取得原価を差し引いて計算されますから、当期中にまだ販売されていない商品の取得価額は、会計帳簿上も、その商品が販売される翌期以降に引き継いでいく必要があるからです(参考:売上原価とは何か)。

しかし、期末に保有する商品の時価がその商品の取得原価を下回っている場合、貸借対照表に表示される商品の価額がその時価まで引き下げられることがあります。商品評価損とは、この商品の価額を引き下げたことによって生じた損失の額のことをいいます。

災害等により時価が著しく低下した場合

企業が保有する商品が、天災(地震、大雨など)、火災、倉庫の倒壊などの災害によって、著しく破損または汚損した結果、その時価が取得原価を大幅に下回ることとなった場合は、会計帳簿上、その商品の額を災害後の時価の額まで引き下げます。これは、当期に発生した災害による損失の額を翌期以降に繰り越さないための措置です。この場合、会計帳簿上の商品の価額(帳簿価額)が引き下げられるため、商品の取得原価をその商品が販売されるときまで引き継いでいくことができなくなってしまいますが、当期中に損失が発生していることや、その損失額が分かっているのに、その事実を貸借対照表や損益計算書上に表示しないのでは、その貸借対照表や損益計算書を利用する人々に適切な情報を届けることができなくなってしまうため、原則的な方法は放棄されます。

災害により、当社が保有する商品5,000円(取得原価)について損害を受けた。その結果、この商品の時価は1,000円にまで低下した。

(借) 商品評価損(災害損失) 4,000
(貸) 商品 4,000

なお、商品売買取引の仕訳を分割法(三分法など)で行っているような場合は、前期以前に仕入れた商品の取得原価(繰越商品)と、当期中に仕入れた商品の取得原価(仕入)が別々の勘定に記録されていますから、この場合は、災害による被害を受けた商品に応じて適切な勘定から損失額を差し引きます。

商品の帳簿価額を引き下げたことによる損失額は、売上原価に戻し入れることなく、単独の損失として損益計算書に表示します。災害によって被った損失の額は、毎期、経常的に生じるものではないからです。

商品の時価(正味売却価額)が帳簿価額を下回った場合

商品の帳簿価額の引き下げ

企業は利益を稼ぐために商品を販売します。商品売買取引による利益は商品の販売価額から取得原価を差し引いて計算されますから、商品が取得価額よりも高い金額で販売できると期待される場合は、その商品を保有していることに「利益を生み出す」という価値を見出すことができます。しかし、物価や相場の変動、その商品に係る市場動向の変化などにより、予想される販売価額が商品野取得原価よりも低くなってしまった場合は、かりにその商品を販売できたとしても利益を得ることができません。

企業は、期末に保有する商品についてこのような状況が生じている場合、決算にあたって、会計帳簿上に記録されている商品の価額(帳簿価額)を引き下げることができます(税務上は事前に届け出を行うなど一定の要件を満たすことが必要)。なお、企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」に準拠して行う場合は、商品の帳簿価額を時価から見積直接販売経費を控除した正味売却価額まで引き下げることが強制され、また、「中小企業の会計に関する指針」に準拠して会計を行う場合についても、評価損の額(帳簿価額と時価の差額)に金額的重要性があるときは、商品の帳簿価額を時価まで引き下げることが強制されます。

期末に保有する商品5,000円(取得原価)の時価が4,000円に低下していたため、帳簿価額を正味売却価額まで引き下げることにした。なお、この商品の見積直接販売経費は50円である。

(借) 商品評価損 1,050
(貸) 商品 1,050

上の設例の場合、正味売却価額は時価4,000円から見積直接販売経費50円を差し引いた3,950円になります。商品の帳簿価額5,000円を3,950円に引き下げた場合、商品評価損の額は1,050円(=5,000円-3,950円)となります。

この災害によらない時価の低下による評価損の額は、その金額が多額でなく、毎期、経常的に生じるものである場合は、損益計算書上、売上原価に含めてしまうことができます。この場合、商品評価損勘定に記録された金額は、商品の売上原価が記録されている売上原価勘定、仕入勘定等に振り替えます。この処理は、評価損を会計期間中の(他の)商品の売買から生じた利益の修正(減額修正)として取り扱うことを意味しています。

商品評価損1,050円は、当期の売上原価として処理する。

(借) 売上原価 1,050
(貸) 商品評価損 1,050

切放法と洗替法

商品評価損の仕訳の方法には、切放法と洗替法の2つの方法があります。これら2つの方法の違いは、商品評価損を認識した次の会計期間(翌期)に、切り下げた帳簿価額を元の取得原価に戻すかどうかにあります。なお、災害により商品の帳簿価額を切り下げた場合は、商品自体に問題(破損や汚損)が生じており、時価が回復することはないので、切り下げた帳簿価額を元に戻す洗替法は適用できません。

切放法

切放法とは、期末に切り下げた商品の帳簿価額を元に戻さない方法です。このため、翌期以降にその商品が販売されたとき、利益を計算するために販売価額から差し引かれる金額は、その商品の取得原価ではなく、切り下げ後の帳簿価額となります。この商品を売買したことによる損失の額は、商品の帳簿価額を切り下げたときに計上した評価損の額だけ、本来の損失の額よりも小さくなります。また、販売時に時価が切り下げ後の帳簿価額より高くなった場合(回復した場合)は、翌期に利益が計上されることになりますが、一連の商品売買に係る利益の額は、その利益の額から期末に計上した評価損の額を差し引いた金額になります。

洗替法

洗替法とは、期末に切り下げた商品の帳簿価額を翌期首に戻し入れる方法です。この方法では、商品の帳簿価額の引き下げ、評価損の認識を財務諸表作成のためだけに特別に行われる処理だと考えます。このため、財務諸表が作成された後は、商品の帳簿価額を元の取得原価に戻し、評価損に相当する金額を翌期の収益として処理します。このようにすることで、実際に商品を販売したときに、その利益の額を本来の販売価額と取得原価の差額として計算することが可能になります。

前期末に計上した商品評価損1,050円を全額商品勘定に戻し入れる。

(借) 商品 1,050
(貸) 商品評価損戻入益 1,050