海老原諭ウェブサイト

売上原価対立法

売上原価対立法とは

売上原価対立法とは、商品売買取引の処理方法のひとつで、商品を売り上げたときに、(1)引き渡した商品の払出原価を商品勘定から売上原価勘定に振り替えるとともに、(2)商品の引き渡しによって得られる対価の額を売上勘定に計上するものです。商品売買取引を通じて得られる利益(粗利)の額を計算するために必要な売上高と売上原価が商品を売り上げるつど計上されるため、この利益の額をリアルタイムで把握することができます。

売上原価対立法の仕訳

基本的な処理

商品を仕入れたときの処理

商品を仕入れたときは、その取得原価(購入代価と付随費用の合計額)を商品勘定に記録します。商品勘定は資産の勘定であるためその記録は借方に行います。商品の取得原価は、原則として、その商品を売り上げたときに利益を計算するために使用するため、商品を仕入れたときにその取得原価を費用として処理することはしません(参考:売上原価とは何か)。

商品10個を1個当たり2,000円で仕入れ、代金は引取運賃400円とあわせて掛けとした。

(借) 商品 20,400
(貸) 買掛金 20,400

商品を売り上げたときの処理

商品を売り上げたときは、(1)引き渡した商品の払出価額(払出単価に払出数量を掛けて求めた金額)を商品勘定から売上原価勘定に振り替えるとともに、(2)商品の引き渡しによって得られる対価の額を売上勘定に計上します。売上原価勘定は費用の勘定であるためその記録は借方に行い、売上勘定は収益の勘定であるためその記録は貸方に行います。

上で仕入れた商品のうち1個を4,000円で売り上げ、代金は現金で受け取った。

(借)
(借)
売上原価
現金
2,040
4,000
(貸)
(貸)
商品
売上
2,040
4,000

返品時の処理

仕入戻しの処理(仕入れた商品を返品したとき)

かねて仕入れていた商品を返品したときは、その取得原価(購入代価と付随費用の合計額)を商品勘定の貸方に記録します。なお、この仕訳は、その商品を仕入れたときに行った商品勘定への記録を取り消すために行うものなので、返品をした場合であっても、仕入時の処理がまだ行われていない場合(検収基準により仕入れの処理を行っている場合など)はこの仕訳を行う必要はありません。

商品10個を1個当たり2,000円で仕入れ、代金は引取運賃400円とあわせて掛けとしていたが、品違いのため、この商品すべて返品した。

(借) 買掛金 20,400
(貸) 商品 20,400

売上戻りの処理(売り上げた商品が返品されたとき)

かねて売り上げていた商品が返品されたときは、その商品の払出価額を売上原価勘定から商品勘定に戻し入れるとともに、商品の引き渡しによる対価の額を売上勘定の借方に記録します。なお、この仕訳も、その商品を売り上げたときに行った記録を取り消すために行うものなので、返品をされた場合であっても、売上時の処理がまだ行われていない場合(検収基準により仕入れの処理を行っている場合など)はこの仕訳を行う必要はありません。

かねて売り上げていた商品1個(払出価額2,040円、販売価額4,000円)が返品され、販売時に受け取った代金は現金で返金した。

(借)
(借)
商品
売上
2,040
4,000
(貸)
(貸)
売上原価
現金
2,040
4,000

値引き・割戻しの処理

仕入値引き・仕入割戻しの処理(仕入れた商品について値引き・割戻しを受けたとき)

かねて仕入れていた商品について値引きや割戻しを受けたときは、その商品の取得原価(購入代価部分)が減少したものと考えて、値引きや割戻しを受けた金額を商品勘定の貸方に記録します。

かねて仕入れていた商品について、現金3,000円の割戻しを受けた。

(借) 現金 3,000
(貸) 商品 3,000

売上値引き・売上割戻しの処理(売り上げた商品について値引き・割戻しを行ったとき)

かねて売り上げていた商品について値引きや割戻しを受けたときは、その商品の引き渡しによる対価の額が減少したものと考えて、その金額を売上勘定の貸方に記録します。なお、手元に商品が戻ってきたわけではないので、商品勘定および売上原価勘定の記録を修正する必要はありません。

かねて売り上げていた商品について現金で200円の値引きを行った。

(借) 売上 200
(貸) 現金 200

各勘定の金額の意味

商品勘定・売上原価勘定

売上原価対立法では、商品を仕入れたときにその取得原価が商品勘定に記録され、その後、その商品を売り上げたときにその払出価額が商品勘定から売上原価勘定に振り替えられます。このため、商品勘定の残高金額は、仕入後、まだ販売されていない商品の取得原価(企業がその時点で保有している商品の取得原価)を意味し、売上原価勘定の残高金額は、当期中に販売された商品の取得原価(売上原価)を意味することになります。

売上原価対立法では、商品を売り上げるつど、売り上げた商品の払出価額が売上原価勘定に振り替えられていくため、商品勘定、売上原価勘定にはいずれもその時点の商品および売上原価の状況が会計期間中リアルタイムで表示されます。

 

売上勘定

売上勘定には、商品を引き渡すつど、商品の引き渡しにより企業が受け取る対価の額が記録されていきます。このため、売上勘定には、その時点の商品の引き渡しにより受け取る対価の額が会計期間中リアルタイムで表示されます。

商品の払出価額の計算

継続記録法

売上原価対立法では、商品を売り上げるつど、その払出価額を商品勘定から売上原価勘定に振り替えなければなりません。したがって、会計期間中はいつでも商品の払出価額が分かるように計算をしておくことが必要です。このいつでも払出価額を計算できる形で行われる記録の方法のことを継続記録法といいます。

顧客は商品を何個購入していくかわかりませんから、商品の払出価額は何個購入されても問題が生じないように、商品1つ1つについて計算しなければなりません。主要簿(仕入帳・総勘定元帳)への記録は、企業全体の財産の状況を表す財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)を作成するために行われるため、商品1つ1つの金額が個別に記録されることはありません。そこで、商品売買取引の処理を売上原価対立法で行っている場合には、商品1つ1つの金額をいつでも計算できるように、主要簿とは別に商品有高帳とよばれる会計帳簿を使って記録が行われます。

継続記録法の例

移動平均法

移動平均法とは、商品を新たに仕入れるつど、その時点で保有している同一商品の数量・価額と、新たに仕入れた商品の数量・価額をそれぞれ合計したうえで、その合計価額から合計数量を割ることで商品1単位あたりの払出金額(払出単価)を計算しなおす方法です。この方法では、企業がすでに保有している商品であっても、新しく仕入を行うつど払出単価が変化します。なお、一度、仕入れた商品を返品したり、値引きや割戻しを受けたときも、払出単価の再計算が必要になります(参考:移動平均法による商品有高帳の記録)。

先入先出法

先入先出法等は、同一商品であっても、先に仕入れたものから順に払い出していくと仮定して払出単価を決定していく方法です。このため、同じ商品であっても、仕入れを行ったタイミングによって払出単価が変わることになります。(参考:先入先出法による商品有高帳の記録)。