総記法による商品売買取引の処理
最終更新日:2024年06月15日
総記法とは、商品を仕入れたときその取得原価を商品勘定の借方に、商品を売り上げたときにその商品を引き渡すことによって顧客から受け取ることになる金額を商品勘定の貸方に記録する方法です。商品を仕入れたときも売り上げたときもどちらも商品勘定を使って記録するところに特徴があります。
仕入時・売上時の処理
仕入時の処理
商品を仕入れたときは、商品勘定の借方に、その商品の取得原価を記録します。取得原価とは、商品を販売できる状態にするまでに要した費用のことであり、商品自体の購入価額(購入代価)とその他の費用(付随費用)に分けられます。付随費用には、商品の運送費用、運送にあたって支払った保険料、保管料、関税などさまざまなものがあります。
商品10,000円を仕入れ、代金は引取運賃200円とあわせて現金で支払った。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
商品 | 10,200 | 現金 | 10,200 |
売上時の処理
商品を売り上げたときは、商品勘定の貸方に、その商品を引き渡すことによって得られた、または、得られると期待される金額を記録します。
商品30,000円を売り上げ、代金は現金で受け取った。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 30,000 | 商品 | 30,000 |
総記法では、商品勘定への記録がその取得原価で行われることもあれば、顧客から受け取ることになる金額(販売価額等)で行われることもあります。このように異なる意味を持つ金額が混在して記録されているため、商品勘定の残高金額に特定の意味はありません(商品勘定の残高は、その時点の商品保有高と一致しません)。
返品・値引・割戻の処理
商品の仕入、売上に関する記録が終わったあと、その商品について返品、値引、割戻があった場合は、もともとその商品を仕入れたとき、売り上げたときに商品勘定に記録した金額を修正(減額)します。
なお、返品、値引、割戻の意味は、こちら(三分法による商品売買取引の記事内)で説明しています。
仕入戻し・仕入値引・仕入割戻の処理
仕入れた商品を返品したり、値引・割戻を受けたりしたときは、その返品や値引・割戻によって支払う必要がなくなった(または返金された)金額を商品勘定の貸方に記録します。
かねて掛けで仕入れていた商品10,000円について、汚損があったため2,000円の値引きを受けた。値引き額は、仕入先に対する買掛金と相殺された。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
買掛金 | 2,000 | 商品 | 2,000 |
売上戻り・売上値引・売上割戻の処理
売り上げた商品の返品を受けたり、値引・割戻をしたときは、その返品や値引・割戻によって受け取ることができなくなった(または返金した)金額を商品勘定の借方に記録します。
かねて掛けで売り上げていた商品30,000円について返品を受けた。返品された商品の金額は、得意先に対する売掛金と相殺した。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
商品 | 30,000 | 売掛金 | 30,000 |
売上高・売上原価・売上総利益
売上総利益
総記法では、会計期間中に行われた商品売買取引によって得られた利益の額が、決算のタイミングでまとめて計算されます。この計算は、商品勘定に行われた記録を修正することを通じて行われます。
商品を売り上げたときに商品勘定の貸方に記録される金額(販売価額等)は、その商品の取得原価に、商品を販売した結果、企業が得た利益の額を加えた金額となります。この関係は、次のように利益を計算する式((1)式)を(2)式のように変形することによって求めることができます。
販売価額-取得原価=利益 …… (1)
販売価額=取得原価+利益 …… (2)
商品を仕入れたときは、商品勘定の借方にその取得原価しか記録していません。商品を売り上げたときにその販売価額等を貸方に記録する総記法では、商品勘定の金額を余分に引きすぎてしまっているのです。
そこで、決算にあたっては、商品勘定の残高金額が期末に保有する商品の取得原価(期末商品棚卸高)と等しくなるように、商品勘定の金額を修正します。商品の帳簿残高と期末商品棚卸高との差額は、会計期間中に商品勘定から余分に引きすぎてしまっている金額、すなわち、商品を販売することによって企業が得た利益の額ですから、商品勘定の修正額は、そのまま当期の売上総利益の額となります。
【期中の処理1】商品10,000円を仕入れ、代金は現金で支払った。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
商品 | 10,000 | 現金 | 10,000 |
【期中の処理2】商品30,000円(取得原価9,000円)を30,000円で売り上げ、代金は現金で受け取った。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 30,000 | 商品 | 30,000 |
商品の期末棚卸高は1,000円であった。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
商品 | 21,000 | 商品売買益 | 21,000 |
期中に行われた2つの仕訳で、商品勘定の残高金額は20,000円の貸方残高(=30,000円-10,000円)となっています。商品は資産ですから、残高金額は借方残高とならなければなりませんし、この金額は期末商品棚卸高1,000円とは一致しません。そこで、決算にあたって修正が必要となります。
商品勘定の貸方残高20,000円を、期末商品棚卸高と等しい1,000円の借方残高とするためには、商品勘定の借方に21,000円を追加する必要があります。これが決算時に行われる仕訳の借方側の記録です。
この金額は商品売買によって得られた利益の額を表します。総記法では、この利益の額を商品売買益勘定に記録します。実際、21,000円が利益の額を意味することは、【期中の取引2】において、取得原価9,000円の商品を30,000円で売り上げているところを見れば、正しいということが分かります。
売上原価
会計期間中の商品の売上原価は、商品の在庫および会計期間中の商品の仕入高から次のように計算します。なお、期首商品棚卸高は、前期の期末商品棚卸高と同じ金額になりますから、この計算は、会計期間中の商品仕入高と、各期末の商品棚卸高を把握しておくことで行うことができます。
売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高
なお、総記法では、商品を売り上げたときにその販売価額等を商品勘定に記録してしまうため、商品勘定の残高を見ても、会計期間中の商品棚卸高は分かりません。このため、会計期間中の商品仕入高は、仕入帳などの補助簿を使って、仕訳とは別に管理しておく必要があります。
売上高
会計期間中の商品の売上高は、ここまで計算してきた商品売買益の額と売上原価の額を合計することによって計算できます。
また、会計期間中の商品仕入高と同様に、売上帳のような補助簿を使って、仕訳とは別に管理する方法もあります。