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貸倒処理済みの金銭債権の回収

最終更新日:2024年06月15日

金銭債権について貸倒れがあった後、債権者集会の決議などによって、貸倒れた金銭債権の一部を回収できることがあります。通常、金銭債権を回収したときは、金銭債権(将来に金銭を受け取る権利)が減ったものとして記録を行いますが、このような場合は、貸倒れの処理を行ったタイミングで金銭債権を減らしてしまっていますから、もう減らすものが会計帳簿上に残っていません。そこで、このような場合は、通常の場合とは別の特別な処理が必要となります。

当期中に貸倒処理した金銭債権の一部を回収したとき

当期中に貸倒れ処理した金銭債権の一部を回収したときは、貸倒処理したときに計上した貸倒損失の額を取り消したり、または、取り崩した貸倒引当金を元に戻したりする必要があります。すなわち、回収できた金額だけ貸倒れはなかったと考えるのです。

なお、貸倒処理において、貸倒損失と貸倒引当金の取り崩しを同時に行っている場合は、先に貸倒損失の取り消しを行います。貸倒引当金の取崩額は当期の純損益の計算に影響しませんが、貸倒損失勘定に計上した金額は当期の純損益の計算に影響を与えてしまうからです。実際に損失が生じていない(回収できた)金額について損失を認識したままにすると、当期の純損益計算がゆがんでしまいます。

1. 前期以前に発生した売掛金2,000,000円が貸し倒れた。なお、貸倒引当金が1,200,000円あった。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
貸倒引当金 1,200,000 売掛金 2,000,000
貸倒損失 800,000

2. 1.で貸倒れとして処理した金銭債権のうち100,000円を現金で回収した(1.と同じ会計期間中)。なお、回収した金額は貸倒時に計上した貸倒損失から控除する。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金 100,000 貸倒損失 100,000

前期以前に貸倒処理した金銭債権の一部を回収したとき

しかし、前期以前に貸倒処理した金銭債権の一部を回収したときは、その回収した金額と相殺できる貸倒損失の額がありません。各期に費用として処理した金額は、決算にあたってすべて損益勘定に振り替えられてしまうため、前期以前に貸倒損失とした金額は、当期の会計帳簿上、貸倒損失勘定に残っていないのです。

また、貸倒引当金についても、前期末に保有していた金銭債権について設定されるものですから、前期以前に貸倒処理した金銭債権については貸倒引当金が設定されていません。このため、回収額を貸倒引当金に戻し入れるというのもおかしな話になります。

そこで、前期以前に貸倒処理した金銭の一部を回収したときは、その金額を収益の勘定である償却債権取立益勘定に記録します。収益として処理することで、前期以前の費用(貸倒損失貸倒引当金繰入)として処理された金額が結果的に取り消される結果になります。

1. 前期以前に発生した売掛金2,000,000円が貸し倒れた。なお、貸倒引当金が1,200,000円あった。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
貸倒引当金 1,200,000 売掛金 2,000,000
貸倒損失 800,000

2. 1.で貸倒れとして処理した金銭債権のうち100,000円を現金で回収した(1.の翌会計期間中)。なお、回収した金額は貸倒時に計上した貸倒損失から控除する。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金 100,000 償却債権取立益 100,000

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