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作成した教科書・問題集

『初級簿記教本(第2版)』『初級簿記教本問題集(第2版)』(創成社・2024年)

初級簿記教本(第2版)表表紙

2019年に上梓した『初級簿記教本』『初級簿記教本問題集』の第2版です。『初級簿記教本』は、大学の講義で使用していただくことを念頭に置いて、

ことを意識して執筆しています。

初版上梓後、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、全国の大学ではさまざまな対応をとることが求められました。オンライン中心の講義、柔軟な講義時間の編成など、これまで行われてこなかったさまざまな「改革」がトップダウンで行われることとなり、「教科書」が果たすべき機能について改めて考える機会となりました。

改訂の基本方針

今回の改訂では、このコロナ禍において考えていたことをまとめました。本書の冒頭では、改訂のポイントとして次の3点をあげました。

まず、各節において、本文の内容を理解しているかを確認するための簡単な問題(check)を設けました。長い文章を前にして目が滑ってしまっていたり、集中力が途切れてしまっていたりというのはなかなか自分で気づくことができません。講義中、教員が学生の状況をチェックするためにも、学生が地震の力で「何が分かっていないのか」を見つけるきっかけとしても、このような確認問題は有効であると考えています。

次に、初版以上に「その後の学習」に使える情報を盛り込みました。報告式の財務諸表(貸借対照表・損益計算書)を1つの章でとりあげたのは第2版の大きな特徴です。報告式の財務諸表は、日商簿記検定では2級の出題範囲となっていますが、企業の財務諸表を直接見てその状況を分析するという作業は会計学でも経営学でも比較的早い段階(低学年)から行われています。財務諸表は簿記のなかでも非常に重要なものであり、まずは簿記の講義のなかで説明されているべきものだと考えています。

最後に、本書は、前半14章・後半14章の全28章構成にしました。大学での初学者向けの簿記講義の開講形態はもともと通年であったり、半期であったり、週1回であったり、週2回であったりとさまざまでしたが、開講時間の柔軟化により講義週が15週ではなく、14週となる大学も出てきました。この構成は、どのような開講形態で講義が行われる大学においても章単位で学習を進めることができるベストな構成であると考えています。

なお、第2版では、『教本』の章末問題は削除したうえで、すべて『問題集』に移しました。『教本』の章構成と『問題集』の章構成をそろえ、併行して利用しやすいようにしています。『問題集』では、基本事項を確認できる問題を充実させて、日商簿記検定色が強い問題は削除しました。ややこしい問題に苦手意識をもち、簿記から離れていってしまう学生を減らしたいと考えたからです。

目次

  1. 簿記の基礎概念
  2. 複式簿記による主要簿への記録
  3. 現金・預金
  4. 有形固定資産・消耗品の取得
  5. 商品売買取引の処理①
  6. 商品売買取引の処理②
  7. 消費税、租税公課
  8. 給料の支払い
  9. 資本取引
  10. 試算表
  11. 決算手続①
  12. 決算手続②
  13. 決算手続③
  14. 決算手続④


  1. 現金の管理
  2. 仮払金と仮受金、立替金と預り金
  3. 小切手、約束手形
  4. 電子記録債権と電子記録債務、当座借越
  5. 貸付金と借入金、手形貸付金と手形借入金
  6. 金銭債権の貸倒れ、保証金
  7. 有形固定資産の売却、月次決算を行う場合の減価償却
  8. 第三者から商品の販売代金を受け取る場合の処理
  9. 期末商品棚卸高の算定
  10. 伝票
  11. 決算手続⑤
  12. 精算表①
  13. 精算表②
  14. 報告式の財務諸表

報告式の財務諸表

財務諸表については、第14章(決算手続④)で勘定式の財務諸表(貸借対照表・損益計算書)、第28章に報告式の財務諸表を学習するという形で、報告式の財務諸表まで1冊で学習できるようにしました。

近年では、会計に興味を持ってもらうため、実務とのつながりを意識してもらうためなどの理由で、1年生のうちから実在する公開会社の財務諸表を理解したり、財務分析・経営分析を行ったりする大学もめずらしくありません。公開会社が公表する財務諸表は、基本的に報告式で作成されていますが、報告式の財務諸表は、現在、日商簿記検定では2級の出題範囲になっています。このため、日商簿記検定ベースで学習を進めている大学では、学生達が報告式の財務諸表について学習する前にいきなり「生の」財務諸表に直面する状況になっています。私は、学生が簿記の講義以外の場で見る報告式の財務諸表をゴールにしなければ、簿記の学習が、企業の理解に、また、商学・経営学の学習に役立つと感じてもらうことは難しいのではないかと考えました。

第28章では、報告式の財務諸表における様式だけでなく、貸借対照表については、資産や負債の流動・固定区分の方法と意味について、損益計算書については、段階利益の計算方法とそれぞれの使われ方についての説明を加えました。これらは利用者を意識した会計情報の提供のあり方について考えるきっかけとして、理論科目につなげていくためのコネクタとして使っていただくことを想定しています。

精算表の学習ステップの見直し

精算表は10桁精算表、6桁精算表を作成する第1フェーズ(第26章)と、8桁精算表を作成する第2フェーズ(第27章)とに分けました。

第1フェーズは、精算表の構成を理解するとともに、どこに何を記入するのかを理解することを目的としています。精算表に記入する金額(残高試算表)や仕訳(修正仕訳・決算整理仕訳)はすべて与えたうえで、どこに、何を記録するかだけに集中して学習できるようにしました。

第2フェーズでは、本書で取り上げた決算整理事項を8桁精算表を作成しながら振り返る形にしました。これまでに決算整理仕訳を思い出しながら、第1フェーズで学習した精算表への記入の方法を再確認してもらうことを目的としています。

精算表を作成するには多くのプロセスを経る必要があり、自分がどこにつまづいているのかが分からないと、どれだけ勉強しても、何回問題にトライしてもできるようになりません。第26章・第27章では、この精算表を作成するためのプロセスをできるだけ細かく分けて説明しましたので、つまづいてしまったとき、はまってしまったときは、『教本』を今一度読み直してもらえればと思います。